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外部試験活用を柱に4技能を高める授業へ

10面記事

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全国10会場、英語教員ら集い盛況
本社主催・英語教育改革先取り対応セミナー

 2020(平成32)年から本格的に実施される英語教育改革を見据え、この夏、全国10会場で開催された「英語教育改革先取り対応セミナー〜TOEFLなど外部試験を活用した授業力アップ」(日本教育新聞主催、(株)ナガセ共催)。外部試験の導入をてこに、聞く・読む・話す・書く―の4技能をバランス良く高める授業へどうつなげればよいのか。東進ハイスクールの人気講師・安河内哲也さんと英語教育改革をけん引する文科省の教科調査官らが講師を務めたセミナーに、10会場で中学校や高校の教員ら計約2千人が参加した。

来賓あいさつ
発信する力、適切に評価を
山中 伸一 文部科学事務次官

 「英語教育改革先取り対応セミナー」は、文科省や外務省、米国大使館の他、開催地を中心に多くの道府県教育委員会や中学、高校の校長会から後援を得た。東京会場では、文科省の山中伸一・事務次官が来賓としてあいさつした。

 これからの日本は、人口減少とグローバル化という社会の大きな変化に対応していかなければいけません。例えば、トヨタ自動車の販売台数を見ると、20年前は海外販売と国内販売が50%ずつでしたが、現在では国内は17%、海外は83%を占めます。
 これから50年で日本の人口は30%減り、9千万人を割ると予想されています。そうなると、日本社会が発展し、世界で貢献するためには吸収するだけの知識ではなく、発信する力がないと難しくなります。
 そして、実際には英語が必要です。20年、30年後、子どもたちが30代や40代になって活躍するためには、今のうちに、そうした力を付けておく必要があります。また、付けさせるのが、今の世代の責任なのではないかと思っています。
 文科省では、2020年がちょうどオリンピック・パラリンピック開催の年になったので、そこをターゲットイヤーとして日本の英語教育を変えたいと考えています。
 従来の英語教育は吸収する力・理解する力が中心でした。大学入試もほとんどが読解力でしたが、聞く・話す能力を評価する検定試験を活用するよう提言しています。おそらく短い間に大学入試も大きく変わります。
 学校教育の中で、英語で発信する力を付けさせ、それを適切に評価する。これを基本的な改革の方向性として取り組んでいきたいと思います。

間違い恐れず言葉使おう
太田 光春 文科省初等中等教育局視学官

 8月21日の仙台会場では、太田光春・文科省初等中等教育局視学官が講演。「コミュニケーション能力の育成を目指して―自律した学習者を育てる―」をテーマに、これからの英語の授業で求められることについて話した。
 高校教諭を経て、国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官などを歴任した太田視学官は、まず、「英語はコミュニケーションの道具。情報や考え、気持ちを伝える目的で使うもの」と、英語を学んで活用していく本質的な意義を述べた。
 そのことを踏まえて、外国語教育(英語教育)成功の鍵を、「自律した学習者を育てること」と定義した。これについて、「学校がどれだけ頑張っても、英語に(スタートラインという)3千時間触れる時間を担保することはできない。そして、日本の環境では教室外で英語に触れる必要がない」と現状を示し、「だからこそ、学校外でも英語に触れたいと思い、自分で英語を求めて学んでいく人を育てる必要がある」と理由を語った。
 大切なこととして挙げたのは、「英語の学び方を教えること」「教室内で英語に触れること」「実際のコミュニケーションの場として、英語を使って伝え合う経験をすること」。そして、授業では、「4技能をバランス良く扱う」「生徒の状況に応じた言葉を使い全てを英語で行う」「生徒のやりとりを大切に展開する」などが重要とした。
 さらに、成功のキーポイントとして「小さな成功体験の積み重ね」「間違いを恐れずに言葉を使う姿勢」などを示した。特に「間違い―」については、「英語の力が身に付くためにはどれだけ失敗したかが大切で、教室に生徒の間違いを受け入れる雰囲気があることが必要」と述べた。
 また、英語によるコミュニケーションを通して、人との関わりの中で言葉を使える人間を育てることの重要性も強調。「言葉は人と人をつなぐもの。そういう体験を生徒にさせるべき」と話した。そして、生徒が生涯にわたって英語を学び続ける基盤づくりになる授業を行うことが必要と訴え、「先生方と力を合わせて、学習者に優しい、時間と労力の報われる英語教育を実現したい」とまとめた。

