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学び続ける教師を支援する 大学通信教育で教科の専門性を高める

12面記事

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 これからの予測困難な社会を生き抜く人材を育成するため、教師には時代の変化や自らのキャリアステージに応じて求められる資質能力を、生涯にわたって高めていくことが必要になっている。こうした自ら学び続ける教師のスキルアップを支援する場として期待されているのが、多様な教科・校種の免許を働きながら取得できる「大学通信教育」だ。

「令和の日本型学校教育」を担う学びの場に

教員養成・採用・研修の在り方を見直し
 新学習指導要領が目指す資質能力を身につけさせるには、教師主導の一斉授業による知識習得から、子ども自身が主体的に学べる授業に変換していく必要がある。文科省は「令和の日本型学校教育」の実現に向けて質の高い教師を確保するため、教員養成・採用・研修等の在り方の検討を進めている。現在、中教審によって議論が行われているのは、次の5つの項目だ。

 (1) 教師に求められる資質能力の再定義
 (2) 多様な専門性を有する質の高い教職員集団の在り方
 (3) 教員免許の在り方・教員免許更新制の抜本的な見直し
 (4) 教員養成大学・学部、教職大学院の機能強化・高度化
 (5) 教師を支える環境整備

 また、それに先駆けるかたちで義務教育9年間を見通した指導体制の構築にも着手しており、教師には共通に求められる基本的な資質能力を超えて、新たな領域の専門性を身に付けるなど強みを伸ばすことを求めている。来年度の小学校高学年における教科担任制(理科、算数、外国語、体育)の本格的な導入もその一つだ。
 これにより、中1ギャップの解消など小・中学校の円滑な接続を図るほか、教科指導の専門性を持った教員が多様な教材を活用してより熟練した指導を行うことで、児童の学習内容の理解度・定着度の向上と学びの高度化を図ることがねらいになっている。もちろん、そこにはGIGA端末を活用した個別最適な学びを実現していくことも視野に入れている。
 なにより、教師が自分の得意な科目を教えることができれば、おのずと「専門性や指導力が上がって児童の学力が上がるのではないか」、同じ単元を複数回授業する、研究・準備に時間をかけらけるようになれば、「授業がより充実したものになるのではないか」といった期待がある。

現職教員の複数免許状取得を促進
 ただし、中学校の免許では原則小学校で教えることができない、公立小学校の3分の1は小規模校(1学年1学級かそれ以下)といった中で、専科教員の加配による専門性をどのように担保していくのかという課題も存在する。このため、文科省では小・中学校の両方の免許状取得に必要な総単位数を軽減する制度改正や、中学校免許状を持つ教員が小学校免許状を取得する際の要件を弾力化(小学校専科教員としての勤務経験を考慮)することを決めている。
 また、外国語など教科によっては専門性を有する人材確保の観点から、特別免許状のさらなる活用や、中学校教員が小学校と兼務した乗り入れ授業を行うことを挙げている。
 したがって、各教育委員会ではこれに基づき、採用時における複数免許状所持者の優遇、現職教員による複数免許状取得の促進(専門性向上のための免許法認定講習の受講・活用)、当該免許を保有する教員の複数校併任などを進めていくことになる。

一歩先を行く通信制大学のオンライン授業
 文科省は25年度までに小学校35人学級を実現することを目指しているが、教師のなり手不足が深刻化しているため、社会人登用の弾力化なども図っていく意向だ。
 なかでも、理数科の教員採用試験の倍率は下がり続けており、優秀な人材の確保に支障が出ている。それゆえ、大阪市教育委員会は24年度から、特別免許状制度を活用し、理系の博士号を持つ研究員等を市立中学校の教諭として採用するなど対策に乗り出している。
 さらには研修のあり方や教師の負担が問題になっている教員免許更新制を22年度には発展的解消し、全国の大学から実績あるオンデマンド講習を募って置き換えることなども検討されている。それは、コロナ禍において通信制大学の双方向性を担保するための授業設計やサポート体制が、中教審の「質保証システム部会」で再評価されたことも大きな理由になっている。
 教師が働きながら学ぶためにはオンライン受講は効率的な手段だ。しかも、一人一人の個性に即した学びを提供するためにはデジタル技術によって「個別最適化」を図ることが期待されているからで、自身に対して客観的な評価や成長段階を可視化できることは、自律的な学びの駆動力になる。
 こうした動きからも、学び続ける教師のスキルアップを担う場として、あるいは学びを保障するオンライン授業の先駆けとして、メディアによる授業のプロ集団である「大学通信教育」の果たす役割がますます重要になっている。

「情報」を教えられる教師がいない
 ほかにも大学通信教育による複数免許取得が期待されている理由は、中学・高等学校の技術科や情報科の免許状を保有する教師が不足していることもある。特に高等学校は来年度から導入される新学習指導要領で教科「情報」の再編が行われ、プログラミングを学ぶ「情報I」(必修)と発展的な内容を扱う「情報II」(選択)の2科目がスタートすることから、より一層対応がむずかしくなっている。
 なぜなら、そこではすべての生徒がプログラミングやネットワーク、データベースの基礎といった基本的な情報技術を学ぶとともに、情報セキュリティなども併せて身に付けることが求められているからだ。
 情報システムや多様なデータを適切かつ効果的に活用する人材を育成することは、わが国の今後の経済成長にとっては必須となるはずだが、肝心かなめのそれを教えられる教師の数が圧倒的に少ない。
 しかも、25年の大学入学共通テストから「情報」の新設が予定されている。これまでは入試の教科でなかったから力を入れなくてもよいという言い訳はできたが、今度はそうはいかない。各教育委員会においては、「情報」を教えられる教師の人づくりや採用へと本格的に舵を切らなければならない時代を迎えたことになる。

教職経験を考慮した免許状併有の促進
 したがって、そのための対策の1つが教師の教職経験を考慮した免許状併有の促進となる。大学通信制教育では、在職経験が3年以上あれば、少ない単位数で上位の免許状や他校種の教員免許状を取得できるという魅力がある。「情報」は生徒の将来を考えた場合、まさに「生きる力」となる教科だ。だからこそ、教師が自身のスキルアップを図る上で、チャレンジのしがいのある教科といえるかもしれない。
 もちろん、それは教科「情報」だけに限った話ではない。これからの教師にとって、社会に出たときに役立つデジタルリテラシーをもった人材を育てることは、最も重要なテーマの一つになるからだ。さらに、今後の取り組みが期待されているGIGA端末を用いた「個別最適化学習」の進展は、教師の評価にも直結することになるため、自身のキャリア形成を左右することになる。すなわち、教師自身にとっても情報を収集して分析し、授業に活かすデジタルリテラシーを身につけることが極めて重要な意味を持つことになる。

時代が求める教職者にステップアップする
 教師というと、教壇に立って黒板の板書を指しながら説明しているイメージが浮かぶ。だが、新学習指導要領で諭しているのは、子どもが自ら考え、分からないことは調べ、最適解を導き出す授業スタイルの構築だ。1人1台端末の導入は、まさにそうした授業へと転換を図るための布石といえる。将来が混沌として見えない予測不可能な時代においては、正解が一つとは限らない。明日はまた違った価値が示されることになるかもしれない。子どもはいずれ、その社会に踏み出すことになる。
 だとすれば、その送り手となる教師には子どもが主体的に学びに向き合えるようにするコミュニケーション力と、基本的な資質能力を超えて高い専門性を持つことが重要になる。「教師のイメージは変わった」―これを自覚しなければならないのは何よりも教師自身であり、時代が求める教職者として次の段階へステップアップすることが必要だ。

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