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【寄稿】オンラインゲーム・スマホ依存への危機感

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島崎 由美子さん

 オランダで長く暮らしてきたフリーライターの島崎由美子さん(元薬剤師)から、「青少年のオンラインゲーム・スマホ依存への危機感」についての寄稿が届いた。中学生以上になってからパソコン・スマホ・ゲーム機器を取り上げて成功するのは、本人が取り上げられることを納得している場合だけだといった見解を紹介している。

 こんにちは、フリーライターの島崎 由美子(しまざき ゆみこ)です。私は薬剤師でした。今回は、世界規模で広がる青少年のオンラインゲームとスマホ依存の危険性についてお話します。

 最近の総務省通信動向調査によるインターネット個人使用率は、6~12歳の小学生世代で7~8割、13~19歳の中高生世代で9割以上。スマートフォンの使用率はおおむね小学生で2~3割、中学生で5~7割、高校生で9割のようです。

 依存物質の条件は、快楽や快感、ハイになる、楽しい、ほっとする、刺激的だ、安心する、などを感じる物です。一方、不快もしくは快楽も不快もないものは、依存する可能性がほとんどないと言われています。多くの青少年は勉強することによって快楽を感じないので、「勉強依存症」になることは滅多にありません。

 快楽を感じるからといって必ずしも依存するわけではなく、例えば、子供が大好きなカレーライスを毎日食べ続けると飽きてしまうので、「カレーライス依存症」になる子供はいないでしょう。
 けれども、一部に快楽を得られるもので、かつ飽きがこなくて、もしくは長く続けられるものには依存してしまう危険性があります。
 例えば、酒好きな人が毎日同じ酒を飲んでも飽きません。タバコも同様です。違法ドラッグは、1~2回使用するだけであっという間に依存症になります。

 快楽を感じるか、不快に感じるかの行為自体にはかなりの個人差は認められますが、当初は不快に感じていたけれど、やっているうちに快楽を感じるものもあります。それが勉強であれば素晴らしいことと思うかもしれませんね。

 多くの青少年らにとって、特にインターネットやスマホ、オンラインゲームの無限性には、興味、面白さ、楽しさが、快楽を得ることができて、しかも飽きがこない、飽きがきにくい、やりすぎてしまうといった、依存物の条件を満たしています。次々と変えることが出来るほど、多数の趣味や興味を持っている青少年は稀だと思います。

 医学的には、どのくらいの期間、どれだけの量を続けると依存症になるのか、個人差が多すぎてわかっていません。楽しいからやり続けるという「正の強化」と相対して、依存物や依存行為をやりすぎるとそれを止めた時に不快になるのでやめられないという「負の強化」が依存症特有の症状と言われており、それがとても厄介なのです。
 人は快楽を我慢することはそれ程難しくありませんが、長時間の不快を我慢し続けることはしばしば困難をきたします。

 依存症は、例えば卵が先か鶏が先かというような悪循環を経て、次第に悪化していきます。
 イライラ、ストレス、鬱(うつ)が振り出しとなって、ゲームをしていないと不快になり、その「負の強化」が、生活リズムの乱れや逆転(遅刻、欠席、不登校や引きこもりなど)、親子関係の悪化と崩壊、さらには、精神障害や発達障害がこの悪循環に拍車をかけていきます。

 大人でも抜け出にくいこの悪循環は、青少年の学業・仕事・金銭面や、身体と精神、人間関係に大きな障害を与えかねません。他に、青少年の鬱や社交不安障害、強迫性障害などを引き起こすこともあります。昨今、悪循環は暴力や家出、警察沙汰を表出させるニッポンの社会問題にまで発展しています。

 全ての依存症は依存物を断つことによって回復することができます。依存症の人が、インターネットやオンラインゲームを断つと、最初は離脱状態といって、やりたいという欲求不満が非常に高揚します。
 この欲求不満は、焦燥感、不全感、空虚感となって現れることが多いようです。親から無理やりゲーム機器やスマホを取り上げられると、しばしば暴言や暴力が現れます。しかし、概ね1~2週間の離脱期間が過ぎると、欲求不満が低下し始めるそうです。ゲーム機器やスマホなしでも、次第に平気になってきて、「負の強化」つまり依存症が改善していくことが知られています。

 再度、インターネットやスマホを始めてしまうと、やりたい気持ち、欲求不満に逆戻りしてしまいます。しかし、インターネット技術と結びつくことによって格段に世界は広がります。今やほとんどの青少年世代がスマートフォンなどを用いてインターネットを利用しています。日常においてインターネットやスマホを完全に絶つのは困難です。そうすると、節度のある使用を目指すことになります。

 2013年に発表された米国精神医学会の診断基準(ESM―5)には、インターネットゲーム障害の診断基準が示されています。育児と教育の現場では、まさに今、青少年のオンラインゲーム・スマホ依存症の社会環境的な問題に接する機会が増えてきました。家族への一般的な指導として、パソコン・スマホ・ゲーム機器を与える年齢は遅ければ遅いほど良い、社会的活動(部活・塾・趣味・特技など)やスポーツなどに多く参加して自由な時間を減らすこと、起床・就寝の時刻を乱さないことが挙げられるようです。
 中学生以上になってからパソコン・スマホ・ゲーム機器を取り上げて成功するのは、例えば受験に失敗したくないとか、本人が取り上げられることを納得している場合だけだそうです。大失敗しないでください。

 フランスでは12歳から17歳のうち93%が携帯電話やスマホを所有しており、現在でも授業中の携帯電話やスマホの使用は法律で禁止されています。2018年9月からは、6歳から15歳の生徒を対象に、学校にスマホを持参することは良いが、休み時間やランチタイムも含めて学校内での使用が一切禁止となりました。
 依存は回復可能な疾患です。私は、家庭と学校、医療機関、行政などが連携し、社会全体の取り組みとして、例えば車の免許取得のように、ルールを決めていくべきではないかと考えています。

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