2025年版 教育・科学技術イノベーションの現状と課題【世界と日本】
12面記事
公益社団法人科学技術国際交流センター 編
長年にわたる低投資を指摘
世界と日本の教育、科学技術イノベーションの現況と課題を客観的なデータに基づき分析し、日本凋落の原因は教育や科学技術に対する長年にわたる低投資だと訴える。
執筆者は研究者、行政官、民間企業の人など。巻頭言の野依良治さん、第5章等の沖村憲樹さんの文章が特に熱い。
教育については、日本は公費の比率が先進国で最も低い部類で、教育の高い成果は教員の献身的な取り組みと保護者の教育費負担で維持されてきたことや、日本は大学生の年齢的均質性が非常に高いこと(社会人学生が少ない)などはよく知られている。
一方、大学への入り口で「落とすため」の入試は東アジアくらいで世界では少数派であること、多くの国は書類審査中心の「受け入れるため」の選考で学生の質保証は卒業時点での出口であることなど、日本でも参考にし採り入れる努力をすべきと感じる知見も豊富に盛り込まれている。
TALISでわが国の教育の弱点として指摘されている「明らかな解決方法が存在しない問題」「批判的に考える必要のある問題」「完成までに一週間以上必要とする問題」などは、その通りだと実感するし、授業の在り方や入試の根本的な見直しを迫るものでもあろう。
現状の正しい理解の上に未来への展望と挑戦を示唆する「憂国の書」だと感じた。
(4620円 ジアース教育新社)
(浅田 和伸・長崎県立大学学長)