日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

インフル、ノロ…感染症予防のために今からできる学校現場の対策

10面記事

企画特集

感染症予防特集

 これから冬季にかけて本格的な流行時期を迎えるのが、インフルエンザやノロウイルスによる感染性胃腸炎などの感染症だ。なかでも免疫力の弱い子どもたちをあずかる学校現場では、集団感染する可能性が高くなるため、日頃から健康管理に細心の注意を払い、感染症の予防強化に努めることが求められている。そこで本特集では、正しい予防対策や近年頻発する災害時の感染症対策など、今からできる取り組みを紹介する。

災害やインバウンドで感染拡大も

例年より早いインフルエンザの流行
 今年はすでに例年より1週間早く、2学期が始まると同時にインフルエンザによる学級閉鎖が都内で発生。また、呼吸器系の風邪に近い症状から重症化を引き起こすRSウイルス呼吸器感染症や小児に多い手足口病も増加傾向にあるなど、より一層注意が必要になっている。
 さらに、近年ではほとんどの人が免疫をもたない新型インフルエンザや、1年を通じて注意する必要があるノロウイルスによる集団感染。あるいは、40~50代のワクチン未接種の男性を中心に患者が増加している風疹の流行は、学校の教員にも当てはまる問題だ。
 9月のインフルエンザ患者数は、例年の同時期に比べると約10倍になっており、すでに沖縄県では警報が発令。また、九州の各県、東京都や石川県等で流行が宣言されているなど、今後全国的な流行へと進んでいく可能性が高くなっている。
 このため、厚生労働省は10月4日のプレスリリースで、インフルエンザ流行レベルマップを通した情報提供の開始を早めることを発表したほか、ワクチンの手配も早める動きを見せている。なぜなら、世界的なパンデミックに襲われた2009年以外に、こんなに早く流行の兆しが始まった年はないからだ。したがって、まだワクチンの予防接種を受けていない人は、なるべく早めに受けておくことが賢明といえる。

訪日外国人が持ち込む「インバウンド感染症」
 今年はインフルエンザ以外のさまざまな感染症への懸念も広がっている。その1つは、ラグビーのワールドカップや東京五輪などで訪日外国人が増加する中で、日本で流行していない感染症を持ち込んで日本国内に広めてしまう「インバウンド感染症」だ。
 たとえば、2016年は国内で1万7千人の結核患者が新規に報告されたが、このうち8%が外国生まれの患者で、10年前と比べて約2倍の数になっている。また、2014年に代々木公園から流行したデング熱も、流行国出身の外国人が関与した可能性があると指摘されている。加えて、飛沫感染する髄膜炎感染症にも注意が必要だ。この病気は日本では発生件数が少ないが、アフリカでは毎年乾季に大流行しており、発病すると重篤な症状になり致死率が高い。
 一方、アメリカは昨年10月に訪日を予定する旅行者に「風疹が大流行しているため、渡航を考え直すように」との警告を出すなど、訪日外国人が国内で感染し、海外に広げてしまうケースも考えられる。こうしたことから、厚生労働省では風疹や髄膜炎菌など「事前に受けておきたいワクチン」を公開するとともに、大学など外国人留学生を受け入れる学校が増加する中で、健康面のスクリーニングや一定の予防接種を要求するなどの対応が必要としている。

長期化する避難所生活での感染症にも注意
 もう1つの心配が、記録的な大雨で水害をもたらした台風19号により、東日本や北日本の多くの人が避難所生活を強いられていることだ。こうした災害の後には感染症が流行することが十分に予想される。たとえば、水の衛生が低下することによる下痢症などの水媒介感染症(コレラ、赤痢、腸チフスなど)、避難所による密集した生活による呼吸器感染症や麻疹などの感染症(インフルエンザ、髄膜炎、結核など)だが、すでに福島県いわき市の避難所ではノロウイルスの集団感染が発生している。今後も避難所生活が長期化する地域では、健康面のチェックや衛生的な環境を維持することが必要だ。
 また、ボランティア活動をする人も、がれきや土砂に潜む細菌によってレジオネラ症を起こしたり、作業中のけがによって破傷風に感染したりするため、ゴーグルやマスクなどの事前の備えは必須になる。

