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学校施設は建替からメンテナンスへ 今年度が期限となる「長寿命化計画の策定」

15面記事

施設特集

 老朽化が深刻化するこれからの学校施設には、計画的な保全・改修によって「長寿命化」を図りつつ、児童・生徒の成長を支える場にふさわしい環境づくりを目指していくことが求められている。また、近年頻発する災害を教訓に、避難所を兼ねる学校施設の防災機能の強化も急ピッチで進めていく必要も生まれている。こうしたことから、文部科学省は2020年度予算と補正予算等で前年度を大幅に上回る財源を確保し、各自治体が長寿命化のための計画・改修を速やかに実施できるよう対策を打ち出している。そこで本特集では、このように本格化する学校施設の「長寿命化」を焦点に、企業の提案や最新の事例を紹介する。

長寿命化計画で建物のライフサイクルを延ばす
 近年、地震や水害など大規模な災害に見舞われていることから、国は「防災・減災、国土強靭化のための3カ年緊急対策」を打ち出しており、学校施設等の耐震化や防災機能の強化、老朽化対策が重点化プログラムとして指定されている。こうした背景には、文部科学省が実施した「学校施設等の耐震性及び劣化状況に関する緊急点検(2018年10月末時点)」の結果で、安全性に課題がある学校施設が全国の半数近くを占めているといった現状があるからだ。
 事実、学校施設は経年25年以上の建物が全体の7割を占めるなど深刻な老朽化を迎えている。しかし、これまでのように校舎を建て替える施策では財政的に厳しいため、国は各自治体に対して、今年度までに学校施設に係る長寿命化計画(個別施設計画)を策定し、計画的・効率的な保全・改修を図ることで建物のライフサイクルを延ばすことを求めている。
 個別施設計画の策定は来年度以降の交付金を申請する際の前提条件になることから、各自治体は早期に策定する必要があるが、昨年4月時点での公立学校の策定率は15%と遅れが目立っている。このまま老朽化した施設を放置すれば、将来の負担増につながることになるとともに、今後、一斉に更新時期を迎えることを踏まえれば膨大な更新費用が見込まれることが分かっている。したがって、文部科学省では未策定の自治体を一覧で公開し、策定を促しているところだ。

トータルコストの縮減と併せ、教育環境の質的改善を
 こうした長寿命化計画には、子どもたちが安心して学ぶことができる教育環境を確保するため、中長期的な維持管理等に係るトータルコストの縮減および予算の平準化を図りつつ、安全・安心な施設環境に改修するとともに、教育環境の質的改善を併せて進めていく必要がある。
 たとえば、福岡市が策定した「学校施設長寿命化計画」では、これまで築30年で大規模改造を実施してきた校舎の使用目標年数を築60年に設定。今後は築20年、40年、60年に必要な改修を行うことで築80年まで延ばし、従来型保全と比べて30年間の年平均費用を約18%(50億円)削減することを試算している。
 その上で、学校施設の目指すべき姿としては、

 (1) 安心・安全な教育環境の確保=老朽化対策、防災機能強化等。
 (2) 学習・生活環境の向上=ICT環境整備、トイレ洋式化、バリアフリー化、断熱性向上、省エネルギー化、木材利用等。
 (3) 計画的・効率的な施設整備=予防保全、長寿命化、学校規模適正化、施設保有総量削減等。

