学校プールを「防災資源」へ ウォーターリリーフを活用した避難所の生活用水確保
10面記事
生活用水浄化装置(ウォーターリリーフ)
生活用水不足が避難所の健康被害を生む
学校は何を備えるべきか
災害時、避難所で最も深刻化する課題の一つが、「生活用水の不足」だ。飲料水は備蓄や救援物資で一定の対応が進む一方、手洗い・洗面・シャワー・洗濯・清掃などに使う生活用水は全国的に整備が遅れ、避難者の健康被害や災害関連死の要因となっている。特に学校が避難所となるケースでは、プールという大容量の水源を持ちながら、活用方法が確立されていない現状がある。こうした課題を解決する手段として注目されるのが、非常用生活用水浄化装置「ウォーターリリーフ」である。ここでは、生活用水不足の実態、ウォーターリリーフの機能と学校施設での活用法、そして学校プールを地域防災資源として再評価する意義を紹介する。
課題:災害時に顕在化する生活用水不足の実態
7月28日に発生した熊本地震では、市内の広範囲で停電が発生し、断水が長期化している。学校を含む避難所では、トイレの使用制限、手洗いの困難、洗濯不可、シャワー利用不可といった生活環境の悪化が深刻化し、避難者の健康維持に大きな影響を及ぼしている。災害時のインフラ復旧では電気・ガスに比べて水道が最も長期化しやすい。今回の熊本地震でも、生活用水の不足が避難所運営の最大の課題として浮き彫りになっている。
事実、内閣府の「平成28年度避難所における被災者支援に関する事例等報告書」では、避難生活で困ったことの第1位が「生活用水」、第2位が「飲料水」とされており、避難所運営における水の確保が生活維持の核であることが明確に示されている。
また、文科省の令和6年調査によれば、飲料水はペットボトル備蓄や給水体制の整備により約80%の学校で確保されている。しかし、入浴・洗濯・手洗い・清掃などに使う生活用水の対策は36・7%にとどまり、他の防災機能と比べても著しく遅れている。生活用水は用途が多岐にわたり、単一の対策では対応しきれないにもかかわらず、全国的に整備が進んでいない。
避難所の“水環境”が健康被害を左右する
生活用水不足は不便さにとどまらず、避難者の健康被害に直結する。手洗いができないことによる感染症リスクの増大、入浴できないことによる体調悪化、洗濯不可による衛生環境の悪化、トイレ利用を避けるための水分摂取抑制による脱水など、過去の災害では水環境の不備が災害関連死の要因となった事例が多い。避難所生活が長期化すればするほど、生活用水の不足は避難者の尊厳と生命を脅かす深刻な問題となる。
だからこそ、飲料水は備蓄水や救援物資で対応し、生活用水は別途供給するという「二層構造の水対策」が不可欠となる。特に学校が避難所となる場合、大量に必要となる生活用水の確保をどう実現するかが、避難所運営の質を左右するといえる。
提案:「ウォーターリリーフ」でプール水を生活用水へ転換
こうした課題を解決する手段として、防災・減災ソリューションを手がけるI・T・O株式会社は、非常用生活用水浄化装置「ウォーターリリーフ」の避難所への導入を提案している。本装置は、避難所となる学校のプール水や、川・池・雨水などを浄化し、洗濯・手洗い・シャワー・入浴などに使用可能な生活用水として供給することができるのが特徴だ。
処理後の水質は、厚生労働省が定める浴槽水・遊泳プール水の基準に相当する。使用する珪藻土パウダーは食品添加物(加工助剤)としても利用されており、安全性が高い。また、珪藻土パウダーの採用により、低ランニングコストでの長期運用を実現した。加えて、塩素消毒を施すことで衛生面の安全性をさらに強化している。
また、稼働に必要な電源は、家庭用電源からポータブル発電機、EV車まで幅広く対応しており、停電時でも稼働できる汎用性を備えている。災害時の電源確保は大きな課題であるが、ウォーターリリーフはその制約を最小限に抑える設計となっている。
実際に能登半島地震では、避難所となった七尾市立小丸山小学校では、同社を含む災害支援チームがプール水を活用。ウォーターリリーフで浄水した水をガス給湯器に送り、仮設シャワーと仮設手洗い場に供給した。供給量は2トン/時に達し、避難者のシャワー利用や感染症抑止に欠かせない手指洗浄など、生活用水の確保に大きく貢献した。
「ウォーターリリーフ」を活用した能登半島地震後の避難所支援事例:七尾市立小丸山小学校
学校プールを“防災資源”として再評価する~数百トンの水源を地域でどう活かすか~

