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一刀両断 実践者の視点から【第70回】

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「硫酸男」の逮捕

 硫酸男と呼ばれる青年が捕まった。報道では、被害者が敬語を使わなかったり、バカにしたりしたことが、犯行理由としている。このような犯行理由の事件が起こった場合、「防げなかったのか」と、私は学生への講義で必ず問うようにしている。すなわち「私には関係ない。理解できない」で済まさないということである。
 両親が早く亡くなったことは、理由のひとつとは考えられるが、犯行動機とは言えない。大学に進学した後、別の大学に編入したというから向学の意思もあり学力はあるのだろう。今回の犯行は知能犯による行動の結果であり、怨念を晴らすには、ある意味直接的であり、思い込みによるゲームの延長のような幼稚とも思える犯行である。
 この青年には、社会性に含まれるであろう耐性が明らかに欠落していると考えられる。この青年を担任した教員や、ゼミの教授はどのように感じているだろうか。社会性、耐性をどのように学ばせ鍛練したであろうか。人間を育てるのが教育ならば、何を教えようともその根幹の鍛練はせねばならないのである。「あいつ、やっぱりやったか」「まさかそんなこと」と、捉えたか。
 この青年も、最初からこうした恐ろしい犯罪に走ろうと高校、大学に進学したとは思えない。そのような人物にしてしまったと見る視点が必要なのである。いかなる授業もそこに力点を置くべきではないだろうか。そうでない限りこうした犯罪は減少することはない。道徳や倫理やボランティア体験などが形骸化しているとか、軽視されている結果ではないだろうか。
(おおくぼ・としき 千葉県内で公立小学校の教諭、教頭、校長を経て定年退職。再任用で新任校長育成担当。元千葉県教委任用室長、元主席指導主事)

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