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能登半島地震から見えた避難所の課題

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寸断された道路により支援が遅れた

災害発生時と長期化、二段構えの備えを

 年始に震度7の揺れを観測した令和6年能登半島地震では、公・私立含めて約千校が被害を受けたものの倒壊した校舎はなく、改めて耐震化対策の重要性が認識された。他方、学校施設を含む避難所では、停電・断水の日数が経過するほど暖房の確保やトイレ不足を訴える声が相次いだ。そこで、今回の震災から見えてきた避難所における課題から、今後進めるべき防災対策について紹介する。

道路の寸断や通信途絶が支援活動に影響

 今回の能登地方を震源とする大地震では、周りを海に囲まれた半島という立地の中で基幹道路の寸断や配電設備の損傷が起きたことにより、支援や復旧の手配が思うように進まず、多くの地域で停電や断水が長引いているのが特徴だ。石川県では地震発生時に最大約4万戸が停電し、1月23日時点になっても約5千戸が復旧しておらず、断水も約4万6千戸あまりで続く事態となった。
 道路の寸断や液状化は、避難所などへの支援品の供給遅れも招いた。燃料が届かずに被災者が暖を取るのに苦労したり、限られた食料品を少しずつ分け合ったりして持ちこたえたりする日が続いた。また、災害発生時の初動対応では通信インフラが途絶したことで、安否確認や各地の被害状況の把握が困難になった。
 今回、予想以上に通信途絶が長引いた理由は、土砂崩れなどが多く発生した結果、基地局とそれを集約する局舎をつなぐケーブル回線が切断されたことが大きい。通信各社は移動基地局車や可搬型発電機等を被災地に送って応急復旧に努めたが、通信状況が回復するまでに3週間近くを要した。
 その中で、KDDIは国内の災害現場で初めて、衛星インターネットサービス「スターリンク」をバックホール回線として利用する衛星アンテナを医療施設や避難所などに設置し、通信の復旧に努めたことがニュースになった。高速かつ安定した通信を提供でき、設置も容易にできるのが特徴で、今後の対策として希望が持てる事例といえる。

県内の小中学校71校が学校再開に遅れ

災害時には避難所を担う学校施設

 学校活動への影響も甚大だ。文科省の発表によれば、人的被害や建物の倒壊は報告されてないものの、国公私立合わせて約千校の建物が、がけ崩れ、敷地内亀裂隆起、校舎壁ひび割れ、ガラス破損、エキスパンションジョイント破損など、なんらかの物的被害を受けている。
 しかも、指定避難所として使われている学校もあるため、石川県内の公立小中学校の25%に当たる71校が3学期開始の9日以降も休校を余儀なくされた。したがって、学習機会を確保することを目的として、文科省では地震で被害のあった地域向けに、民間企業が無償提供する動画教材等のコンテンツのリンク集を公開したほか、輪島市など3市町が希望者を募り、子どもたちの県内外への二次避難を進めた。
 また、順次再開したとしても、学校には自宅の被災や余震が相次いだことによる子どもたちへの心のケアが必要になっている。そうした中で、学校再開を支援した岡山県の教育関係者チームや、熊本地震の報告書を活用しながら、学校再開に向けての助言を行った熊本県教育委員会の活動。あるいは、NPOと石川県珠洲市が学校再開に向けた包括的連携協定を締結し、復旧・復興支援のほか、子どもの居場所の確保、専門家を交えた子どものメンタルケアに取り組むといった活動も注目を集めた。

断水の長期化で生活用水が不足

 こうした中で、災害時における避難所機能の課題も次々と明らかになってきた。石川県内では地震発生から1カ月が経過しても、1万人以上が避難所生活を強いられている。しかも、約300か所ある避難所のうち、半数近くが地域住民の運営する自主避難所であり、指定避難所よりも支援が行き届きにくい状況の中で、住民同士の助け合いで生活を守っているのが実態だ。また、全国の自治体では一般避難所に加え、要配慮者を災害時に受け入れる「福祉避難所」の設置が進められているが、「職員が被災して人手を確保できない」「断水で衛生状態が悪い」といった理由で開設できない地域が多くあった。
 中でも今回、上下水道が損害を受け、給水車の派遣が遅れた避難所で問題となったのが、生活用水がひっ迫したことだ。備蓄した水が途切れると、命を守ることはもちろんトイレや手洗いにも困るようになり、衛生環境が悪化して、新型コロナやインフルエンザ、ノロウイルスなどの感染症がまん延したところもあった。とりわけ、トイレが不衛生だと使用を控えようと、水分の補給や食事の量を減らすことで脱水症状を引き起こす可能性があるなど、災害時のトイレ問題は長期化するほど被災者の心身の健康への影響が大きくなる。

