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想いを伝え、教職員を動かし、チームをつくる―ICTの利活用で難局を乗り切る―

12面記事

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学びの保障に向けた再開後の取り組み<高校編>
村越 みどり 神奈川県立厚木東高等学校校長

教職員へメッセージを発信
 3月当初はこんなことになるとは想像できず、プリントの復習課題を配付して最初の授業で提出させればよい、そう思っていました。しかし、4月に入っても臨時休業が続き、もしかしたらこのまま1学期は登校できないかもしれないという「学びの危機」に直面した時、校長としてまずしたことは、教職員にメッセージを発することでした。
 私が一番に伝えねばならなかったのは、「生徒の学びを止めない」ということでした。在宅の生徒にどのようにして<新しい学習内容>を<自学>させるのか。そして、登校日が持てず、定期テストも行えない最悪の場合、どうやって課題を回収し、公正に評価するのか。急ぎ各教科での連絡体制の構築、および、課題と評価の再検討を依頼しました。
 幸い神奈川県では、昨年度すべての県立高校にG-Suiteと教室Wi―Fi環境、そして82台のChromebookが導入され、本校では既に生徒へのアカウントの配付を終えていました。フォームを使った健康観察も始めていました。もうGoogle Classroomを使うしかありません。ほとんどの教員にとって初めてのツールですから手探りの状態です。しかし、この段階では、答え合わせしたプリント課題を最初の登校日に提出せよという指示がまだたくさんあったし、多くの教員がこれでは評定につながる評価を行えないと言っていました。
 いよいよ国の緊急事態宣言が出そうだという5月初め、再度メッセージを発しました。「コロナでテストができないから、提出物を出した人は全員評価を10段階の8にします!というようなやり方で、今必死で課題と格闘している生徒、普通の授業だったらもっと良い評価が期待できた3年生が納得するでしょうか?」
 私からのメッセージを受け取った学習支援グループリーダーは教科の意見を取りまとめて、職員向けガイドライン「授業と評価の基本方針」を策定しました。そして「できることから始めてください。限られた条件の中で、あるものを使って学びを継続し、評価するしかありません」と訴えたのです。これを機に先生方はさまざまなオンライン教材を創り始めました。

ピンチをチャンスに変える
 そこからの教員間の教え合い、チーム協働、生徒の頑張りは目を見張るばかりです。ICT推進校でも何でもない普通の高校の教員・生徒が突然のピンチにこれだけ頑張れたことを校長としてとても誇らしく思います。もちろん、課題は山ほどあります。でも今では、多くの教科で授業動画に取り組むまでになっています。
 生徒たちに向けても発信し続けました。当初は「コロナ感染症への認識を深めさせる。難局に負けず、勉強に取り組むよう鼓舞する」という内容でしたが、6月の学校再開が見えてくるころには「とにかく元気で、学校に来て!」と祈るような気持ちで発信しました。
 再開するとなったらまた準備が大変!分散登校の時間割、感染防止の3密対策、健康管理票、非接触型体温計や感染防止グッズの手配、清掃や消毒に疲労する教職員、在宅勤務など到底できない現状、文化祭や修学旅行はどうすべきか…。これからも課題は満載です。
 それでもこのピンチのおかげで、本校のICT利活用能力は格段に上がりました。生涯主体的に学び続ける力が求められる今、このツールは今後も本校生徒の自学力の育成に大いに役立つと確信しています。そして何より先生方が思いを受け取り、「挑戦」してくれたことが嬉しいのです。

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