世界一の侍選手の育ち方 ふつうの息子がプロ野球選手になれたワケ
16面記事
近藤 義男 著
好奇心の芽摘まぬ環境づくり
大谷翔平選手然り。横綱の大の里然り。トップアスリートの育成基盤に「父」の存在がある。アスリートに限らず世の中で活躍する他分野の著名人も全く同様である。
本書の主役であるソフトバンクの近藤健介選手も「父」なしでは語れない。その「父」であり著者の近藤義男氏は元千葉市立小学校校長であった。教諭時代、健介がまだ小学生だった頃、毎日退勤後にバッティングセンターに連れて行った。中学生の時、進学先の中学校近くに家族で引っ越した。健介の「やりたい」という意思を尊重して、好きなことを存分に頑張れる環境をつくっていった。第3章「成長のカギは向上心と好奇心」の中で、「いいよ、好きなことをどんどんやりなよ」とその芽を摘まないようにしてきたと述べている。すなわち、「育て方」ではなく、タイトルにあるように「育ち方」というスタンスである。主体性は「したいぜー」なのである。
しかし、子どもの「やりたい」をただ待っていても、なかなかその域に行かないことも多い。大人は子どもの「やりたい」気持ちを掘り起こすため、夢中にさせる仕掛けをつくる環境づくりこそが育ち方の「機微」であることを本書は語っている。
子育てに悩む親に、また主体性を重んじる学級経営を目指す教師に、光を与えてくれる良書である。学級文庫・学校図書に置くことをお勧めする。
(1980円 カンゼン)
(青木 一・信州大学大学院特任教授)