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対談 いま教室で必要な「教育の方法と技法」とは

14面記事

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 今号からTOSS(Teachers’Organization of Skill Sharing)会員による連載がスタートする。その第1回として、谷和樹氏(TOSS代表代行)と、向山行雄氏(敬愛大学教授・全国連合小学校長会顧問)の対談をお届けする。TOSSの前身である「教育技術の法則化運動」は「授業に役立つ指導方法」の共有を目的として37年前に発足した。TOSSのこれまでの歩みや果たしてきた役割、今後の課題、学校における働き方改革、また、新型コロナウイルス感染症対策として3月から行われた臨時休校の影響と対策などについて、二人が語り合った。

向山氏 教育課題に量と質の両面で対応を
谷 氏 優れた技術を誰もが使えるように

「名人芸」の技術をみんなの財産に
 谷 TOSSの前身は、向山行雄先生のお兄様で、東京都の公立小学校教諭だった向山洋一代表が1984年に始めた「教育技術の法則化運動」です。この運動で洋一先生は、優れた授業の技術を教師一人の「名人芸」にするのではなく、全国の教師と情報交換することで「共有財産」にしようと訴えました。行雄先生は、当時お兄様が始められた運動について、どう考えていましたか。

 向山 私も兄も1970年代は大田区で教師をしていました。当時は研究授業のために教材開発をして指導案を作っても、参会者の範囲で広まるだけで、それ以上には共有・蓄積されていかないと感じていました。もしかしたら戦前の師範学校制度の方が、よほど先輩たちの知恵や技術が伝承されていたのではないかという疑問も抱いていたのです。70年安保後で、伝統的なものに対して拒否的な時代、兄の中に「生み出したものをどう伝えていくか」という思いが芽生えていったのかもしれません。この運動のすごさは、全国的に展開していくという戦略目標をもって、どういう考えでもどういう思想でも幅広く、ある意味「ごった煮」で受け入れていったことです。全国津々浦々から教育技術を応募できるようにして、教科別、学年別、単元別など、一定の形で整理して、それを見て活用できる仕組みを作りました。実際、運動は全国的に広がり、形を変えて成長していきました。教育技術の蓄積という点で、一定の成果があったと思います。

 谷 それを継承・発展させたTOSSも、教育技術を一定のフォーマットに落とし込み、みんなが同じ形で見て、使えるようにする努力をしてきました。教材・発問・指示・留意点を示すという形です。この形で授業を行えば、重要な事項を落とさず伝えることができる。これまでセミナーや研修を通して多くの教師が腕を磨いてきましたが、インターネットでいろいろな先生の知恵やアイデアを集めようと、「TOSSランド」(https://land.toss-online.com)というサイトも立ち上げました。今後、TOSSがどう研究を続けていけばいいか、もう少し工夫した方がいい点があれば、ご意見をお聞かせください。

 向山 量と質との、二つの問題があると思います。まず、教育内容はたくさんの量があるので、どのような項目、枠組みで整理するかです。教科や領域の切り口もありますし、いじめや不登校の問題、保護者との関わり、新たに導入されるプログラミングの授業など、増え続ける教育課題を整理する必要があると思います。
 もう一つは質です。TOSSにはいろいろな人が参加していますから、紹介する教育技術は玉石混淆です。しかし、利用者は例えばAランクでもCランクでも同じように取り出します。Cランクでも機能しますが、中身の充実、改善、更新は、常に図らなければいけないと思います。

 谷 確かに量と質の両方の担保は、大変難しい問題です。私たちは一応審査しているものの、審査段階では実践して試してみることはできません。今後、質の高いコンテンツを提案するため、どの言葉で検索されたかというデータを機械的に抽出し、よく見られているページやよく検索されている言葉を上位に表示させる仕組みを作ることなども、現実的な方法だと思っています。

行えなかった卒業式のフォローが必要
 谷 今回の新型コロナウイルス感染症の拡大は、深刻な自然災害かそれ以上の影響を与えているのではないかと思います。非常時に学校のミドルリーダーや学年主任クラス以上の人たちが持っていなければならない知識や対応能力について、先生のお考えをお聞かせください。

