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子どもたちに未来へ歩み出す力を  

2018年 3月 26日  <16面>

第15回「博報教育フォーラム」
「博報賞」受賞者らが意見交換

第15回「博報教育フォーラム」(主催・公益財団法人博報児童教育振興会)が2月24日都内で開催された。今年度の「博報賞」受賞者による事例発表のほか、「つながりが生みだす 未来への道しるべ」をテーマに、子どもたちの現状や地域の実態に根ざした教育活動のあり方について意見交換を行った。

事例発表1
「その子らしさ」を活かす発達支援〜縦と横の連携を紡ぐ〜
小西 喜朗 甲賀市立甲南中部小学校校長

 地域で通級指導に携わるようになって13年になる。私自身も、学校現場にも学習障害に対する知識と理解が乏しかった頃から、手探りで活動を続けてきた。家庭児童相談センターや大学とも連携して自分なりの指導内容を確立していく中で、私が理解したことを学校現場の他の先生方と共有することが課題だと考えるようになった。
 ある保護者の言葉も、こうした課題意識を持つきっかけになった。「学校では指導内容の品質管理をどうされているのか」と私に問いかけた保護者は、指導が特定の先生に任され、担任が変わると子どもの特性を一から説明しなければならない現状に、不安やいらだちを感じていることを伝えてくれた。
 保護者の願いへの対応策を検討する過程で、「個別教育計画」という考え方を知り、地域の通級指導や障害児学級の担当者、医療関係者らと共に、個別教育計画に基づく連携のあり方を研究してきた。取り組みを地域全体に広げるため、2002年からは文科省の委託研究を活用し、通常学級と通級指導教室の協働について実践研究を行った。こうした活動は地域にも評価され、イントラネット上で個別指導計画を共有する仕組みも整備された。
 学習支援から就労支援まで、生涯にわたって必要な支援を行うためには、多様な関係者が役割分担する「横の連携」と、子どもの成長に応じて支援を継続する「縦の連携」が重要だ。学校でも医療現場でも、各領域だけでは抱えきれないニーズが必ずある。逆に言えば、子どもや保護者が抱く、その時々のニーズに寄り添うことから、必然性のある連携が生まれる。一人一人の成長と自己実現に向かって必要な支援が連鎖するように、地域の関係者の出会いを紡ぐことが私の役割だと思っている。

事例発表2
チーム奥出雲で取り組む「たたら体験学習」〜未来へつなぐ絆とふるさとへの誇り〜
川田 勝巳 奥出雲町文化体験実行委員会委員長

 島根県の山間部に位置する奥出雲町は、古代から「たたら製鉄」の里として知られてきた。地域にはたたら製鉄から生まれた文化や史跡が数多く残っており、「日刀保たたら」の技術を受け継ぐ村下(むらげ・たたら製鉄の技師長)が現在も活動している。
 こうした地域独自の文化を子どもたちにも学んでもらおうと、平成13年に町立馬木小学校でたたら体験が始まった。活動は地域全体に広がり、平成17年には合併後の現奥出雲町の全小学校が合同参加するようになった。活動を継続する過程で学習目標も明確化し、現在は「つなぐ・伝える・表現する」をテーマに実践している。
 今年度は、事前・事後学習の充実、教職員の意識向上、「オール奥出雲」の体制づくりの強化を重点課題として実践した。各校が独自に行う事前学習では、たたら製鉄に関連する「ひと・もの・こと」との出会いを通じて、子どもたちの学習課題の明確化を図った。
 体験学習は3日間の日程で実施し、教職員や村下の安全指導の下、子どもたち自身が炉づくりや砂鉄採集から、ふいごで風を送り込んで砂鉄を溶かす本操業までを行う。事後学習では、子どもたちがつくった鉄塊((かねへんに母)(けら))の各校巡回展示に合わせた保護者や全校児童へのプレゼン、新聞づくり、地域に向けた成果発信などが行われた。
 今後も、新学習指導要領に合わせて各校のカリキュラムに位置付けながら、学習成果の客観的評価や、副教材や資料集の制作などにも取り組み、活動を熟成・継続させていく計画だ。小学生の頃にたたら体験に参加した若者が、このほど村下養成員になったことが話題になった。地域全体で取り組むこの教育活動が、ふるさとを愛し、誇りを持って生きる大人を育ててくれることを願っている。