どこでも起きる断水被害に向けたトイレ対策

 災害時に重要となるトイレの確保については、各避難所の想定避難者数に合わせて携帯トイレや簡易トイレの配備を行うことと併せて、なるべく多くの災害用マンホールトイレを整備していく必要がある。下水道管路にあるマンホールの上に簡易な便座やテントを設けてトイレ機能を確保する災害用マンホールトイレは、仕切弁がマンホールと一体化しているため地震に強く、断水時でも一定期間貯留できる。しかも、雨水やプール水を使って下水道管に流したり、貯留したし尿を汲み取りして処理を続けていったりすることができるため、衛生的なトイレ環境が保てるのが特長だ。
 今回の震災では避難所等に迅速に駆け付けられるトイレトレーラーも活躍した。1月9日時点で全国の自治体から8台が現地の避難所等に到着。避難所では仮設トイレを設置するところもあるが和式が多いため、ふだん使い慣れた洋式トイレが使用できることも喜ばれたという。
 東日本大震災では約250万戸、熊本地震では約45万戸が断水した。厚生労働省によれば、2020年時点で基幹管路耐震適合状況は約40・7%、浄水施設の耐震化率は約38%、配水池の耐震化率は60・8%とわが国における水道施設の耐震化は遅れている。となれば、今後、どこかで大地震が起きるたびに同じような断水被害に見舞われることになると予想される。

停電時の備えをどうするか

 避難所となる学校体育館の大半は空調が未設置であるとともに、断熱性も確保されていないため、災害が起きるたびに被災者の暑さ寒さ対策が問題になる。こうした中で、まさに寒冷期に起きた今回の震災でも、主流となっていた灯油ストーブの燃料や毛布等が不足した避難所も多くあり、電気が使えない生活環境での寒さ対策が課題になった。また、調理もできないため、炊き出しなどの支援が入るまで温かな食事を摂れない状況が続いた避難所もあった。したがって、理科の実験器具として常備している学校も多いガスコンロで代用したり、体育館などにLPガスを備蓄しておいたりして、万が一の備えを想定しておくことが大切になる。
 また、夏季に避難所を開設する場合を考えて、スポットクーラーや大型扇風機、サーキュレーター等の整備も大事になるが、電気が途絶した場合に備えて可搬型または据付式の非常用発電機、EV自動車などを整備しておくこと。太陽光発電設備がある場合は、停電時においても自立運転できる機能や蓄電機能を備えておくこと。さらに、今や生活インフラとして欠かせないスマートフォンが充電切れで使えなくなることは、避難者の不安やストレスがたまりやすくなるため、ポータブル蓄電機なども備えておきたい。

脆弱な避難所の生活環境

 高齢者が多い避難所の生活が長期化するほど懸念されてくるのが、災害関連死につながる健康問題といえる。熊本地震では死者276人のうち、災害関連死が221人に及び、その大半が70歳以上だった。このような事態を防ぐためには、医療の助けが必要になる手前の段階で工夫や対策を講じ、被災者の生活環境を改善する必要がある。
 その一つが寝床対策だ。土足が禁止されていないことも多い中で、体育館の床にマットを敷いて雑魚寝をしている状況では落ち着いて過ごすことができないばかりか、土埃等が舞うことで感染症リスクも上がる。それゆえ、簡易ベッドのようなものを設えて快適性や衛生環境を高める必要がある。
 中でも、比較的コストが安く調達でき、工具を使わずに簡単に組み立てられるのが段ボールベットだ。今回の震災時には、群馬県や宮城県大崎市・富谷市などが段ボールベッドを石川県に送り、各避難所で活用された。床から一段高く設置できるため、寒さを防ぎやすくなり感染症の予防にもなる。加えて、高齢者でも無理なく起き上がれ、行動しやすくなることで運動機能の維持・回復やエコノミー症候群を防ぐ効果があるとともに、安心して寝られる段ボールベットを備えることで、自発的な避難が増えるという利点もある。
 学校体育館を避難所とする場合は、要介護者等にとって重荷となる段差の解消やスロープの設置などのバリアフリー化も進めておかなければならない。おりしも今回の災害時は、空調が備わっている教室棟も開放するケースが目立ったが、高齢者が手すりの付いていない階段を何度も昇り降りする様子が垣間見られた。

長期化によるプライバシー問題も

 見ず知らずの他人と一緒に生活することが前提になる避難者にとって、最もストレスになることの一つがプライバシーの問題であり、長期化するごとに周囲との軋轢やトラブルが生じ、生活環境を悪化させる傾向にある。それゆえ、間仕切りなどを活用して世帯ごとにある程度間隔をとり、隔離する部屋がない場合は高齢・持病のある避難者の専用スペースを確保するなど、プライベート空間を確保していくことが重要になる。
 残念ながら、災害発生当初、石川県内の避難所ではこうした間仕切りや段ボールベッドが使われているところはほとんどなかった。その後、NPOを始めとした全国からの支援が入ることで、各種素材を用いたパーティションシステムやテントが持ち込まれ、徐々に区画分けが整理されていった経緯がある。すなわち、これからの避難所運営には災害発生時における地域住民を安全に隔離する機能と併せて、そこから生活環境を段階的に向上していく二段構えの運営体制を平時から準備しておくことが大切といえる。
 日本は、地震や台風など自然災害の発生率が高い国だ。それだけに近年では災害被害を防ぐ「防災」だけでなく、災害は起きるという前提のもとで被害を最小限にとどめる「減災」がより重要視されている。こうした観点からも、災害時における地域住民の指定避難所となる学校施設は、「減災」を可能にする機能を一刻も早く確保していかなければならない。

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