 向山 東日本大震災の津波で児童・職員が犠牲になった石巻市立大川小学校の訴訟で、学校の防災体制に不備があったとする判決が確定しました。学校にとって非常に厳しい判決で、学校関係者には、自然災害に対する危機管理体制の見直しが求められます。
 感染症では、約100年前に起きたスペイン風邪の例があり、その時は日本国内で約45万人が亡くなったといわれています。医療体制が違うとはいえ、比率を現代の人口にあてはめると、日本だけで100万人が亡くなる計算です。東日本大震災の死者・行方不明者は関連死を含めて約2万2千人です。重大な自然災害と比べても、感染症の犠牲者は桁違いに多い。学校関係者は、災害と同じように感染症の拡大にも備える必要があると思います。

 谷 全国一斉休校により、教科書が終わっていない事例は相当あるのではないかと思います。カリキュラムを補てんするため、学校にはどのような対応が求められるでしょうか。

 向山 自治体によっては、eラーニングを使って授業を行った学校や、ホームページで課題を指示している学校もありました。一定層の子どもは対応できると思いますが、PISA(国際学習到達度調査)で習熟度が低い子どもや、貧困家庭の子どもが重大なダメージを受けるのではと危惧しています。学校は未履修単元がどのくらいあるのか、実態を把握し、改めて教育課程を再編成してほしいと思います。学校再開後、学年に応じて、今回の感染症のメカニズムや予防策などを学ぶ機会を設けることも必要だと思います

 谷 オンラインシステムを使えば、ビデオで顔を見ながら先生が出席を取ったり、課題を送信したり、答えを提出させたりできますね。こういった仕組みは地域による格差が激しく、遅れているところも相当あります。今後、ICT(情報通信技術)活用の重要性が改めて議論されると思っています。卒業式がなくなってしまった地域もあると思います。一生に一回のことなので、子どもたちがかわいそうです。

 向山 未履修の補填といった、教育課程管理も大切です。また、卒業に関わる一連の行事はある意味「通過儀礼」で、その行事を経験することが重要です。卒業式、謝恩会、送る会などを通して、卒業生は保護者や先生方に感謝し、進学を意識するようになります。卒業生を見送る在校生には、上級生になる自覚が生まれます。これは日本の教育の優れた仕組みです。一連の行事を行わないことによる負の影響は、目には見えませんが後でボディーブローのように効いてくる可能性があります。かつて東京大空襲で卒業式をできなかった人たちは、60歳や70歳になってから卒業式をしました。50年経ってもやりたいという、それぐらい強い思いがあるということを、私たちは考えておく必要があるのではないでしょうか。卒業式は、保護者や教師にとっても重要な行事です。保護者は子どもを12歳まで育てた実感がわき、多くが涙します。「おめでとう」と言われて、保護者も一段、飛躍するのです。教師にとっては、命を削って担任してきた子どもたちを送り出す場です。40年間教師をしても、担当学年を卒業させる機会は、何十回もあるわけではありません。なのに、子ども、保護者、教師が努力してきたことを、みんなで喜ぶ場がなくなってしまいました。ですから新年度以降、「どのように子どもをフォローし、進級・進学の自覚を持たせるか」という発想が必要です。

時間のコスト意識を持つ
 谷 国は働き方改革を推進しています。校務の負担を減らすため、ミドルリーダーや学年主任クラスの先生が意識していかなければならないのは、どういった点でしょうか。

 向山 学校全体で、「時間のコスト意識」を持つことが大事だと思います。学校には、わら半紙は裏表を使うというような物のコスト意識はありますが、時間は無尽蔵だという風潮がまだ続いています。寝る間も惜しんで研究することが美徳とされてきましたが、意識を変えていかなければならないでしょう。時間のコスト意識があれば、決められた時間の中でどれだけの成果を生み出せるか、会議でどういった意思決定ができるかを、もっと見直すようになると思います。

 谷 先生が泰明小学校長時代に出された「時間投資対効果」には、「20名の職員が60分の会議をすると、その間に掛かる人件費は約10万円。集まったからには10万円の価値を生み出さなければならない」とあります。一方、学校では管理職が「帰りなさい」と声を掛けても、タイムカードの記録上は帰ったことにして、実際は残業している先生も多いと思います。どうすれば先生方自身の働き方の意識を変えていけるでしょうか。