事例発表3
町を支え、町に支えられて行う、地域貢献の取組み
菊池 一秀 津南町立津南中学校教頭
大平 美佳子 津南町立津南中学校教諭

 津南町は平成15年、周辺自治体と合併せず「自立」を目指す方針を決めた。平成19年、「自分を創り津南を創る子ども」の育成を目指す教育プランが策定されたことを受け、本校では総合的な学習の内容を再編し、キャリア教育の視点も加えて自己と地域のつながりを学ぶものにした。現在は、1年生「地域を知る・自己を広げる(地域調べ、職業調べ)」、2年生「地域と関わる・自己を深める(職場体験、修学旅行での地域PR・特産物販売活動)」、3年生「地域に貢献する・自己を見つめる(地域貢献活動、上級学校調べ)」を学習テーマとしている。
 1年生では、津南町の自然や歴史・文化に関する疑問を出し合い、専門家への取材やフィールドワークを通じて追究していく。個人やグループでの活動の成果は壁新聞にまとめ、地域の方も招いたポスターセッションで発信・交流を図る。2年生は前半に職場体験を行い、後半では修学旅行の訪問先で津南町の魅力を発信する。京都駅前や大阪の商店街で、お米や野菜、お菓子、間伐材を利用して手作りしたコースターなどを道行く人に配布・販売するなどして、津南の良さをPRする。
 3年生は、これまでの学習成果も踏まえ、自分にできる地域貢献を具体化し、実践する。生徒たちは、ひまわり畑を使った迷路づくりの支援、介護や保育施設でのボランティア、地域交流施設での点字ブロック設置などに取り組む。
少子高齢化が進む中で「自立」の道を選んだ津南町にとって、地域の担い手育成は重要な課題であり、学校に寄せる期待も大きい。私たち教職員も地域づくりに関わっているという意識を強く持ちながら、子どもたちと津南の未来につながる実践を続けていきたい。

基調講演
「未来への道しるべ」とは〜一歩先に歩み出すために〜
鹿毛 雅治 慶應義塾大学教授

 本フォーラムのテーマである「未来への道しるべ」について考えてみたい。道しるべとは、目的地への方向と距離を示す指標であり、ものごとの順序や手引きという意味の比喩として使われることもある。道しるべを見つけた私たちは、目指す地点が明瞭化・具体化し、見通しを持って一歩先へ踏み出すことができる。
 目的地への道のりは、一本道でも一方通行でもなく、分岐や回り道がたくさんある。私たちは人生の分岐点を前に立ち止まり、どちらへ進むかという意思決定を行っている。そこで重要になるのが、しっかりとした未来展望を持ってより良い意思決定を下すことであり、一歩先へ歩みだす力となる、希望と意欲を持つことだ。
 意欲とは、意志(やり遂げようとする心理)と欲求(したいと感じる心理)を掛け合わせたもの。例えば学習意欲は、「学びたい、学び遂げよう」という意欲的な体験と、「やって良かった」というポジティブ感情の繰り返しによって高まり、意欲的に学ぶ習慣や態度の形成につながっていく。
 意欲を説明する理論のひとつに、「期待×価値理論」がある。期待(できそうだという主観的見込み)と、価値(やる意味がありそうだという主観的価値づけ)が、動機づけになるというものだ。ポイントは、期待と価値がかけ算であることで、どちらかがゼロだと動機づけもゼロになる。本フォーラムの3つの事例発表では、先生方と子どもたちの双方に、期待と価値のかけ算によって意欲を高めていく姿を見ることができた。

パネルディスカッション
価値ある実体験が子どもの道しるべに

願いや思いに寄り添う意識を
 フォーラム後半のパネルディスカッションおよびグループセッションでは、子どもたちが「道しるべ」を見出すための支援のあり方を探った。嶋野道弘氏(元文教大学教授)がコーディネーターを務め、鹿毛雅治氏、小西喜朗氏、川田勝巳氏、市村直氏(津南町立津南中学校校長)がパネリストとして登壇した。
 それぞれの実践において、何が道しるべになったのかとの問いに、市村氏は「自立の町を目指す行政の方針が転機になり、主体性を育む活動が見えてきた」と話した。小西氏は、「支援を必要とする子どもと親との出会いが全ての源。子どもや保護者・担任の先生のニーズが、チームで家庭を支える仕組みづくりにつながった」と振り返った。
 グループセッションでは、参加者自身の経験も踏まえて、道しるべとはどのようなものかを話し合い、会場全体で共有した。子どもの遊び場づくりに取り組んでいる民間団体の参加者は、「その時々での身近な人との出会いが道しるべになる。子どもたちにとって遊びを通じたつながりも、さまざまなことを学ぶきっかけではないか」と話した。別のグループの小学校教員は、「今回の受賞事例は、自ら道を切り拓いた取り組みと言える。私たちも次世代の人々の道しるべになる教育実践を目指したい」と今後の抱負を語った。
 子どもたちが道しるべを見出すための支援のあり方については、「子どもの潜在能力を顕在化させる手助けが大切」(小西氏)、「本物に触れる体験で、子どもたちの視野と可能性を広げることがポイント」(川田氏)といった意見が出た。市村氏も「価値ある実体験」の重要性を強調したうえで、「身近な地域で生きる価値を子ども自身に見出してほしい」と話した。
 鹿毛氏は、「“〜すべき”といった従来の教育では、道しるべが単なるチェックポイントになりやすい」と指摘。「未来ではなく今を、できないことではなくできることを重視し、身近なものや人との出会いを大切にする活動を通じて、子どもたちに未来への期待と希望を育てることが大切だ」と提言した。
 本フォーラムのまとめとして嶋野氏は、「子どもの“今”の積み重ねが未来へつながっていく。一人一人の夢や目標、思いや願いに寄り添う教育実践に期待したい」と呼びかけた。


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