避難所における生活用水の確保には、学校のプール水を利用することが最も有効な手段となる。25mプールは満水で300トン規模の水を備蓄し得る、街中の希少な水源である。防水性能維持やひび割れ防止の観点から日常的に最低限の注水が望まれ、消火用水への転用も想定されている。
しかし近年、老朽化や維持管理負担を理由にプール廃止・縮小の動きが広がっている。教育現場の負担軽減という観点は理解できるが、災害大国日本において数百トン規模の水源を地域から失うことは、防災強化の潮流に逆行する。
断水時のトイレ対策としてマンホールトイレの整備が進んでいるものの、下水道管の被災・詰まりのリスクが高く、稼働には上方から水を押し込む水源が不可欠である。プール水をその水源として活用し、ウォーターリリーフのポンプ・浄化機能を併用することで、トイレ・手洗い・清掃・シャワーなど衛生維持の要を支えることができる。
学校は地域の避難拠点であり、プールは地域の水源として、満水であれば避難者100人が2カ月以上暮らす生活用水を確保できる。こうした教育施設が持つインフラを「防災資源」として再評価し、地域防災計画に位置づけることが求められている。
熊本市の広域合同訓練で示された実装可能性
~TKB48モデルの中核としての生活用水確保~

ウォーターリリーフの実演ブース
ウォーターリリーフは、熊本市が今年5月15~18日に実施した「熊本地震10年事業 TKB48避難所訓練」において、実際の避難所運営を想定した形で披露された。同訓練は、九州各県をはじめとした31の自治体と35の民間企業・団体が参加する大規模な取り組みであり、発災直後の避難所立ち上げを想定した設営・運営訓練が行われた。
訓練の中心となった「TKB48」とは、災害発生から48時間以内にトイレ(T)、キッチン(K)、ベッド(B)を確保し、避難者の心身の負担を最小限に抑えることで災害関連死ゼロを目指す新しい避難所運営モデルだ。衛生・食事・睡眠環境を早期に整えることの重要性が改めて認識され、トイレカー、キッチンカー、居住用シェルター、電源車、生活用水供給設備、通信インフラなどが一堂に集められた。
その中で、I・T・O株式会社とユーティリティ・ソリューションズのブースでは、学校プールを想定した大型水槽に溜めた水をウォーターリリーフで浄化し、生活用水として供給する一連のプロセスを実演した。災害時には飲料水だけでなく、手洗い・洗浄・簡易シャワーなどの生活用水の確保が避難者の健康維持に直結するため、この技術は避難所運営における重要なソリューションとして注目を集めた。
また、熊本市長と福岡市長も視察に訪れ、自治体関係者が熱心に説明を受ける姿が見られた。災害時の水問題は全国共通の課題であり、今回の訓練を通じてウォーターリリーフが避難所の水環境を支える現実的な選択肢として認識され、教育施設を含む地域防災の新たな可能性を示す機会となった。
結論:“生活用水対策”が避難所の質を決める
災害時の避難所運営において、生活用水の不足は避難者の衛生環境、健康状態、そして災害関連死のリスクに直結する極めて深刻な課題である。とりわけ学校が避難所となる日本の防災構造では、学校プールは数百トン規模の水を備える希少なインフラであり、地域の生命線となり得る重要な防災資源である。しかし、その価値が十分に認識されず、活用方法が体系化されていないのが現状だ。
こうした中で、非常用生活用水浄化装置「ウォーターリリーフ」は、学校プールという大容量の水源を、避難所で必要となる生活用水へと安全に転換する実践的なソリューションである。手洗い、洗面、シャワー、洗濯、清掃など、避難者の衛生維持に不可欠な水を継続的に供給できることは、避難所の環境改善に直結する。災害時の水環境が避難者の尊厳と健康を守る基盤であることを踏まえれば、生活用水対策は避難所運営の「必須条件」といえる。
また、学校は本来、子どもたちの学びの場である一方で、災害発生時には地域住民を受け入れる重要な避難拠点としての役割も担っている。近年の大規模災害では、多くの学校が避難所として機能し、地域の安全・安心を支えてきた。こうした役割を踏まえれば、教育環境の充実に加え、防災機能の強化や生活用水確保体制の整備を進めていくことは、学校と地域の双方のレジリエンス向上につながる重要な取り組みといえるだろう。
【熊本・宇城市】井戸水を浄化し、洗濯用水に
「ウォーターリリーフ」による災害支援を実施
今回の熊本地震で断水が続いた宇城市の高齢者施設では、日々の洗濯に必要な水の確保が深刻な悩みとなっていた。職員が仮設タンクから水を運び続ける負担が増す中、「ウォーターリリーフ」の開発会社ユーティリティ・ソリューションズとI・T・O株式会社は、井戸水を浄化し、洗濯機などへ自動送水できる体制を整える支援を行った。そこで、災害時に生活用水を確保する重要性を、現場の声を通して伝える。
大量の洗濯物が発生する現場の負担を軽減
I・T・O株式会社

