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給食無償化をめぐる動き その実態と課題を考える

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特集 教員の知恵袋

 子どもたちの心身の健全な発達を支え、食育の一環としても重要な役割を担う「学校給食」。

 全国の自治体で給食費を無償化する動きが広がりつつあります。給食無償化は、家庭の経済的負担軽減や少子化対策への有効な取り組みとして注目されています。

 本記事では、学校給食のあり方と無償化に対する取り組みや課題について詳しく紹介します。

学校給食の目的と必要な経費

 現在の学校給食は、昭和29年に制定された「学校給食法」に基づいて提供が始まりました。制定当初は、小学校段階を対象としていましたが、昭和31年には中学段階、昭和32年には盲・ろう・養護学校の幼稚部・高等部まで対象を拡大しています。

出典:e-Govポータル『学校給食法』/文部科学省『補足資料「給食無償化」に関する課題の整理』『給食の取組

学校給食法の目的

 学校給食法には、児童・生徒の心身の健全な発達を支援し、食生活の改善と食育の推進を図る目的があります。平成20年に行われた法改訂では、給食の目的・目標に「食育の推進」も追加されました。国や学校は、学校給食法が掲げる目的・目標の実現に向け、さまざまな措置を講じています。

▽国や学校による措置

 ・学校給食の努力義務や給食施設・設備に対する経費の補助
 ・給食を適切に実施するための基準の策定
 ・食育の指導のための推進
 ・経済的困難を抱える家庭に対する給食費の負担軽減 など

出典:文部科学省『「給食無償化」に関する課題の整理について』『補足資料「給食無償化」に関する課題の整理

学校給食にかかる経費の負担

 現在、学校給食の実施に必要な施設・設備に要する経費及び人件費は、自治体をはじめとする学校設置者が負担しています。また、食材費は保護者による負担です。

 「適切な栄養摂取による児童・生徒の心身の健全な発達」や「給食を通じた食に関する理解や判断力の育成」という学校給食法の目的・目標を実現するために、生活困窮世帯への補助制度の設置や学校給食無償化を実施している自治体もあります。

出典:文部科学省『「給食無償化」に関する課題の整理について』『補足資料「給食無償化」に関する課題の整理

給食無償化における動向と背景

 令和5年6月に閣議決定された「こども未来戦略方針」において、以下の内容が言及されました。

学校給食費の無償化の実現に向けて、まず、学校給食費の無償化を実施する自治体における取組実態や成果・課題の調査、全国ベースでの学校給食の実態調査を速やかに行い、1年以内にその結果を公表する。

引用元:内閣官房『「こども未来戦略方針」~次元の異なる少子化対策の実現のための「こども未来戦略」の策定に向けて~

 こども未来戦略方針では、子育ての経済的・精神的負担感や子育て世帯の不公平感が存在することが課題として挙げられています。そこで、子育てにかかる経済的な支援強化や少子化対策の一つとして、学校給食無償化が取り上げられました。

 学校給食は子どもの貧困への対応という観点からも給食の役割の重要性が認識されています。近年の情勢や物価高騰による家計の不安や心配から、良質で栄養のある食事が摂取できる学校給食への期待が高まっていることが考えられます。

出典:文部科学省『「給食無償化」に関する課題の整理について』『補足資料「給食無償化」に関する課題の整理』『文部科学大臣提出資料』/内閣官房『「こども未来戦略方針」~次元の異なる少子化対策の実現のための「こども未来戦略」の策定に向けて~

給食無償化の現状

 令和5年9月時点、全国1,794自治体のうち722の自治体が独自に給食無償化を実施しています。給食無償化の対応は自治体により異なり、全体の約3割である547自治体では、給食を実施するすべての小・中学校の児童・生徒を対象としています。

 給食無償化の推進によって自治体はさまざまなメリットを期待できます。

▽給食無償化の実施で期待できるメリット

 ・子育て支援・経済的負担の軽減
 ・少子化対策
 ・定住・転入促進
 ・食育の推進 など

 現状、多くの自治体が地方公共団体の自己財源や地方創生臨時交付金、ふるさと納税、都道府県からの補助などで財源を確保しています。

出典:文部科学省『「給食無償化」に関する課題の整理について』『補足資料「給食無償化」に関する課題の整理

給食無償化に関する主な課題

 給食無償化の推進には、次のようにさまざまな課題の解決が求められます。

▽給食無償化に関する課題

 ・児童・生徒間の公平性の確保:給食未実施校の児童・生徒や、アレルギー・不登校等で給食を利用していない児童・生徒には無償化の恩恵が及ばない
 ・格差是正策としての妥当性:経済的困窮世帯(約14%)は、既に生活保護による教育扶助・就学援助により基本的に給食が無償化されているため、追加的な恩恵がない
 ・財源確保と国・地方の役割分担:自治体の財政力格差の観点から、国による一律の無償化を求める主張もある
 ・少子化対策への効果の検証不足:無償化実施自治体のうち、成果目標の設定や効果検証を行っているのは2割弱にとどまり、政策の効果測定と評価が十分でない

 現状、都道府県間で学校給食費に約1.4倍の差があることから、給食無償化による地域間格差が起こることが懸念されています。また、少子化をめぐる状況は地域によって異なり、限られた財源で効果を発揮できるかどうかの検討も必要です。

 全国の小・中学校での給食無償化実現に向け、給食の質を維持しつつ、無償化を進めるための国の支援と制度設計が求められます。

出典:文部科学省『「給食無償化」に関する課題の整理について』『補足資料「給食無償化」に関する課題の整理

すべての子どもに安心できる給食を届けるために

 学校給食無償化は、家庭の経済的負担の軽減や、子育て支援につながる施策といえます。

 一方で、地域ごとの財政力格差や公平性の確保、政策効果の検証など、給食無償化を持続可能かつ公平な制度として実現するための課題も多く残っているのが現状です。今後は、すべての子どもとその家庭を支えることができる安定した仕組みづくりが進むことが望まれます。

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