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学校管理下の熱中症ゼロへ!酷暑から子どもを守る機器・飲料類の導入を

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今年も昨年に匹敵する暑い夏が予想されている

 2023年は世界的に気温が上昇し、「史上最も暑い夏」になった。今年もそれに匹敵するような猛暑になる可能性があり、学校現場では子どもたちの命につながる熱中症事故を未然に防いでいく必要がある。そこで、熱中症リスクが高まる梅雨明け後の季節に備えた学校管理下での「暑さ対策」について紹介する。

地球は「沸騰化の時代」へ

 7月の世界的な気温上昇を受け、国連総長が「地球は沸騰化の時代」に入ったと警告し、NASAも「過去最高の平均気温を記録した」と発表した2023年。猛暑によってカナダやハワイでは大規模な山火事が発生し、南米や欧州は激しい熱波と豪雨に見舞われた。日本でも、非常に厳しい暑さが長期間にわたって続いたのは記憶に新しい。最高気温35度以上の「猛暑日」の日数を更新した地域が相次ぎ、それを9月下旬に記録した地域もあった。秋の日本の平均気温偏差は+1・39度で、統計開始以降で最も高い記録となっている。
 その中で、消防庁によれば昨年5月から9月の全国における熱中症による救急搬送人員の累計は9万人を超え、調査開始以降で最も多かった2018年に迫る数値となった。昨年度同期間の救急搬送人員と比べても2万人増加しており、しかも一昨年からは4万人増という異常な増え方を記録している。
 月別では、やはり猛暑日が続いた7~8月に集中しており、その期間の死者数も極端に高くなっている。年齢区分別の救急搬送人員では、少年(7歳~18歳未満)が1割を超え、発生場所別では住居が最も多いが、教育機関も4千件に達している。

今年も昨年に匹敵する暑さに

 このような記録的な暑さを引き起こした要因に挙げられているのが、太平洋の海面水温が高くなる「エルニーニョ現象」だ。7月上旬に始まったこの現象に、人為的な温室効果ガス排出の増加による気温上昇の影響が加わったことが大きいとされている。今後も、この2つの要素が組み合わさることで、より深刻な異常気象が発生する可能性が高いという。
 では、今年の夏はどうかというと、気象庁の長期予報によれば、梅雨が長引き、梅雨明け後は猛暑になると予想されている。その後も、地球温暖化や春まで続いたエルニーニョ現象の影響で地球の大気全体の気温が高くなっているため、厳しい残暑が続き、昨年よりも暑い日が多くなる可能性が高いとのことだ。
 したがって、学校では教職員全体が熱中症の正しい知識を持った上で、「熱中症警戒アラート」を参考に行動制限を図り、暑さ指数(WBGT)計を用いて校内の暑熱環境を「見える化」し、児童生徒に対して適切な熱中症対策を講じていく必要がある。 
 近年では掲示板のように、子どもたちに熱中症の危険度を知らせる装置も開発されているが、今から熱中症対策として効果的な機器や飲料類等を準備し、環境条件に応じて活用していくことが欠かせなくなっている。これは政府の「熱中症対策行動計画」でも推奨されており、データと機器・用品をかけ合わせて、賢く体調管理に努めていく時代を迎えているのだ。

いまだ徹底されてない学校も

 しかし、こうした中でも、猛暑日が予想されているにもかかわらずスポーツ活動や校外学習を実施して熱中症事故を引き起こす学校が毎年のようにあり、いまだ徹底されていない側面があるのも事実だ。例えば、昨年7月に山形県で部活動を終えた女子中学生が、自転車で帰宅中に熱中症の疑いで死亡する事故が発生したが、市教委の会見では「暑さ指数」が測定されていなかったことが明らかになっている。また、こまめに水分補給することは指導されていたが、運動と疲労で体に熱がたまり、脱水症状が進んだことで重い熱中症になったと推察されている。
 8月には北海道伊達市の小学校で、2年生の女の子がグラウンドでの体育の授業後に熱中症の疑いで倒れ、搬送先の病院で亡くなった。この学校も朝に校内の気温を確認しただけで、暑さ指数が原則運動禁止となる31度以上になっていることに気付いていなかった。この日の同市の最高気温は33・5度で、統計開始以降一番の暑さとなっていたが、猛暑になることが稀な地域で、現場の教員の熱中症予防への自覚が身に付いていなかったと言わざるを得ない。
 このような地域でなくても、現在の暑熱環境は従来の常識や経験則が通じなくなっている。したがって、学校の管理職は過去の慣習にとらわれることなく、活動場所ごと、活動時間ごとに暑さ指数を測定して教育活動を制限するとともに、教職員への注意喚起を促して、子どもたちを熱中症から守っていかなければならない。

