こども食堂が担う食育の推進。課題解決に求められることとは
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近年、共働きやひとり親家庭の増加が影響によって「家族で一緒に食事をとる」頻度が減っている家庭は少なくありません。食事を共にしながら交流できる子ども食堂は、食事の大切さやマナーを身に付けながら、地域の子どもや大人たちがつながりを持てる場としても重要な役割を担っています。
今回は子ども食堂がもたらすメリットや事例とともに、新型コロナウイルス感染症の影響を含む子ども食堂の課題とその支援策の必要性について解説します。
広がりを見せる子ども食堂
「子ども食堂」とは、家庭で家族と一緒に食事をとることが難しい子どもに、共食の機会を提供する活動のことです。
その取り組みは全国各地に広がっており、なかには大人が参加できるところもあります。無料または安価で栄養価の高い食事や温かな団らんを提供し、食事をとりながらのコミュニケーションや豊かな食経験によって、食の楽しさや精神的な豊かさをもたらすと考えられています。
各家庭における生活様式が多様になっているいま、子ども食堂は食育を進めるうえで大切な役割を担う活動の一つです。
子ども食堂の運営状況
全国各地で目にするようになった子ども食堂ですが、どのくらいの頻度で開催され、またどのくらいの数の子どもが参加しているのでしょうか。
月に一度のペースで開催されている子ども食堂
平成30年、農林水産省は子ども食堂の運営者を対象として、運営実態や地域との連携状況に関する調査を行いました。
回答した子ども食堂の約半数が月に1回の開催、38.7%が2週間に1回の開催、14.2%が週1回以上開催していると答えました。
開催時間の多くは平日の夜
開催時間については、55.8%以上が平日の夜と回答し、続いて39.1%が土日や祝日の昼間に開催しています。なお、1回の参加者数は平均で子どもが23.7人、大人が14.9人との結果です。
子ども食堂のメリットと各地の事例
子ども食堂は、子どもが栄養のある食事を食べられるだけではなく、食事をしながら交わす会話をとおして、大人とのコミュニケーションや食育を経験する場としての意義があります。
全国に存在する子ども食堂のなかには、献立だけでなく席の配置にこだわったり、食育につながる企画を取り入れたりしているところもあるようです。
子ども食堂がもたらすメリット
多くの子ども食堂では、食に関する知識や体験を提供する食育の取り組みが意識して行われており、家庭での共食が難しい子どもが食育を学べる場となっています。
たとえば、配膳や調理の手伝い、食材の栄養や旬についての説明、食事の際の作法や食べ方について話して聞かせるといった取り組みが行われているようです。
さらに、子ども食堂は生活困窮家庭の子どもへの居場所づくりとしての意義もあります。実際、調査において90%以上の子ども食堂が多様な子どもたちの地域での居場所づくりを意識していると回答しました。
子ども食堂の事例
全国各地にある子ども食堂のうち、ここでは福岡県と長野県の子ども食堂の事例を見てみましょう。
福岡県の子ども食堂では会話が生まれるような環境づくりを
福岡県にある「春日 奴国の里ふれあい子ども食堂」では、地域の高齢者が食事を作り、自宅ではなかなか出てこないようなメニューも登場します。
食事の際は、各テーブルに地域の高齢者やボランティアスタッフが1人以上配置されるよう席を誘導し、親以外の大人との会話が自然に生まれる環境が整えられています。
はじめはあいさつもできなかった子どもが、食堂の高齢者と徐々に顔見知りになるにつれて、「ごちそうさまでした」や「おかわり」などと元気よく声をかける姿が見られるようになったそうです。
長野県では食べ物への感謝の気持ちを教える取り組み
長野県にある「信州こども食堂ネットワーク」では、食への感謝の念を育むことを目的とした企画を取り入れています。
そのほか、「子どもが自分で朝食を用意する」「農作業を行いみんなで一緒に汗を流す」など、各食堂で子どもが食べ物や調理方法への関心を高められるような企画が実施されています。
子ども食堂の課題と新型コロナウイルス感染症による影響
子どもにさまざまなメリットをもたらす子ども食堂には、いくつかの課題もあります。特に大きな課題となっているのは「来てほしい家庭の子どもや保護者に来てもらうこと」「運営費」「運営スタッフの負担」です。
また、子ども食堂の立ち上げに際しては、資金不足が最も大きな課題として挙げられ、次に学校・教育委員会からの協力が得られないことが課題になっています。
課題を解決するためには各機関の連携が必要不可欠に
これらの課題解決には学校・教育機関・行政・民間など、地域全体の連携強化や学校での呼びかけ、子ども支援の担当者に気になる家庭の子どもを連れてきてもらうといった対策が必要です。
感染症問題も今後の課題に
さらに令和2年に限っては、新型コロナウイルス感染症の影響によって活動休止を余儀なくされた子ども食堂が少なくありません。一方で、コロナ禍での失業により収入が減少し、生活に困窮する家庭が増えるなか、これまで以上に子ども食堂が重視されているのも事実です。
厚生労働省は、民間企業や地方公共団体と子ども食堂との連携協力や未利用食材の配布などを推奨。これを受け、多くの子ども食堂が全員で食事をとるスタイルから食材や弁当の配布に切り替えています。
子ども食堂の課題解決のカギとなる連携強化
子ども食堂は、多様な生活スタイルによって孤食になりがちな子どもに、共食によるコミュニケーションや食育を提供するための場として機能しています。全国各地の子ども食堂で、食育の推進を意識した工夫や企画が実施されている一方、来てほしい家庭の子どもの参加率が低いことや、食材提供を含む資金不足などの課題も残されています。
また、新型コロナウイルス感染症の影響による子ども食堂の活動休止や、運営形態の切り替えをサポートする支援策も、今後さらに重要度を増していくでしょう。
子どもたちの食育を促し、地域のつながりの場としての役割も持つ子ども食堂。その課題解決には、学校・教育機関、行政、民間企業、地方公共団体などが子ども食堂との連携を強化し、互いに協力し合うことが求められます。