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イノベーションを創出する教育環境を

10面記事

施設特集

学びの変化に合わせて教育環境も変える必要がある

将来ビジョンを持った学校施設改修のポイント

 「予測困難な時代」を迎える中で、学校教育には革新的な技術や発想により新たな価値を生み出せる人材を輩出することが求められている。したがって、「器」となる学校施設自体も、建物の劣化対策と合わせて、イノベーションを創出できるような教育環境へと造り変えていくことが期待されている。ここでは、そんな教育環境の向上と老朽化対策の一体的な整備に向けた取り組みを紹介する。

教育施設としての格差が広がる

 今日の学校施設は、少子化による統廃合が進み、義務教育9年間を見通した小中一貫校や義務教育学校、グローバル人材の育成を目指した高等教育機関などが次々と新設されている。また、他の社会教育施設との複合化や共有化によって、地域社会との共生を目指す学校施設も増加している。そこでは、既存の学校にはない意匠性と高機能性を備えた、豊かで快適な教育環境を目にすることができる。
 他方、大半の学校施設は老朽化が年々深刻化しており、すべての校舎を建て替える余裕はないことから、構造体の劣化対策やライフラインの更新などを実施し、長寿命化を図っていく必要がある。しかし、教育政策の立ち遅れや財政不足から改修計画に遅れが生じている自治体もあり、地域・学校間の格差が拡大している。つまり、国民一人一人が平等な教育を受ける権利がある義務教育においても、住む環境によって生活・学習面での施設設備に大きな隔たりが起きているのが実態だ。
 そのため、文科省では新時代の学びに対応した教育環境の向上と老朽化対策の一体的な整備の推進を掲げ、予算を拡充するとともに、全国の自治体に計画的・効率的な施設整備を求めているところである。

ビジョンを持った改修計画を

 ただし、学校設置者だけで、コストを抑えながら建て替え同等の教育環境を確保していくのは容易ではない。なぜなら、建物自体の劣化対策に加え、省エネや創エネによる脱炭素化の促進、学びの変化に対応した柔軟な教室・空間づくり、新しい生活様式やインクルーシブな視点などを取り入れていかなければならないからだ。
 したがって、行政全体での部局を超えた横断的な検討によってコストの最適化を図ることや、新たな手法による整備・維持管理の知識やノウハウを持つ民間事業者との連携が、これまで以上に必要になる。
 また、そうした長寿命化改修を進める上では、学校設置者が「どんな子どもを育てたいのか」といった明確な目的意識を持っているかどうかも重要なポイントになる。前提となる安全性や必要な機能を担保した上で、地域の特性や目指す教育の意図をどのように汲み入れた施設へと造り替えていくのか。そのビジョンがあるかどうかが、これからの子どもたちに求められるイノベーションを創出する学校施設づくりのカギになるからだ。

学習者主体の学びを後押しする空間づくり

 では、どのような視点を重視して学校を生まれ変わらせていけばいいのか。文科省では、「未来思考」で実空間の価値を捉え直し、学校施設全体を学びの場として創造することを挙げている。例えば教室環境では、ICTの活用により、教員指導型の授業だけでなく、友達と一緒に課題に取り組んだり、グループでの話し合い・発表をしたりするなど、より横断的な学び、多目的な活動に学びに変容していく可能性があること、また、空間・時間を超えて、さまざまな学習リソースに非同期にアクセスして学ぶことができるため、学習者が学ぶ内容を選択したり、進度に合わせたりできる学びのスタイルが広がることが想定される。
 しかし、現在の画一化した狭い教室では行動が制限されるとともに、タブレットと教材を一緒に広げて学習するには机面積が小さすぎるという問題がある。このため、改修時に構造耐力上不要な壁等を撤去することで、オープンな空間を造り、可動式で自由に組み合わせられる机・椅子、パーティションを設置するなどにより、協働的な学びや個別学習に適したスペースを確保する。あるいは、もっとリラックスして学習できるように、木材を活用して温かみのある雰囲気を演出したり、リビングのようにクッションやカーペットを敷いたりしてもいい。
 また、空間を有効に活用するためには、教材や児童生徒の持ち物を整理するロッカーや収納スペースにも配慮していく必要があるほか、学校図書館の「ラーニング・コモンズ」化や、高度な学びを誘発する「デザインラボ」、地域の人たちと連携・協働していく活動・交流拠点といった創造的な空間に広げていくことも考えられる。
 さらに、ウェルビーイングな学校施設を創造していく上では、教職員や子どもたちがコミュニケーションやリフレッシュできる場、学習支援や教育相談ができる環境整備、特別支援学級や日本語指導が必要な子どもが増加している中では、インクルーシブな観点からも、教室の仕様や家具のあり方を見直していく必要がある。つまり、学校施設も、画一的・固定的な姿から脱し、時代の変化、社会的な課題に対応していく視点(可変性)をもつことが重要になっている。

