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全国の高校生から寄せられた「今」を生き抜く力 日本大学 第2回 高校生作文コンクール

17面記事

企画特集

主催:学校法人 日本大学
共催:日本教育新聞社

 日本大学高校生作文コンクールは、昨年同大学が創立130周年を迎えたことを機にスタートした。2回目となる今回の応募総数は、新型コロナウィルス感染症拡大の影響が授業に出る状況下の募集でありながら前回を大きく上回った。2021年1月19日、日本大学会館本部で最終審査会が行われ、個人賞、学校賞を選出した。

作文を高校生のキャリア形成の一助に
この時代を切り拓こうとする力強い作品が2000点超

 日本大学高校生作文コンクールは、高校生たちが自分の生き方や進路など将来について深く考え、職業観・勤労観を育み、学習意欲を向上させることを願って日本大学が企画。第2回目となる今回は、前回の倍近くとなる2040作品が寄せられた。
 今回のテーマは『ぼくたち私たちが考える「今」を生き抜く力』。時世を反映し、コロナ禍の経験で大切だと思うようになった「力」から、「今」を生き抜く力を発想した作品が目立った。

ウィズコロナで模索した「生きる力」が前面に
 第一次・第二次選考を通過した20作品から個人賞、学校賞を選出する最終審査会は2021年1月19日、日本大学会館本部で行われた。審査委員長は全国高等学校長協会前会長・笹のぶえ氏。審査員は内藤明典氏(日本大学企画広報部長)、小林幹長氏(日本教育新聞社代表取締役社長)。
 「将来への抱負、目標設定、それに向かって努力するための計画がしっかり書かれているかが審査のポイント」と笹氏。最優秀賞である日本大学賞には、福島県立いわき支援学校の西川梨花さんの作品が選ばれた。笹氏は、「コロナ禍もあってか、全体としてキャリアについて述べている作品が少なかったのが残念。西川さんは、地域の衣料品を扱う企業で働きたいという目標を掲げ、それをかなえるために卒業までにすべきことを3つ挙げ、抱負をきっちり書いていた」と評価。「今を生き抜く力を、ウィズコロナを生きる力と捉えた作品が多かったが、コロナ以降の予測不可能な時代に問われる力まで書いてほしかった。西川さんは『今』と『これから』を強調。これからの時代を生きていく意志をくみ取ることができた」と講評した。
 キャリア教育に熱心な学校を応援したいという思いから、前回1校だった学校賞は3校に。「本校の理念である“自主創造”につながる気付きの機会となるよう、全国の高校生の励みとなるようなコンクールに育てていきたい」と、主催者を代表して日本大学の内藤氏。


