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「STEM教育」って何? 次の世代を担う子どもたちをどう育てるのか

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特集 教員の知恵袋

日進月歩を続けるITは、私たちの暮らしに欠かせない存在になりました。次の時代はAI(人工知能)が発達し、社会がさらに大きく変化しそうです。子どもたちがそのような時代を生き抜くのに必要とされるのが、科学や技術、工学、数学分野の教育だといわれています。これら4分野の教育でIT化とグローバル化に適合した人材を育てるのが「STEM(ステム)教育」です。次の世代を担う子どもたちを育てるSTEM教育について紹介します。

■発祥の地は米国、IT分野の人材確保が目的のSTEM教育とは

STEM教育とは「Science(科学)」「Technology(技術)」「Engineering(工学)」「Mathematics(数学)」の頭文字を取った造語です。IT分野への人材確保を目指し、2000年代に米国で生まれました。

2006年に当時のブッシュ大統領がSTEM教育強化に向けた10の指針を発表したのち、2009年にSTEM教育の推進を公約に掲げたオバマ氏が大統領に就任、国家戦略に位置づけました。新興国の台頭が進む中、高い技術力を維持しつつ、国のさらなる発展につなげるのがねらいです。

そのために、オバマ政権はテクノロジーを駆使して目の前の問題を解決し、新時代を切り開くリーダーの育成が必要だと訴えました。現大統領のトランプ氏もSTEM教育に年間2億ドルの補助金を出すよう教育省に指示するなど推進に力を入れています。

■世界各国が相次いで導入、日本もプログラミング教育へ

ITが進化し、日常生活になくてはならない存在となるのに伴い、STEM教育は世界に広がっています。

欧州連合(EU)では2007年、政策執行機関である欧州委員会が科学教育の改善を加盟国に要請したほか、2010年には加盟国元首らで構成する欧州理事会が科学人材確保の方針を定めました。中国は国務院が2010年、国家戦略としてイノベーション人材育成に努めることを明らかにしています。日本では文部科学省が2015年、理工系人材育成戦略をまとめ、初等教育で子どもたちに創造性や探求心、主体性を育ませるとともに、高等教育でイノベーションを創出できる人材を育てる考えを示しました。

ITやAI分野で日本発のイノベーションを創出し、苦境が続く日本経済の現状を打開したいという経済界の思いも背景にあるようです。2020年度から小学校ではプログラミング教育が導入されますが、AI時代の必須スキルの基礎を養うねらいが込められています。

・小学校でのプログラミング、本格的理数教育の基礎に

小学校でのプログラミング教育にはさまざまな場面で活用されているITに触れ、プログラミングの仕組みを知るとともに、問題解決に必要な手順があることを教えるという目的があります。

さらに、発達段階でプログラミング的思考を育てることにより、子どもたちの秘めた可能性を発掘し、将来社会で活躍できる人材を養おうとするわけです。文科省は具体的な授業例として、コンピューターで正三角形を描く授業や、電気を制御する機器の仕組みについてプログラミングを通じて学ぶ授業などを挙げています。

文科省は2002年度から理数教育を重点的に進める高校をスーパーサイエンスハイスクールに指定し、後押ししてきました。指定校は204校に上り、初等教育からコンピューターの基本操作を習得させ、本格的な理数教育の基礎とする考えを持っています。

・幼児教室各地で、就学前の教育がブームに

就学前からプログラミングに触れてもらおうとする幼児教室やワークショップが各地で開かれています。例えば、子ども向けプログラミングスクールを開校するヴィリングは、全国約60か所に教室を置き、パソコンに命令を入力してロボットを動かすなどプログラミングの初歩を幼児や小学生に教えています。

家庭で楽しみながら学べるプログラミングトイも相次いで登場してきました。2020年度のプログラミング教育導入を前に、幼児教育市場が一気に拡大しています。

・全国の高校、大学で続々と実践がスタート

STEM教育の実践には大学や地方自治体も動き始めています。

北海道大学は文系、理系を問わず科学リテラシーの養成講座を全学教育科目にしました。大阪府立大学は高校時代に文系だった学生が多い学類向けに数学が現実にどのように活用されているか教える講座を開講。

大阪市教育センターは2017年、プログラミング教育推進ワーキンググループを立ち上げ、教員研修やモデルとなる授業づくりに力を入れています。

また、埼玉大学のSTEM教育研究センターでは、周辺地域の子どもたちに実践的なモノづくりの体験できる場所を設け、STEM教育の内容や指導者の育成方法について研究しています。

・海外ではイノベーション人材育成が国策に

海外ではイノベーション人材の育成を国策と位置づけ、積極的にSTEM教育を進める事例がたくさんあります。このうち、中国の北京市は高校と大学などが連携し、高校生が研究者の下で各自の課題に取り組む計画が進行中です。

韓国では2013年からの科学技術基本計画にSTEM教育を掲げ、初等中等教育から高度な英才教育を実施しています。

シンガポールは全中学生にSTEM教育を提供する組織を2014年に立ち上げました。各校には元エンジニアらが在籍、学校現場で学習支援を進めています。

■ますます高まりそうなSTEM教育の重要性

テクノロジーが今後も進化を続ける中、どの国も新たなイノベーションを起こす人材の養成に躍起になっています。そのために必要なのは、幼児期から大人になるまで一貫したSTEM教育といえるでしょう。STEM教育の重要性はこれから、ますます高まりそうです。

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