 ―を挙げている。

学校施設の老朽化による安全、環境面での課題
 では、老朽化した学校施設には、具体的にどんな不具合が出ているのか。まず建物の安全面では、部材の経年劣化により外壁・内壁、窓などのひび割れ、モルタル浮き、落下や、鉄筋の腐食・コンクリートの劣化による強度の低下が進むこと。屋上等の雨漏りなどが生じ、設備機器や備品が損傷する事例も多く、アンケートでは、約半数の公立小学校でこうした構造体における安全面の課題が散見されているという。また、ガス・電気・水道の設備配管等の劣化も気になるところで、近年ではトイレの排水管の腐食によって異臭があるなどの事象が多く報告されている。
 一方、従来の施設は環境面の問題も大きい。壁、窓等の断熱化が図られていないため、室内の温熱環境が劣悪化しているとともに、照明器具も含めてエネルギー消費の面でも効率性に乏しいこと。あるいは機能面においても、トイレの洋式化、バリアフリー化などもされていないほか、現代の多様な教育内容・方法に応える多目的教室が少ないなど、施設自体の古さや使い勝手の悪さも指摘されている。
 さらに、校舎だけでなく、体育館や武道場などの屋内運動場の老朽化が進んでいる学校も多い。こちらも構造体自体の劣化はもちろん、吊り天井材や照明などいわゆる非構造部材の耐震対策も課題だ。また、古い仕様の建具のため、夏季は高温多湿、冬季は極度に冷え込むことになり、安全面・環境面いずれも問題が出てきている。

普通教室のエアコン整備率が急速に進展
 さらに、これからの学校施設は安全で豊かな環境を確保し、教育内容・方法の多様化に対応していかなければならない。そんな学校施設の快適な環境づくりの一つとして、年々猛暑が厳しくなる中で子どもたちの熱中症リスクを防ぐ、普通教室のエアコン整備の遅れが指摘されていた。
 だが、文部科学省が昨年9月に発表した公立小中学校のエアコン設置率では、2018年度の補正予算で臨時交付金を創設した効果もあり、78・4%(前年60・2%)と18・2ポイント増加した。
 10年前の設置率が2割にも満たなかったことを考えると隔世の感があり、高等学校の設置率も83・5%(前年77・2%)と進展していることから、今年度中にも、寒冷地をのぞく、すべての学校の普通教室にエアコンが整備される日が来るかもしれない。 

今後のトレンドは体育館のエアコン整備へ
 一方で、学校体育館の設置率はわずか3・2%(前年2%)にとどまっている。小中学校の体育館等でもっとも高い設置率は東京都の24・3%で、他都道府県はすべて5%未満である。こうした状況から、今後の整備の焦点は体育館のエアコン整備にシフトしていくことが見込まれる。なぜなら、公立学校の9割が災害時の避難所に指定されているからで、地域の防災機能の強化という観点からも、冷暖房化が重要だからだ。
 しかし、体育館のような広い空間をカバーするエアコンを整備するとなると、数千万規模の財源が必要になるという大きな課題が待ち構えている。また、現場の状況に合った空調機器の選定や施工方法を判断するのに多くの時間を要するほか、電気代や維持管理に係る費用も見込んでおかなければならないのも事実だ。
 そのため、財政に余裕のない自治体では、まずは工場などで使用する大型扇風機やスポットクーラーなどを導入し、クラブ活動などでの熱中症対策に役立てるところが多くなっている。これらの機器はエアコンが整備されたあとも、冷暖房効率を高める送風に活用することができる利点がある。
 こうしたなか、東京都は普通教室のエアコン整備を完了したことを受け、2018年末から、体育館に空調を整備する際の設置費補助事業を開始している。北区では、この補助を活用し、2020年度までに39小中学校の体育館でエアコンを設置する予定だ。
 現在、このような整備はすでに全校設置済みの3区1市に加え、台東、江東、目黒、渋谷、豊島、荒川の6区と武蔵野市、稲城市で進められており、来年度までにほぼ全校での導入を目指している。
 なお、避難所指定を受けている体育館へのエアコン設置については、総務省の「緊急防災・減災事業債」で支援しているが、今のところ事業の期限が今年度までになっている。

教育環境の向上や防災機能の強化も
 学校施設の質の向上では、ほかにもICT環境整備や省エネルギー化、トイレの洋式化やバリアフリー化、あるいはコミュニティスペースや少人数指導に対応した教室の整備などが待たれている。
 また、防災機能の強化という点でも、蓄電池等の非常時における電源確保、公衆Wi―Fiなどの通信手段の確保、マンホールトイレの整備などインフラ整備の遅れが顕著だ。加えて、今年は新型コロナウイルス感染症対策の備えとなる機器や備品の確保も必要になっている。学校施設の老朽化が迫る中で、自治体にはこうした視点も踏まえた計画的な改善が求められているのだ。

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