児童引き付ける力も必要
向後 秀明 文科省国際教育課外国語教育推進室教科調査官

 8月18日の広島会場では、文科省の国際教育課外国語教育推進室の向後秀明教科調査官が講演。文科省での英語教育改革の動向や英語授業の改善方法について解説した。
 改革の動向の解説では始めに、改革が東京オリンピック・パラリンピックだけを視野に入れたものではないという調査官自らの考えを強調。その上で、小学校では専科教員の積極的活用で教科化を検討していること、中学校では英語で授業を行うことを基本とすること、高校では卒業時点でTOEFL―iBT57点以上程度の英語力を目指すことなどを説明した。
 小学校の教科化について調査官は、「専科教員や外部教員の活用促進は重要だが、小学校には小学校の文化があり、児童を引き付ける力も必要になる。担任もできる専科教員のような人材育成が必要」と語った。
 また中学校や高校の改革については、こうした改革を学校現場で実施するのは難しいという声もあることを挙げながら、「これからは『不可能だと思ったら全てできなくなる。何かできることはないかと考えれば、新しいものを生み出すきっかけになる』という気持ちで教師は改革を進める必要がある。子どもにとって一番の方法を考え続けるのが教師の責務」と話した。
 授業改善の解説ではまず、「英語で授業」の方針は目的ではなく、「生徒が英語に触れる機会を充実する」「授業を実際のコミュニケーションの場とする」ための手段であることを強調した。また改善の具体例として、和文と英文の比較をやめる、初見の文章を読んで概要を発表させる、文章から単語だけのメモを作りそれに基づいて即興的に発表させる―などの実践を紹介。CAN―DOリスト形式の評価の在り方についても解説した。
 最後に「改革には管理職の外国語教育に対する明確なビジョンが必要」と向後教科調査官は話す。学校全体でまとまって取り組む必要性を語った。

目的持たせた学習活動に
小泉 仁 東京家政大学教授

 8月5日に開かれた札幌会場で講演した小泉仁・東京家政大学教授は「4技能を高める英語指導」のテーマで、会場の参加者を生徒役にしたミニ授業も挟みながら話した。
 高校教諭を経て、文科省の教科書調査官も担当した小泉教授は、これまで「使える英語」を目指して学習指導要領が改訂を重ねる一方で、検定教科書は訳読中心の授業を想定した内容が多く、変化が少ないことを指摘した。「教科書が変わるには、選ぶ側である学校現場の意識が変わる必要がある」と訴えた。
 これからの英語の授業については「内容重視」(コンテントベース)の指導を強調した。導入で教師と生徒が英語でやりとりしながら学習テーマに迫る。その過程で読むことや書くことの指導をすることを主張した。
 例として参加者に示したのは富士山を題材とした授業だ。
 写真や浮世絵など、さまざまな富士山をスクリーンに映し出しながら、参加者に英語で質問を投げ掛けた。
 「富士山の標高は何メートルあるか分かる人は」
 「この写真は、どこから見た富士山だと思う」
 こうしたやりとりを通して静岡、山梨の県境に位置することや、古くから日本人の信仰の対象となっていることを理解させた後、授業では生徒同士でクイズを出し合いながら内容を確認させるなど「目的を持って英語を使わせることが重要だ」と話した。
 また、英語教育を行う上で、小・中・高の連携の必要性についても強調した。英語での音声に慣れ親しむことを目的とした小学校の外国語活動は、単語を頼りに相手のメッセージを理解する言語学習だとして、中学校から体系を基本とした学習に切り替えることは生徒の戸惑いも大きくなると指摘する。
 中学校の授業が、小学校を引き継ぐ形で行われたら、英語で聞いて理解したり表現したりすることに慣れるという。こうした土台の上で高校の英語教育が「高校レベルの英語を用いて行う英語の授業」になると指摘した。

