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一刀両断 実践者の視点から【第695回】

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全国学力調査の矛盾

 今年の全国学力・学習状況調査の結果が公表された。中学生の数学では、平均正答率が初めて5割を切ったと報じられている。こうした数字を根拠に、さまざまな動きが始まる。
 長年、教員選考などに関わってきた経験から、いくつか指摘しておきたい。
 まず、難易度が同等の問題を毎年作成すること自体が困難である。そのため、正答率が年によって変動するのは当然だ。なぜなら、わずかな文言の違いで問題の難易度は大きく変わるからだ。
 今回は数学の平均正答率が50%を下回り、小・中ともに前年度を下回ったと報じられた。しかし、それが何を意味するのか。そう問い返したい。
 さらに、都道府県や市町村ごとの結果が公表されると、またしても一喜一憂が繰り返されるだろう。
 こうした数値の比較をもとに教育政策が動くことがあるが、それが子どもの幸福とどれだけ関係しているのか。そして、「学びの質」という視点から見て、本当に意味があるのか。
 ドイツは連邦国家であり、州ごとに教育内容が異なる。教育大臣も州ごとに存在する。もし日本でも、自治体ごとに裁量権が認められていたら、「うちはうちでやる」という意識が育ったのではないか。
 つまり、他と比べたり責め合ったりして、一時的な学力を追いかけることが、子どもの幸せにつながるとは思えない。
 校長を務めていたころ、学力調査の結果が大きく向上したため、学校のホームページに掲載したことがあった。するとすぐに教育委員会から指導が入り、削除するように求められた。おそらく、他校との比較が問題になると考えたのだろう。
 しかし、こちらは「これだけ頑張っている」という視点で伝えたつもりだった。それでも「比較されるから困る」という理由で削除を余儀なくされた。
 比較を恐れて、学校は結果を堂々と出せないのに、自治体は数値を出してしまう。この矛盾はどういうことなのか。
 ややもすると、こうした数値が本来の目的を外れて、さまざまな評価の材料にされてしまっているのではないか。そう指摘しておきたい。
(おおくぼ・としき 千葉県内で公立小学校教諭、教頭、校長を経て定年退職。再任用で新任校長育成担当。千葉県教委任用室長、主席指導主事、大学教授、かしみんFM人生相談「幸せの玉手箱」パーソナリティなどを歴任。教育講演は年100回ほど。日本ギフテッド&タレンテッド教育協会理事。)

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