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1人1台端末の整備とこれからの活用法 高等学校での導入に向けて

10面記事

ICT教育特集

学びの伴走者、支援者として生徒と一緒に学ぶ

小林 祐紀 茨城大学教育学部准教授・博士(学術)
 金沢大学大学院修了後金沢市内公立小学校教諭を経て2015年4月より現職。著者に『小学校プログラミング教育の研修ガイドブック』(翔泳社)など。

 今年度から高等学校でプログラミングなどを学ぶ新たな必修科目「情報Ⅰ」が始まることもあり、文部科学省は全高等学校への端末整備を自治体に促し、令和6年度中には全学年への配備が完了する予定だ。すでに1人1台整備がほぼ完了した小・中学校での成果、高等学校での課題やその解決法、準備や対応などについて茨城大学教育学部准教授・小林祐紀氏に聞いた。

使ってみることが第一歩

 ―高等学校での1人1台端末配備に向け、先生方はまず何から始めるべきでしょうか。

 小林祐紀氏(以下、敬称略) まず改訂した学習指導要領の総則、教科担当部分、そして前文をぜひ読んでいただきたいです。ICTは情報を伝える道具ではなく、未来を生きる子どもたちの情報活用能力を育成する1つの方法だということが理解できるでしょう。
 また、すべての教科での探究的な学びにおいて、個別最適化、協働的な学び、STEAM化が重要であることも認知することができ、これからの自身の授業のあり方を確認できると思います。「ICTは道具ではない」とは矛盾するようですが、使ってみることが第一歩です。
 まずはこれまで紙でやっていたことをICTに置き換えることから始め、少しずつ新たな機能も使ってみる。学習支援アプリには学習カードを自由に送ったり、線やコメントを自在に書き込んだりできるものもたくさんあります。さまざまな学習場面で応用していければ、授業の再設計にもつながるでしょう。

 ―具体的な活用法について教えて下さい。

 小林 私が主宰する茨城県の小学校教諭のICT活用研究グループでは5つのポイントが挙げられました。
 1つ目はカメラ機能の活用。
 2つ目はNHK for Schoolや、情報活用能力を刺激するような優れた番組を自宅や授業で必要に応じて視聴するといったコンテンツの活用です。
 3つ目は日常的なプレゼンテーションへの活用。電子黒板やプロジェクターを使ってみんなの前で発表するというよりは、端末を使って自分の考えや調べた結果を隣の人やグループの人に見てもらい、協議が始まるような小さなプレゼンです。
 4つ目はレポート、新聞、動画など共同制作での活用。ある高校では問題の解き方の動画制作をしましたが、問題解決能力、情報活用能力、共同思考能力を育む非常に面白い実例だと思っています。
 5つ目は評価での活用。今日の学びを振り返って次につなげていくことは個別最適化の実現につながるでしょう。

生徒同士のスキル差は「教え合い」も活用

 ―ICTスキルに不安がある先生方に活用の仕方のアドバイスをお願いします。

 小林 高校の場合、ホームルーム、学校行事、委員会活動など授業外から始めるのはいかがでしょうか。前述した活用法の5つのポイントは、教科、学年を問わず、さまざまな学習場面で活用できるので、何度も繰り返し試すことで自身のコツを会得できると思います。

―高校では生徒の端末がそれぞれ違ったり、ICTスキルにばらつきがある状況下で学習がスタートします。

 小林 デジタルネイティブである子どもたち同士の教え合いに、ある程度はまかせてもよいと思っています。大事なのは授業を通してどのような力をつけたいのか、そのためにどのような学習活動が必要かを考えることです。

 ―育てたい力に立ち返ることが大事ですね。

 小林 はい。受験もしかりです。大学入学共通テストでは、驚くほど出題傾向が変わりましたね。英語で見られた、「このレポートをあなたがスライドにまとめてプレゼンテーションするならどんなタイトルやキーワードを入れるか」という問いなどは、まさに探究的な学びの1シーンそのもの。問題傾向に合わせて問題集をこなすだけでなく、「こういった問題を解ける子どもを育てるためにICTを活用して何ができるだろう?」と逆算して授業デザインをすることが大事です。
 高校ではとかく試験に目が行きがちで、個の学びと協働的な学習の両立は難題ですが、まとめる、振り返る、伝えるといったさまざまな場面でICTを使ってみんなで学んで賢くなれば、そこで学ぶ自分ももっと賢くなれるという意識を生徒に持たせてあげてほしいと思います。

問題をポジティブに乗り越える体制づくりを

 ―事前に必要な準備、対応、心構えについてはいかがでしょうか。

 小林 学年や教科部会で、活用の成功・失敗事例も含めて情報を共有できるような体制づくりをしたり、ミドルリーダーがうまく橋渡ししたりして、ベテラン教員が若手から学ぶ機会づくりができたらいいですね。
 また、問題が起きたときに誰に聞くか、担当者を決めておくことも大事です。生徒への禁止事項については、システム上の制限をするにしても、徐々に解放できるような策を取っていただきたい。最初は面白がって動画サイトなどを見てしまうかもしれませんが、それも人間の性です。教員には「ほらね、こんなこともできるんだよ。こんなにアイデアが集まったね」と、生徒にできることを実感させ、ポジティブに乗り越えてほしいと願っています。

 ―学びの面白さを伝えるチャンスと捉えたいですね。

 小林 そこが腕の見せ所です。一足飛びに授業が変わることはないけれど、変わろうとする意思は持ち続け、生徒と一緒に学び、考える姿勢と、小さい結果を積み重ねていく努力が必要。教員は万能である必要はなく、学びの伴走者、支援者であってほしいと思います。
 教科の枠組みを超えてもう一度学び合うような仕組みを学校や地域の中で行えたらいいですね。教科専門性が高い高校教員が授業力を高めるための話題でつながり合えれば、わが国の高等学校教育に希望が見えてくるでしょう。

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