教育活動を制限する自治体が増加

 一方、猛暑が厳しさを増す中で対策を強化する自治体も増えた。学校管理下での死亡事故が起きた山形県では、暑さ指数が31度以上の場合は原則として活動を中止し、暑さ指数31度未満でも児童生徒の健康観察を行い、適切な対応を取るよう指示した。福井市教育委員会も8月1日、「熱中症警戒アラート」が発表された場合は、原則すべての教育活動を中止するよう市内の小・中学校に通知した。これを受けた中学校では、部活動ができる日でも午前7時~10時半までに活動を制限。運動を20分したら、クーラーの効いた部屋で15分間休憩をとり、水分や塩分タブレットを補給するようにするなど熱中症予防を徹底した。
 だが、2021年に気象庁と環境省が公表した調査結果によると、基本的な対策を含め、何かしらの熱中症対策を実施している教育委員会は8割以上あったが、「水筒・日傘・帽子の許可/推奨」は69%、「部活動の変更・中止」は57%にとどまっている。また、所管の学校向けに熱中症対策ガイドラインを作成している割合も、北海道、四国、沖縄は極端に低い結果となっており、地域ごとの対応にはまだまだ開きがあるようだ。
 さらに、「熱中症警戒アラート」を活用するよう所管の学校に指導していない理由では、「暑さ指数に基づく対応を指導しているため」よりも「気温に基づく対応を指導しているため」の割合が高いといった認識不足が明らかになっている。しかも、中には「何をすれば良いかわからないため」や「担当部署/担当者がいないため」など、危機意識のなさを感じる回答もあった。
 もちろん、学校の管理職は教育委員会からの指導がなくても、主体的に判断して部活動などの教育活動の変更・中止を決定していく必要がある。そのためにも、基本的に熱中症予防について、全教職員で共通理解を図っておくことや、各学校の環境条件に応じた具体的な予防策を決めておくこと、児童生徒自ら熱中症の危険を予測し、安全確保の行動がとれるように指導しておくなど、事前の備えを万全にしておくことが重要になる。

それほど高くない気温でも熱中症に

 熱中症は「暑熱環境にさらされた」状況下でのさまざまな体調不良の総称で、軽症の場合には「立ちくらみ」や「こむら返り」などの症状が起きる。重症になると「全身の倦怠感」「脱力」「意識障害」などの症状が現れ、最悪の場合には死亡することもあるため、決して安易に考えてはならない。
 さらに、熱中症は暑い時期にだけ発生するわけではない。スポーツなど体を動かしているときには筋肉が熱を発するため、それほど高くない気温(25~30度)でも湿度が高い場合には熱中症の危険がより高まる。特に、体温調節が未熟な子どもは夏の初め頃や梅雨の合間など、体が暑さに慣れていない時期に急に暑くなった日や、湿度が高く風の弱い蒸し暑い日に運動をすると、気温があまり高くなくても熱中症にかかる危険性がある。
 近年、学校の管理下における熱中症は、小中高等学校を合わせて毎年5千件程度発生しているが、死亡事故にまで至ったケースのほとんどが体育・スポーツ活動によるものだ。部活動においては、屋外スポーツはもとより、屋内でも厚手の衣類や防具を着用するスポーツで多く発生する傾向がある。加えて、遠足や校外学習など屋外で長時間を過ごすことになる学校行事にも注意を払いたい。
 夏場の気温・湿度の高い時期に運動をすると、発汗によって体から水分や塩分が大量に外に出てしまうことで脱水症を引き起こす。それゆえ、水分を摂るだけでなく、スポーツドリンクや経口補水液によって塩分も合わせて補給させることが重要になる。その上で、首筋や脇の下などを効果的に冷やす保冷剤・氷枕などの冷却グッズも賢く使っていきたい。

教室・体育館の暑さ対策

 普段の学習活動の中での熱中症予防では、室温や湿度を調整して体温を快適に保ち、水分補給をこまめに行うことが重要になる。しかし、老朽化が進む学校施設は断熱や遮熱対策が施されていないため、夏季はエアコンを稼働しても室内の気温が30度以下に下がらないケースも珍しくなくなっている。このため、遮光カーテンを取り付けたり、換気扇やサーキュレーター等と併用して空気を循環させたりする必要がある。また、風通しの悪い古い教室はエアコンを稼働することで乾燥が進み、夏場でもかくれ脱水になりやすいため、授業中でも持参した水筒でこまめに水分補給を摂ることを認める配慮が必要になる。
 空調整備率がいまだ15%と遅れている体育館などの屋内運動場は、夏場は蒸し風呂のような暑さになり、使用を控える学校も現れている。それゆえ、熱中症対策として大型扇風機やスポットエアコンの導入が進んでいるほか、工場などで使われることも多い直進性の高い風を送れる「送排風機」や、屋外の空気を冷風にして送風できる「気化式冷風機」などの需要も高まっている。
 体育館は、災害が発生した際には地域の避難所になる。防災機能を強化する上でも、これらの設備を早期に手当てしておきたい。

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