予防とともに大切な、発生した場合の初期対応
 学校で発生する感染症を防ぐために重要なのは、

 (1) 「感染症の予防」
 (2) 「感染症が発生した場合にその拡大を防ぐこと」

 だ。
 予防するためには衛生的な環境を維持し、手洗いや咳エチケットの習慣化が最も有効な対策になる。手洗いは殺菌力の高い薬用せっけんや手指消毒剤を使い、手指や手首までウイルスを削ぎ落とすように洗浄して清潔なタオルでしっかりと水を拭き取ること。適当な洗い方では効果も薄れるため、子どもたちには30秒ルールなどで意識づけを徹底することが重要だ。
 また、感染症の拡大を防ぐには、咳やくしゃみなど自覚症状がある場合はマスク着用を徹底すること。特に学校や電車の中など人が密集する場所は飛沫感染しやすいため、注意しなければならない。その上で、大事になるのは感染症患者を早期に発見することで、疑わしいと感じたら速やかに医療機関を受診させるほか、感染者が出た場合は、学校保健安全法に基づいた出席停止期間を順守する措置が求められる。

大規模な食中毒を起こすノロウイルス対策
 一方、ノロウイルスは、ウイルスで汚染された食品、手指などを介してヒトの口から入り小腸の細胞に感染する。感染はごく少量(10~100個程度)のウイルス量で起こり、一度感染した患者でも繰り返し発症・感染するのが特徴だ。
 そのため、学校給食でいえば調理者が感染していた場合は大規模な食中毒を引き起こす可能性があることから、調理者や調理器具などからの二次汚染を防止することが重要になる。しかも、食品に付着しただけで食中毒を起こすノロウイルスは原因の特定も難しく、より慎重な衛生管理対策が不可欠になっている。
 予防としては手洗いを徹底することが大事だが、完全に失活化するためには次亜塩素酸ナトリウムが有効になる。安全性に配慮した市販の殺菌剤・スプレーも発売されているため、トイレのドアノブ、手すり、スイッチなど、人が触りやすい場所の消毒・清掃に活用できる。
 発生したときの感染の拡大防止としては、主管課及び保健所等へ速やかに報告するほか、感染を広げないために発生状況を正確に把握し、経路を遮断すること。また、大事になるのが、子どもなどがおう吐した場合の処理だ。おう吐物を1mの高さから落下させた場合、半径約2mの範囲に飛沫が拡散することを踏まえ、ゴム手袋、マスク、ゴーグルを着用し、ペーパータオルや使い捨ての雑巾で拭きとり、ビニール袋に二重に入れて密封して破棄すること。こうした拭き取り時にウイルスに接触する危険性が高くなることから、慎重に処理することが望まれる。

下痢やおう吐、発熱による脱水状態に経口補水療法を
 さらに、感染症で注意したいのは、下痢やおう吐、発熱によって脱水状態に陥りやすいことで、特に子どもは体内の水分量を調節する機能が未熟なため、より一層配慮する必要がある。また、知識として知っておきたいのが、水だけでは体の塩分濃度が薄まり、脱水がうまく改善しないことだ。
 そこで、有効なのが水に塩分などの電解質と糖とがバランスよく配合されている経口補水液(OralRehydration Solution;ORS)を飲むことで脱水状態を改善させる、経口補水療法(Oral Rehydration Therapy;ORT)だ。
 欧米では小児急性胃腸炎の初期治療にORSを使用する診療ガイドラインが確立していたが、日本でも一昨年にガイドラインを発表。ORTは軽度から中等度の脱水状態の初期治療としては、点滴よりもORSによるORTが推奨されるとした上で、欧米の勧告レベルに合致する経口補水液として大塚製薬工場の「オーエスワン」が紹介されている。
 現在はさまざまな医療現場で活用されているほか、一般の方でもドラッグストアや調剤薬局などで購入できる。学校でも夏場の体育やクラブ活動の熱中症対策として保健室等に常備するところが増えているとともに、特にゼリータイプは高齢者でも飲みこみやすいため、災害時は避難所となる学校の備蓄品にも向いている。

思いもよらぬ感染症が日本で流行する可能性も
 世界がグローバル化する中で訪日する外国人が年々増加している。来年には東京オリンピック・パラリンピックも控えているなど、思いもよらぬ感染症が日本で流行する可能性も否定できない。また、地震だけでなく、近年は台風やゲリラ豪雨によって多数の避難者、帰宅困難者が発生する災害が起きている。
 こうしたなか、学校という集団生活の場での感染症の発生は規模が大きくなるため、未然に防止することが大変重要になる。特に、抵抗力の弱い児童生徒の年代では重症化するケースが考えられるからだ。
 したがって、学校現場においては教員1人ひとりが感染症に対する正しい知識を持つとともに、疾病の流行状況の変化などの情報を把握しておくこと。その上で、学校全体で子どもの健康チェックや家庭に向けた啓発に力を注ぐほか、適切な衛生製品を常備・活用し、予防や感染拡大に対処していくことが必要になっている。

企画特集

連載