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「地元企業」が担うSDGs教育への貢献

9面記事

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環境問題への意識を高める地元企業の取り組み

 持続可能な開発目標の実現に向けた取り組みが広く普及したことや、新学習指導要領において「持続可能な社会の創り手の育成」が明記されたこと、さらには近年のコロナ禍、大規模災害の増加などを受けて、持続可能な社会の担い手育成の必要が高まっている。
 そうした意味でも、これからの環境・エネルギー教育では、地域の自然観察や環境問題を調べるだけでなく、SDGsの視点から「自分たちで取り組めることを見つけ、実行する」といった児童生徒の主体的な活動につなげることがカギとなっている。
 そして、そのための大きな役割を担うと期待されているのが、日本の企業の99・7%を占める中小企業といえる。なぜなら、子どもたちが環境問題を身近にある課題として実感するためには、地元の企業が率先して取り組んでいることを生の声で聴いたり、体験したりして肌で感じることが欠かせないからだ。
 自分たちのすぐそばにある企業が、どのような理念に基づき行動し、どんなふうに環境に貢献しようとしているかを知ることは、最も身近な実社会の環境負荷対策に触れる学びになり、自分たちでもできることを探る、これ以上ない教材になる。
 たとえば、中小企業がそれぞれの分野に特化した環境に配慮した製品を開発していることを、工場見学や出前授業などで紹介するだけでも、学校にとっては座学ではできない貴重な機会になるはずである。

地域に密着した中小企業も例外ではない

 しかし、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点から、大企業では着々とSDGsへの取り組みが進められる一方で、大半の中小企業では検討さえ行われていない。何しろ関東経済産業局が実施した18年度調査によれば、「SDGsについて全く知らない」と回答した企業は84・2%にも上る。
 それでもSDGsへの取り組み姿勢が、今後はますます企業の評価や顧客の購買行動を左右するようになるのは間違いなく、中小企業も決して例外ではない。地元で身近に感じられるからこそ、その評価は厳しくもなり、高くもなる。
 したがって、自社の環境負荷対策を進めるだけでなく、その取り組みを地域社会にアピールする、誇りを持って働ける企業になるために還元していくことが重要となってくるに違いない。

SDGsでビジネス機会を創出~工場見学や出前授業も~

 こうした中、いち早くSDGsへの貢献を打ち出している中小企業も現れている。茨城県の(株)茨城製作所は、自然エネルギーや省エネルギー事業などで培った技術を活用し、社会の課題を解決するビジネスを推進。ネパールの電力不足・無電化地帯でガラス窓がない土壁の学校に電気による明かりを提供したり、夜間学習のため学校でランタンの充電を行う仕組みを提供したりしている。
 東京都の日本エムテクス(株)は、卵殻などを再利用した壁紙、左官材、塗料、タイルなどを開発し、アップサイクル事業に取り組む中で環境負荷低減を目指している。その中で、地元の小学校でものづくりとSDGsの講義を実施するなど、環境教育の啓発にも力を入れている。同じくホットマン(株)は、フェアトレードでの原料調達により、国内初となる日本製フェアトレードコットンタオルの製造・販売を実現。地元学校の工場⾒学、職場体験やインターンシップ、講演等を受け入れ、地域や若年層に対して啓発活動を実施している。
 埼玉県のウォータースタンド(株)は、空気清浄機の販売やレンタルを事業の核としてきたが、18年にSDGsへの貢献を打ち出し、「ウォータースタンド事業」に転換。30年までに30億本の使い捨てプラボトル削減を目指す中で、連携協定を結ぶ地方自治体が増えているほか、西日本工業大学への出張授業なども行っている。
 神奈川県の(株)大川印刷は、FSC森林認証紙や石油系溶剤0%インクの使用、針金を使わない製本など、環境負荷低減に特化した「環境印刷」に取り組んでいる。中小企業でも本業を通じてSDGsに取り組むことで、ビジネス機会の獲得につながると考えたからだ。市民団体と連携し、日本に在留している外国人ニーズに応えるための4カ国語版お薬手帳は、大使館等から注目され、販売に結びついている。

もっと学校と連携するための人材活用を

 一方、こうした事業者が進める取り組みを学校と連携して学習に活用するためには、専門的な知識を持ったパイプ役となる人材を活用することも視野に入れていきたい。もちろん、文科省もSDGs実現の中核的な担い手となる教師の資質・能力の向上を図る施策を進めてはいるが、環境省では、環境保全活動に関する専門的な知識・経験を有する人材を「環境カウンセラー」として登録。ここで、研究会やセミナーの開催、希望者への環境カウンセラーの紹介などを行っている。
 また、各都道府県が進めている人材制度を利用する方法もある。たとえば福島県なら「うつくしまエコリーダー」、千葉県は「環境学習アドバイザー」、町田は「環境学習リーダー」、横須賀市は「環境教育指導者」など、名称はさまざまだが人材登録制度がある。全国にはこのような取り組みがあるのだから、教育の場にもそれをもっと活用してほしい。
 大人たちができることは、人類がこれまで行ってきた環境破壊の現実とそれから得たことを次世代に確実に伝えていくことだ。だからこそ、今を生きる子どもたちに対して、日頃の身近な問題や疑問をSDGsにつなげ、自分の足元から変えていく意識を育むことが重要になるのだ。

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