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入学時、TOEFL ITPなどで実力判別

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英語教育改革で新カリキュラム
名古屋大

 大学のグローバル化対応が急速に進む中で、英語教育の改革に取り組む大学も少なくない。名古屋大学もその一つ。「アカデミック・イングリッシュ」を目標に掲げ、学部を問わず、新入生全員に入学時、TOEFL ITP(トーフル アイティーピー)とTOEFL同様、アメリカのETSが開発した教育機関向けライティング指導ツールCriterion(クライテリオン)を使い、プレイスメント・テストとして実施し、その結果を基に習熟度別コースに編成して英語力の向上を目指す。入学時の同テストで一定の点数に達しない学生は、基礎知識を再確認するための学習「英語(サバイバル)」が課され、英語力を鍛える。1年後の実力判別試験などで基準点をクリアできない場合には、2年生向け授業を受講することができない。その一方で、大学は国際化を推進し、海外約25カ国に協定校100大学とネットワークを結び、留学プログラムなどを充実。世界に学ぶ場を学生らに提供する。

習熟度別コース取り入れ
点数不足で「サバイバル」学習
論文読み書き、プレゼンの基礎力育成

 名古屋大学がそれまでの英語教育を見直し、新カリキュラムを導入したのは2009(平成21)年度。「それまでの英語教育が学生に不評だったわけではない。満足度は高かった。大学としてのミッションを考えた時、国際基準の『アカデミック・イングリッシュ』を目指すことにした」と、教養教育院学習環境開発部門長の杉浦正利教授は話す。
 研究者として英語で論文を読み書きし、学会でプレゼンテーションできる能力の基礎となる力を、1・2年生のうちに育成するための新たな試みを始めた。その一つが「世界に通用する尺度」として新入生全員への検定試験「TOEFL ITP」の一斉受験。併せて、論理的な文章を書けるかどうかを評価しようと、「Criterion」をテストとして運用する。
 これらを入学時の「プレイスメント・テスト」と位置付け、全学生をその成績に応じて習熟度別にA、B、Cコースを編成して指導する。いずれのコースも1年前期は「英語(基礎)」のくくりの中にあるが、医学部や文系の学生で編成する、点数の高かった特別クラスのAコースは1年後期に学ぶ「中級」の内容を一部先取りしていく。
 点数が十分ではなかった学生たちはCコースに編入して、通常の授業「英語(基礎)」に加えて、卒業には必要とされない随意科目ながら「英語(サバイバル)」の学習が待ち受ける。
 2200人から2300人程度の新入生のうち、約1割から2割がCコース。「基準はあるが、基準点については公表していない。『サバイバル』をパスしないと、2年の英語の授業が受講できず、結果的に留年する場合もある。学生も必死に学んでいる」(杉浦教授)
 「英語(サバイバル)」の学習は、英語担当の教員が時間を捻出しながら指導に当たる。授業内容は教員にもよるが、TOEFL対策を30分程度、その後の60分程度はドリル式のeラーニング教材「ぎゅっとe」を使い、自主学習をしていくため、Cコースの学生は1年前期には通常の学生の「倍の学習」をこなさなければならない。この教材自体は、広島市立大が開発したWebブラウザを使用して英語学習を行うプログラム。リーディング、リスニング、文法問題などを解くことによって、英語力を高めることができる。
 「ぎゅっとe」は「英語(サバイバル)」だけでなく、1年前期・後期を通じて全学部生が対面授業の他に、課外学習として用いて学習量を増やすのに役立てる。
 1年終了時には到達度評価テストとして「TOEFL ITPとCriterion」を再度実施する。
 終了時、クリアしていく学生の割合は「95%以上」。英語力の問題だけではなく、大学生活になじめない、進路変更する学生も含めての数字だ。
 「アカデミック・イングリッシュ」に必要な学術論文の読解・執筆、発表能力の育成のため、1年前期の「英語(基礎)」と1年後期「英語(中級)」では、論理的なパラグラフやエッセイのリーディング・ライティングの能力も培う。
 また、1年後期には「英語(コミュニケーション)」を取り入れ、2年前期の「英語(上級)」と併せて、プレゼンテーション能力を育成。特に、「上級」では、大学が独自開発したプレゼンテーション用教材「eFACE」を、対面授業とともに取り入れ、実用的なプレゼン能力育成に一役買っている。
 英語担当教員の奮闘とともに、新カリキュラムを実現するのに欠かせないのが、「アカデミック・イングリッシュ支援室」の存在。4人の教職員を配置し、大学院生TA15人などの協力も得ながら、「課外学習教材の学習状況、確認テストの提出状況を管理する」(松原緑・准教授)。
 だが、こうした全学部生を対象にした「英語新カリキュラム」は、2年で終了する。1・2年で付けた英語力を3・4年でさらにどう伸ばすのかは「残された課題」という。一方で、文科省が留学生の30万人受け入れを掲げ、その推進事業の一つに位置付ける「国際化拠点整備事業(大学の国際化のためのネットワーク形成推進事業)」、いわゆる「グローバル30」が採択校の一つ、名古屋大でも進行中。こうした取り組みと一般学生のグローバル人材育成に向けた取り組みとの融合なども課題となりそうだ。

