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サーカスの少女

18面記事

書評

植木 雅俊 著
自然や人との出会いで成長する少年

 長崎県の雲仙普賢岳の麓の島原に転居してきた少年の成長物語。歴史を刻む島原城や、自然豊かな海や山、原っぱを舞台に走り回る少年たち―彼らの方言の魅力に引き込まれ、気付くと彼らと一緒にそこにいた。そんな錯覚を久しぶりに味わった。
 小説の底流に流れる人の「優しさ」が温かい。学校に当たり前に通えない子どもがいた時代を知り、学ぶ喜びをかみしめた。教師のまなざしや言葉が幼い子どもの一生を左右する―そのことを痛感させられた。ここには、日本のどこにでもあった原風景が描かれている。その豊かな自然と人の中で種々の発見と感動にワクワクし、命拾いにハラハラする場面が展開される。旅を続けるサーカス一座の少女との出会いの中で交わされる心の交流と、公演終了とともに訪れる別れには胸が熱くなった。
 その感動さめやらずページをめくると、巻末に2枚の写真が。物語の時代から60年余が経過して、著者は昨年2月、故郷での講演に招かれ少年時代の思い出を語った。母校の小学校に立ち寄ると、卒業制作した白熊の像が健在。写真は、卒業記念に白熊にまたがって撮ったものと、白熊の脇に立つ講演前の著者だった。
 小説の読後だからこそ、著者の人格形成に学校や教師、友達、周囲の大人たちの存在がいかに大きかったかを2枚の写真が語っている。
(1650円 発行・COBOL、発売・日販アイ・ピー・エス)
(大久保 俊輝・亜細亜大学特任教授)

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