日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

産官学と連携した「知のリソース」を教育に

8面記事

ICT教育特集

戸ヶ崎 勤 教育長

エビデンスに基づいた教育にシフト
戸田市の教育改革

 学校現場ではなかなか根づかなかった産官学民との連携を柱にした、埼玉県・戸田市の教育改革が全国的に注目されている。ここではエビデンスに基づいた教育にシフトするためにICT環境の整備を進めるとともに、こうした知のリソースを活用することで、「AIでは代替できない能力」と「AIを活用できる能力」を育成することを目指している。そこで、改革を進める戸ヶ崎勤教育長に話を聞いた。

ICT環境も積極的に整備

変化する社会の動きに学校も対応する
 ―教育長は平成27年の4月に就任以来、これまでの公教育の常識を打ち破るような大胆な改革を行ってきました。
 戸ヶ崎 IoTやAIなどの技術革新が進むこれからの社会は、より一層予測が困難な時代を迎えるといわれています。しかし、だからこそ教育が社会をリードする気概を持つべきであり、教育を充実し質を高めることは地方創生とまちづくりの有効な手段にもなると思っています。その中で、「未来の大人」である今の子どもたちには、人間ならではの感性や創造性を伸ばすAIでは代替できない能力の育成と、AIを活用できる能力、つまり、21世紀型スキル、汎用的スキル、非認知スキルを育成していくことが急務であると考えています。
 問題は、そのスキルを「どうやって育成するか」ですが、戸田市の現状を考えると、都心まで近く、子育て世代が多いといったほかには特徴がない。また、地方のように地域で強固に学校を支える基盤もない。そこで考えたのが、産官学民と連携した知のリソースの活用による授業力の向上でした。しかも、やるならファーストペンギンを目指し、安価で効率的・効果的に、最先端の質の高い教育を提供するというのが、私のポリシーです。
 また、こうした産官学民との連携は、新学習指導要領でも社会に開かれた教育課程として重視されています。外部の人材を活用することによって、学校教育の中にも変化する社会の動きを取り込むことが、子どもたちの主体的な学びや教育現場のよりよい変化に結びついていくと確信しています。

 ―その中で、ICTを積極的に活用する理由は?
 戸ヶ崎 それは、これまでの「経験と勘と気合」に頼っていた教育から、「客観的な根拠」をベースにした教育へとシフトする必要があると考えているからです。そのためにはデータ・サイエンスの知見が大事になることから、全国に先駆けてタブレットや無線LANなどのICT環境の整備も進めました。ここでは、ネットワーク環境を教育専用に切り替えることで教員の使いやすさを向上させるほか、エビデンスベースによる整備の充実を図ることで、教育成果の検証にも活かされるようになっています。同時に、市民にもこれからの教育にICTがいかに大事かということを理解してもらうため、SNSなどを使って情報を発信しています。
 その結果、日経BP社がまとめた「公立学校情報化ランキング2018」でも、関東圏の小学校で1位、全国でも12位にランキングされるなど、国の整備指標にも確実に近づいているところです。

WIN―WINな関係を築く
 ―現在、70社に及ぶ企業と提携を図っていますが、戸田市が多くの産官学と連携できる理由は?
 戸ヶ崎 いちばんの理由は、学校や教室を実証の場(Class Lab)として提供し、成果を還元できる仕組みにしたことが大きいと思います。教育現場と企業がWIN―WINな関係を築くためには教育意思を持って取り組むことが重要です。たとえばプログラミング教育では、学校ごとに連携する企業を変えることで、切磋琢磨できる環境をつくり出しています。また、こうしたライバル関係だけでなく、教材を協力して開発するといった動きも生まれています。
 その上で、大事な視点は教員が丸投げせずに現場の実践者としてプライドを持って関わること。実際、小学1年生がプログラミングしている風景は、企業と連携しなければ不可能であり、まさに教員との間で化学反応が起きているといっても過言ではありません。なお、こうした連携による取り組みは、小中一貫で行うPEERカリキュラムの推進(P=プログラミング教育、E=英語教育(目標は中3で英検3級70%)、E=経済教育、R=リーディング・スキル)でも行われています。
 強調したいのは、全国の教育現場では未だにチョーク&トークの授業が行われていることです。なぜかというと、視聴覚教育の時代からチョークと黒板できちっとした授業ができない教員が、ICTを使ったところでよい授業ができるはずがないと言われてきたからです。そのマインドがICTに置き換わっても続いています。確かにそれも一理はありますが、今のデジタルネイティブな子どもたちに、チョークと黒板だけで興味の湧く授業を行うことは難しいと考えています。むしろ、それができるのはよほど卓越した教員といえるでしょう。

教員のサポートも積極的に
 ―改革を進めるためには、教員のモチベーションを上げることも大事ですね。
 戸ヶ崎 はい。教員の負担が増えてしまっては、改革は実行できません。そのため、平成28年度に文部科学省の委託を受けて、教員の業務改善に向けた「戸田市チーム学校運営委員会」を発足し、教員が子どもと向き合うための時間の確保に向けて動き始めています。具体的には、印刷業務に費やす時間が非常に大きいことが分かったため、超高速ネットワークプリンタや電子ファイリングシステムを全校に配備して業務の効率化を推進。さらに、部活動の時間を制限するとともに、来年度から体育館にも冷暖房設備を整備する計画です。これらに人的なサポートも加え、教員の負担の軽減を図っているところです。

 ―今後に向けた課題や抱負について教えてください。
 戸ヶ崎 課題の1つは、ベテラン教員などの優れた指導の「実践知」や「暗黙知」が可視化されていないことです。こうした世代の大量退職によって、若手が一刻も早く一人前になることが求められる中で、優れた教員の何がすごいのかを定量化し言語化すること。すなわち、「匠の知見」を発見、分析したエビデンスを研究授業や教員研修などに活用し、指導改善に活かしていきたいと考えています。
 もちろん、これを実現するためにはICTを駆使して「教育を科学する」ことが必要ですが、将来的にはEdTech(教育×テクノロジー)を当たり前のように使って、より効率性・生産性を高めていくのが、今の夢です。

ICT教育特集

連載