最終審査会の様子

日本大学賞 受賞作品

「壁」を乗り越えた私が、これから社会で生き抜くために
西川 梨花さん 福島県立いわき支援学校3年

 私は、福島県にある特別支援学校に通う高校3年生です。800グラム足らずの超低体重児として生まれたために軽度の知的障害が残り、18年間障がいとともに生活してきました。私の障がいの特徴は、主に学習を定着させるのが難しかったり、体が思うように動かなかったりすることです。中学校時代は、このことが原因で周りの人たちから心無い言葉をぶつけられたり、勉強や授業等、学習にかかわることすべてが嫌になり、学校に足が向かなくなったりしたこともありました。当時は気力を振り絞り登校できたとしても週2日が限界で、学校に行けない劣等感と罪悪感で毎日朝が来るのが怖くて常に逃げ出したい気持ちで過ごしていたことを覚えています。半年間に及ぶ不登校の日々は毎日が自分との闘いで、私にとって忘れられない「壁」にぶつかった瞬間でした。学校側にいろいろと配慮してもらったり、特別支援学級に通えるようになったりしてから、少しずつ自分の得意不得意を理解し、苦手なことも一つの個性として受け入れられるようになりました。それからは、学校に行くことが段々と楽しくなっていきました。学校見学の時、少人数で生き生きと勉強している先輩の姿を見て進学を決めた高等部では、自分が、そして生徒のみんなが「楽しい」と思える学校にするために、生徒会役員に立候補しました。悩んでいる人の気持ちが誰よりも理解できる私だからこそできることがあると考えたからです。現在は、生徒会長としてあいさつ運動や生徒会長サミットなど様々な活動に力を入れて取り組んでいます。生徒会活動を通して多くのことを経験し、信頼できる友達や先生に出会えたことで、すべてにおいて消極的だった私も少しずつ自分に自信を持てるようになり、自分の進路や将来について前向きに考えられるようになりました。
 卒業後は、実習で自分に合いそうだと感じた地域の衣料品を扱う企業で働きたいと考えています。働いてもらった給料で、車の免許を取得し、これまで迷惑をかけてきた家族を旅行に連れて行くことが、働くうえでの目標です。そんな私が『今』、そして『これから』社会の中で生き抜いていくために、卒業までのあと半年で頑張りたいことが3つあります。一つ目は、「休まず働くことができる体力をつけること」です。私の希望している職種は立ち仕事が多いので、日頃から体育の時間を大切にして授業を受けていきたいです。
 2つ目は、「任された仕事に責任をもって取り組むこと」です。これから社会人になると、どんなことにも責任が生まれ、自分の言動や行動が見られるので、仕事面でもしっかりと任された仕事をこなしていきたいと思います。
 3つ目は、「できないことを素直に認め、相手に自分の弱みをちゃんと見せること」です。これまで、私は、相手に自分が出来ないことや苦手なことを伝えることに悔しさや恥ずかしさがありました。そんな時、担任の先生から「難しい事や苦手なことについて、できるようになるまでチャレンジしようとする姿勢は素晴らしいこと。でも、相談したり協力を求めたりしながら進めることも、仕事をしていく上では大切だ。」と助言を受けました。今まで、自分に苦手なこともチャレンジしてきましたが、思い返すと、頑張ってもできないことがありました。
 今後はチャレンジ精神も大切にしながら、一人ではどうにもならないことは、人に相談したり、協力を求めたりしながら、社会に出ていく準備をしていきたいと思います。

受賞者インタビュー

日本大学賞
西川 梨花さん 福島県立いわき支援学校

 ―応募のきっかけを教えてください。
 先生に勧められたのがきっかけです。自分の経験をいろいろな人に知ってほしいので応募しました。

 ―受賞の率直な感想をお聞かせください。
 書いているときは、まさか賞を取れるとは思っていなかったです。受賞の知らせを聞いたときはとてもうれしかったです。

 ―今後の抱負をお聞かせください。
 これから社会人として仕事を頑張っていきたいと思います。

・学校賞

熊本市立必由館高校

森川 晃太郎 教諭
 自然災害やコロナ大流行など、目まぐるしい社会変化の中で生きている生徒たちは、将来に対して不安を抱えています。このような中、作文を書くことによって、改めて自分の将来を見つめ直す良い機会に繋がったと考えます。

東海大学付属静岡翔洋高校

井上 慎太郎 教諭
 このような栄えある賞を頂戴いたしまして、一生懸命取り組んだ生徒たちに感謝したいです。今後も文章指導を通して、物事を真剣に考えることの重要性や、自らの考えを表現することの楽しさを生徒達に伝えられるように精進し、邁進していきたいと思います。

熊本県立天草高等学校

林田 博美 教諭
 それぞれの生徒が、将来について主体的に考える機会となり、友人と協力し、自分自身と対話しながら一つにまとめることができたので、今後の進路学習の基礎として、進路実現に向けて活かしていってくれることと思います。

 優秀賞以下は次の通り。

・優秀賞
 石川珠名さん(札幌日大高校)
 森口航大さん(福井県立若狭高校)

・佳作
 田村萌衣さん(青翔開智高校)
 金鶴航輝さん(成城学園高校)
 川合理緒那さん(日大山形高校)
 千葉綾音さん(土浦日大高校)
 謝敷英里さん(沖縄県立宮古総合実業高校)

 日本大学賞、学校賞には賞状・楯・副賞が、優秀賞、佳作には賞状・副賞が贈呈された。
 受賞作品は日本大学/日本教育新聞社等の刊行物・ホームページ等に掲載されている。

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