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思考・判断・表現力の評価へ工夫進む 令和5年度共通テストの分析報告書

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 大学入試センターは6月30日、今年1月に実施した令和5年度大学入学共通テストの分析報告書を公表した。得点調整が行われた理科に対しては問題量などの改善を求める意見が上がったが、他教科では適切とされた。「思考力・判断力・表現力」を評価するため、題材や出題形式の工夫が進んでいることも指摘された。

 分析報告書は高校の教科担当教員による外部評価と、教科団体の意見、それに対する問題作成委員による自己評価を載せている。外部評価では出題範囲や問題の題材、難易度などを分析し、4段階で評価した。大部分は4(適切である)とされるが、得点調整を実施した科目などには厳しい評価が付くこともある。

情報量の多さ、改善求める
理科

 外部評価で、「生物」の難易度の適切さが最も低い「1」と評価された。今年の「生物」の平均点は、センター試験時代を通じて過去最低を2年連続で更新。「生物」を含む理科(2)で得点調整が行われていた。得点調整前で39・74点。理科で最も得点の高かった「物理」との間には23・65点の差があった。
 外部評価では、理科の難易度について「背景や設定の情報量が多く、それらを理解するための時間や労力がかかり過ぎ、思考する時間が十分に確保できなかった」と指摘。総合評価でもこうした理由から「受験者の学力を適正に評価できたとは言えない」として2の評価を付けた。
 各問の分量や難易度では、遺伝の計算や実験考察などを題材にした第5問について言及。内容の難しさ以上に、場面設定や出題形式が複雑で正答率が低かったなどと指摘した。複雑な思考が必要な小問では、受験者がじっくり考察する時間を与えるため選択肢を減らすべきだと求めた。
 これに対し、入試センターの自己評価では、暗記重視から思考力重視の学習への転換を促す共通テストの狙いを踏まえ、問題のストーリー性を重視したり、初見の題材に丁寧な説明を行ったりした結果、分量を抑えることができなかったなどと分析。今後、分量や難易度に一層の注意を払うとした。

幅広い題材、本物らしさ意識
英語(リーディング)

 英語(リーディング)も平均点が大幅に下がった。昨年度は61・80点で、令和5年度入試は53・81点だった。ただ、外部評価では「外国語の知識を実際のコミュニケーションにおいて目的や場面、状況などに応じて活用できるかを評価するテストとして適切」と総合評価で4を付けるなど高く評価。事実と意見を整理しながら読む問題や、複数の情報から要点や書き手の主張を読み取り比較する問題など「思考力・判断力・表現力を測る問題となるよう工夫されている」とした。
 一方、各問では、「やや難度が高い」と指摘された問題も多かった。
 例えば、第1問Bのサマーキャンプの勧誘のウェブサイトを読んで問いに答える問題。文章量の多さや複数の箇所に注目して共通点を見つけることが求められる点が難しかったと指摘された。
 第6問Aは収集についての記事を読み、要点をまとめたメモを使って発表する場面設定。受験者は3ページにわたる約630語の文章を読み、メモの要点を完成させる。特に難易度が高かったとされた。
 問題の題材は、芸術鑑賞や買い物、生徒会活動といった受験者に身近なものから、アカデミックなものまで幅広い話題が取り上げられた。また素材はウェブサイト、リポート、ニューズレター、ブログなど「本物らしさ」が意識されていると評価された。

ボールの軌道考察は「良問」
数学

 平均点が過去最低だった昨年から例年並みに戻ったのが「数学I・A」。昨年度37・96点から今年は55・65点と、ここ数年続いている50点台に戻った。入試問題は外部評価委員から「基本~標準的な難易度で構成されている」などと分析され、出題範囲や設問内容も適切だったとされた。
 「数学I」でも出たバスケットボールの軌道を2次関数でモデル化した第2問の(2)。異なる二つの放物線からシュートの高さについて考える問題などが出題された。
 外部評価では「日常生活の事象を数学化し、問題解決の見通しを立てる力を問うている」「思考力・判断力・表現力等に焦点をあてた良問」などと評価された。
 また、総合的にも「数学的な問題解決の過程を重視し、問題作成方針に合致」しているとして授業改善への示唆を与えるものだと指摘した。
 一方、分量を巡り意見も付いた。「事象を数学化する部分の文字量がやや多く、受験者が問題場面の理解に時間を要してしまう可能性がある」として一部に改善を求めた。教科団体からも「問題文や図表の量がやや多かった」とされ、日常の事象を扱う場合は、思考の時間が十分に確保できるよう求めた。

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