海外留学者は増加傾向
意欲高める仕掛け多彩
講座や語学研修を充実

 「新入生らに海外留学の希望の有無を聞いたところ、約80%が『留学したい』と答えた。ただ、このうち約40%が『卒業が遅れる』『語学力がない』など、さまざまな不安を抱える。何もしなければ何もしないまま時は流れる。この『行きたいけど…』という学生に何とか意欲を持たせたい」と話すのは、国際教育交流センターの岩城奈巳教授。
 名古屋大では、1998(平成10)年に留学生センター内に海外留学室を設立して以降、留学を希望する学生の支援を教育的側面から行ってきた。昨冬、国際教育交流本部が設立され、海外留学室は国際教育交流センター海外留学部門に一新された。留学支援の拠点となるこのセクションでは、学生たちをその気にさせるさまざまな仕掛けを試みる。
 その一つが春期、夏期の集中留学準備講座と、学期中のTOEFL―iBT週末講座。以前はTOEFL勉強会のような形で希望者が自主的に集い、学んでいたが、今では、学期中の土曜日を中心としたTOEFL―iBT週末講座と、春にはTOEFL iBT、夏にはイギリスやオーストラリアなどの大学で採用することの多い外部検定試験IELTS(アイエルツ)の語学対策と留学プランニングを中心に、それぞれ10日間前後を開講する。今夏のIELTS対策講座は募集定員を上回り、2クラス展開することに。「3大学連携事業」として位置付けられ、名古屋大の学生はもちろん、三重大、愛知教育大の希望学生は無料(教科書代などは自己負担)で受講できる。
 こうした外部検定試験対策は、名古屋大が全学枠で募集する交換留学に必要な語学力を身に付けることを目的としており、1年後の留学申請に備えるためだ。また、留学実現に向けて、学生自らが早めに動き出せるよう、交換留学派遣者の留学体験発表や、留学目標の設定方法などを学ぶ留学プランニングの授業も組み込まれているのも、特徴である。
 「語学力に加え、留学するための計画を練ってもらっている。この講座をきっかけに、学生たちの学びのコミュニティーができていく。仲間がいればモチベーションが維持できるし、点数の目標も乗り越えられる」(同センターの村山かなえ・特任助教)
 岩城教授は、留学目的が明確なことが大前提になるが、1年の春に大学の協定校が主催する語学研修や異文化理解等のプログラムを経験し、2年からは海外留学を見据え語学スコアの取得、秋に学内選考の書類応募を経て、3年の秋から交換留学―という流れをつくりたいと言う。こうした長期の留学の他、短期研修プログラムも充実している。
 留学期間は2〜4週間前後。内容も語学研修を主にしたプログラムから一般講義やワークショップなど、バラエティーに富む。語学研修はともかく、参加時に一定レベルの語学力が求められるプログラムもあり、学生の希望があっても、スコアを上げて来年再チャレンジするようアドバイスすることもある。
 「海外留学室」での個別相談や、留学から帰って来た学生たちでつくる団体「留学のとびら」などと連携して留学シンポジウムを開催して啓発する。日本に留学してくる学生を日本の学生が支援する「チューター制度」への参加者が海外留学を希望するようになるなど、留学意欲を高めるための環境整備が進む。
 「海外留学入門セミナー」は毎週火曜日のお昼休みに、「留学へのはじめの一歩」として気軽に参加できるように「海外留学室」で開催している。
 英語の新教育カリキュラムを導入した2009(平成21)年度に学部・研究科を合わせた海外留学者は150人。その数は年々増加し、2013(平成25)年度には641人へと増加した=グラフ参照。
 その行く先は、同大学が重点を置くアジア地域の大学や、アメリカ、ヨーロッパなどの大学と広範囲にわたる。渡航する学生は理系文系、男女比なども偏りがあまりないという。
 海外協定校への留学は学生にとっては受講料の免除につながり、優秀な学生には渡航費の一部または全額を名古屋大学基金から補助する仕組みもあり、経済的な面でのメリットや支援があることも、留学を希望する学生には大きな魅力だ。
 「何度も語学留学を重ねるよりも、しっかりとこちらで勉強して、向こうの学生と同じ教室で学ぶことができるのが、海外留学としては理想だ」と岩城教授は話している。

名古屋大学の海外留学者数
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