快適で衛生的な学習環境を造る

教室への熱侵入を防ぐ改修が急務

 一方、老朽化した校舎の大半は無断熱のため、夏冬にいくらエアコンをフル稼働させても利きが悪く、子どもたちの健康や学習への影響が危ぶまれる状況となっている。このため、大規模改修の中でも、暑さ寒さ対策を施す断熱改修を優先的に進める必要が出てきている。
 断熱改修で、真っ先に進めたいのは窓改修だ。窓面積の大きい学校の教室は日射熱の影響を大きく受けることから、複層ガラスや内窓に改修するだけでも冷暖房効率を上げることができる。続いて、熱侵入の大きい最上階の教室の対策となる屋上の断熱化、そして建物全体にわたる外壁の断熱改修になる。
 また、ポストコロナを迎えた学校現場では、新しい生活様式のもと教職員や子どもに負担をかけない感染症対策も改修時のポイントの一つになっている。換気の悪い教室は乾燥が進んで感染症のリスクを上げるとともに、CO2濃度も上昇する。そのため室内の環境衛生を維持する全熱交換器や加湿器などの空調設備、サーキュレーターやCO2モニターなどの設置も欠かせなくなっている。

コストの縮減・平準化を図る

 このような課題を踏まえ、学校設置者が計画的・効率的に長寿命化改修を行うためには、地域の実態に応じた公的ストックの最適化や長寿命化改良を図る「個別施設計画」の策定が必須になる。個別施設計画は中長期にわたる整備の内容や時期、費用等を具体的に表した計画であり、改修や維持管理にかかるコストの縮減・平準化を図るためにも欠かせない指標となるからだ。文科省では、こうした個別施設計画を実施した自治体の事例をまとめており、ここで一部を紹介する。
 千葉県柏市は、新学習指導要領に応じた整備を行うことを個別施設計画の柱にした。そのため、児童生徒が学習する時間が最も長い、普通教室の在り方を重点的に検討したという。主体的・対話的で深い学びを実現するための整備水準として、例えばICTを活用した教育に対応可能な普通教室、メディアセンターの整備などを盛り込んだ。また、グループワークに対応した家具や収納、レイアウトの変更を取り入れている。
 計画策定にあたっては、学校の適正規模を踏まえつつ、将来を含めた地域の児童生徒数に合わせた計画を策定する方針にし、今後の40年を10年ごとの4期に分けて整理。また、劣化度調査等も踏まえて学校ごとの整備方式(全体建替型、長寿命化型、建替・長寿命化併用型、大規模改修型)を決定し、整備時期を第1期から第4期に割り振った。これにより、保有施設全体の老朽化を軽減し、かつ費用の削減と平準化を図る意向だ。

建築コストの上昇で改修方法の見直しも

 愛知県名古屋市は、長寿命化改修により教育環境の向上に資する整備も行うことを重視した「名古屋市学校施設リフレッシュプラン」を立ち上げている。同市では400校を超える学校を保有しているが、約8割が築40年以上と老朽化対策に係る整備費の増加が見込まれていた。したがって、限られた予算の中でよりよい教育環境を確保するため、対症療法的な「事後保全」から、計画的な「予防保全」へ転換するプランへと切り替えた。
 計画においては、学校関係者や地域との共通理解を得ることを念頭に、学校施設の老朽化状況や長寿命化改修の必要性について、図などで分かりやすく表記するとともに、改修後の姿をイメージで示した。例えば、「屋根の保全改修は雨漏りや天井材が崩落する前に改修する」「給排水管を更新する際は、耐震性の高い管を採用する」などだ。
 また、計画を持続可能なものとするため、近年の整備費(41億円/年)を目安に、その範囲でできる整備手法を検討。長寿命化による縮減効果に加え、学校統合による跡地の売却により、コスト縮減が可能になるとしている。
 東京都国立市は、市全体の建築物の個別施設計画を策定する際、学校施設を包含し策定することにより、公共施設マネジメントの連動性を高めている。計画策定に必要なデータは、学校以外の公共施設も含め首長部局で管理しているのが特徴だ。各施設の工事や修繕の履歴を管理するデータベースとして「保全マネジメントシステム」を活用することで、市全体の施設保全情報を一元的に共有・管理。施設の劣化状況や修繕状況を計画に反映できるとしている。
 一方、近年では原料費等の高騰で建築コストが上昇しており、各自治体における個別施設計画の進捗に支障をきたす懸念も生まれている。それゆえ、管理運営面等含めた「さらなる改善」が必要となっているのも事実だ。すなわち、機能とコストのバランスを考慮し、建物ごとの改修方法を見直す、最新技術を取り入れる、助成金や補助金を活用するなどの知恵がより一層必要になっているといえる。

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