井戸水を貯水した貯水タンク内の水をウォーターリリーフで浄化
支援を行った高齢者施設は、幸い建物損傷やケガ人はなかったものの、復旧の見通しの立たない断水に見舞われました。飲用水や食料は備蓄で対応できたものの、洗濯や食器洗浄などに必要な「生活用水」の確保が大きな課題となっていました。特に高齢者施設では日々大量の洗濯物が発生するため、給水車で運ばれた水を仮設タンクから容器で運ぶ作業は、職員にとって大きな負担となっていました。
そこで私たちは、自主的に支援を打診。設置されていた仮設タンクの水をウォーターリリーフで浄化・消毒を行い、洗濯機や調理場へ直結して自動送水するシステムを整えました。
これにより、重労働だった水汲み作業が不要となり、衛生環境の維持と職員の負担軽減に貢献しました。ただし、現場からは「もっと洗濯したいが水自体が足りない」との切実な声もあり、洗濯が行える十分な水量の確保が今後の課題です。

水を運ぶ作業が大きな負担だった
被災者のQOL(生活の質)向上に寄与したい
ユーティリティ・ソリューションズ 代表 中根 圭介
地震のニュースを受け、真っ先に頭に浮かんだのは能登半島地震での経験でした。今回も長期断水により生活用水支援が強く求められることが想定されたため、直ちに機材の準備と連携企業との調整を開始。発災から約2週間後の8月11日に現地入りしました。この時点でまだ3千7百人以上(在宅避難、車中泊者数含まず)の避難所滞在者がおり、約3万3千戸が断水中でした。
震源地に近い宇城市周辺では倒壊家屋やブルーシート、応急復旧された道路が目立ち、市民生活の厳しさを実感しました。支援先となった高齢者施設でも断水が続いており、生活用水は玄関横の仮設タンクから施設内の洗濯場や調理場まで手作業で運ぶ必要がありました。若いスタッフが少ない現場での水の運搬による重労働は大きな負担であり、疲労の蓄積による二次災害のリスクも懸念されました。
支援物資が届く「ラスト1マイル」の改善が進む一方、現場では、利用場所までの「ラスト数十メートル」の負担が深刻な課題でした。今回、仮設タンクの水を浄化・消毒し、直接圧送できたことで、この「ラスト数十メートル」の課題を解決することができました。職員の皆様から人手が限られる中での負担軽減に、深い感謝の言葉をいただきました。現場の声に耳を傾ける重要性を再認識した瞬間です。
今回は施設への間欠的な水配給でしたが、今後は避難所となる学校体育館での支援も重要になると考えます。近年は学校体育館の空調整備が進み、避難生活の拠点となることは確実です。学校には300㎥を超えるプールを備える施設も多く、給水車の輸送量を大きく上回る貴重な生活用水資源として活用が期待されます。この貯水を生活用水の水源として有効活用することは非常に合理的です。既存のリソースを賢く活かし、被災された方々や支援現場のQOL(生活の質)向上に寄与できるよう、今後も活動を続けてまいります。


洗濯機や調理場へ直結して自動送水