 向山 遅くまで残るのには、いくつか理由があると思います。一つは物理的に仕事が終わらないから。どうしたら無理、無駄をなくせるかを考え、業務を平準化できないか、検証する必要があります。二つ目は、職場の同調圧力です。熱心だと言われている学校ほど、帰れない雰囲気があるのかもしれません。三つ目は、手続きに時間が掛かるからです。管理職に意思決定を求める時、ハンコをたくさん押さないといけないなど、合意形成をするために時間が掛かる。四つ目は、先生同士で切磋琢磨するからです。小学校では授業がうまく、子どもに人気がある人が、中学校では部活動に熱心な人が力を持ちます。学校では何を言うかよりも誰が言うかで決まるのです。そういう人になりたくて頑張ってしまう。

 谷 学校の仕事でいらないと思うものはありますか。例えば、登下校指導。これは勤務時間外ですが、過疎地など、地域によっては、なくしにくい事情もあります。

 向山 いらない仕事は学校によってそれぞれだと思います。登下校指導も地域によります。私が全国連合小学校長会会長の時、栃木県で小学校1年生の女の子が殺害される事件がありました。事件直後、栃木県の学校はみんな大変な思いをしてパトロールを行っていました。通学路には危ないところが多く、保護者にとっては先生が巡回してくれることが安心につながったのです。日本の教師が信頼されてきたのは、家を出てから学校に着くまで管理しているからです。学校の働き方改革について議論した中央教育審議会は2017年、登下校に関する対応は「学校以外が担うべき」とする考えをまとめました。ですが、一つの事件や事故で国民の不安は一気に高まりますので、中教審が言うようにできるのかは難しい面もあります。

 谷 保護者対応もなかなか難しいと思います。学校には午後5時以降も電話が掛かってきますし、対応に時間が掛かることもあります。東京近郊では決まった時間以降は留守番電話メッセージを流して電話を取らないところもあると聞きます。米国では資格を持った電話対応専門の職員がいるそうです。

 向山 銀行や役所のように学校も開館時間を明示したり留守番電話にしたりしていいと思います。メールやインターネット上の掲示板などにメッセージを送ってもらう方法もあります。働き方改革の流れで国民的な合意は得られてきて、理解を得やすい環境になっていますから、今、一気に打って出るべきです。
 ただ、学校からの連絡については、プリントを見て保護者と子どもが行事の情報を共有して会話をすることもできるので、紙とデジタルの両方の良さをいかしていくといいと思います。戦略的広報として、校長先生は読ませる文章を書くべきだと思いますが、そういう折々のメッセージは紙のほうがいいでしょう。

 谷 向山行雄先生には俯瞰的な立場から、私たちの気が付かない点を指摘していただきました。もっと日本の教育の充実を図っていきたいと思いました。また、TOSS代表代行の立場としては、TOSSの活動ももっと進化させていきたいと改めて強く思いました。

子どもにとって価値ある教師になる
そのしくみをTOSSは一貫してつくってきた
向山 洋一 TOSS代表・日本教育技術学会会長

どの子も大切にされなければならない。一人の例外もなく
 「子ども」とは勉強のできる子たちだけではない。勉強のできない子、家庭的に恵まれない子、発達障害のある子…。そういった子どもたちこそ、より一層大切にされなければならない。
 しかし、こうした理念だけでは、子どもにとって価値ある教師になることはできない。具体的な教授行為、その一つひとつの技術、技能をこそ、実際に向上させていく必要がある。

技術・技能を日々研鑽し、情報をリアルに共有化する
 技術を学ぶためには、分かち伝えるための「フォーマット」が必要である。その中心は、「教材と発問・指示と留意点」である。このフォーマットは、今は「TOSSランド」というサイトに受け継がれている。
 また、技能を修練する一つの目安としてTOSSは「TOSS授業技量検定」という検定制度をつくった。
 こうした技術・技能の研鑽が教師修業の基本である。
 さらに、教師の仕事は、変化の連続である毎日の中にある。子どもたちのトラブル、保護者への対応、今回の新型コロナのような事態にも備えなければならない。
 そのため、高度な専門職としてのネットワークが必要と考えた私たちは、独自の教員専用SNSを構築した。毎日毎日、数多くの情報が、まさにリアルタイムで流れてくる。密度の濃い、ほかでは得難い情報ばかりである。

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