単元デザインで伸び確認
加納 幹雄 岐阜聖徳学園大学教授

 8月4日の横浜会場で講演したのは、文科省初等中等教育局教科調査官を務め、退官後は岐阜聖徳学園大学で教員養成に関わる加納幹雄教授。
 加納教授はまず、現在の英語教育が「大学入試をゴールとしてしまっている」と問題提起。「特に現状、受験に合格した瞬間から学力低下が始まってしまう点が深刻」と認識を示す。その原因の一端は「教室英語」にもあると指摘。「教室や受験でしか通用しない英語は特殊な世界。実践的でない疑似的コミュニケーションだ」と語る。
 そんな現状を変えるためには「英語教師の認識が変わる」必要があると説く。グローバル化のさらなる進行により、今後の生徒たちは、日本国外へも目を向けざるを得なくなると強調する。未来を生きる生徒たちのためにも「先生方がぜひ生きた英語に触れ、自分や日本を取り巻く世界情勢を、リアルに認識してほしい」。
 新学習指導要領の解説の「英語の授業は基本的に英語で行うことを原則とする」という方針について、これは「従来の英語の授業スタイルを根本から変えなさいという意味」だと指摘した。
 そのための提言として、まずは英語の土壌づくりから取り組み、その上に発展的な学びを積み重ねていくべきだと訴える。
 具体的には生徒の英語力の成長が、着実につかめる単元デザインを提案。1学期から3学期にかけての力の伸びを想定した年間デザインを基に、習得した英語をしっかり活用する段階へと発展させなければいけない、と求めた。
 生徒が自分自身で学びの意図や理解度の現在地点が分かり、次に学ぶことの見通しが立てられるようになることこそ、今後の英語教育の目指すゴールであるとまとめた。

生徒目線で授業パフォーマンス
鈴木 典比古 国際教養大学理事長・学長

 国際教養大学は、入学生全員にTOEFLを受験させ、授業は全て英語で行います。教員の比率は外国人が6割、日本人が4割と日本人教員の方がマイノリティーです。さまざまな授業を教える上で、教員も努力しなければ学生に対応できなくなります。
 授業は少人数で行われるため、学生たちは隠れる場所がありません。特に対話やディスカッションで進むので、絶えず参加が求められます。自分の意見を持っていないとついていけない。つまり、自分という個性を持っていなければ、授業についていけない厳しい状況に置かれます。
 3年になると全員が1年間、海外に留学します。留学先での成績は卒業単位になるので、決して語学研修ではないのです。
 そういう状況で生き延び、向こう岸へと渡った学生は、一皮も二皮もむけ、もう教員の言うことをうのみにはしません。教員に対してチャレンジするのが基本的な授業への参加態度になります。それを受けて、教員もクラスマネジメントしなければいけません。教員と学生はクラスで真剣勝負です。もちろん、学期末には学生による評価も受けます。
 一方で、国際教養大学の中では3年生は留学生を受け入れており、1、2、4年生が日本人、3年生が外国人という構成になります。それに応える授業をするためには必然的に、国際基準のシームレスなカリキュラムとなります。
 日本の大学はこうしたレベルにならなければ世界の流れに伍(ご)していけません。大学がこのようになっているため、その前段階である高校や中学でも、生徒はチャレンジングな授業態度に変わっていかざるを得ないと思います。教員も変わっていかざるを得ません。
 英語力に関して言えば、日本の先生たちの力は十分だと思います。足りないのは、クラスをマネジメントしようとする態度です。つまり、授業でのパフォーマンスです。直立で教えるのではなく、生徒の中に入り、彼らの目線で語り掛けながら授業をしようとする努力です。
 最初は、いろいろ恥ずかしい間違いも犯すと思いますが、そんなことは当然です。それもパフォーマンスの一つだと思って授業を進めてください。授業で生徒を支配しようなどと思わないでください。怖がらず恥ずかしがらず、失敗をたくさんしながら、生徒と共に授業をつくり上げてください。

テストに高い信頼性
ETS上級副社長ら講演
スコット・ネルソン氏 スコット・パリス氏 デイビッド・ペイン氏

 大学入試などへの外部検定試験の活用が検討されている。その一つがTOEFLテストで、問題作成などを行うアメリカの非営利機関ETSの上級副社長スコット・ネルソン氏、副社長のスコット・パリス、デイビッド・ペインの両氏が「TOEFLが世界規模での英語テストのグローバルスタンダードになっている。そして日本でも」というテーマで講演した。
 ただ、現場の教員には、いまだなじみが薄いTOEFLテスト。参加者の多くは英語教員だったが、内容を正確に理解してもらうためにも、講演内容は同時通訳された。
 「ETSの使命は、世界中の英語学習者に対する教育の質や公平性を高めること」とネルソン氏。そのために、「信頼性の高いテストを作り出し、そのTOEFLテストは教員の自らの英語力を高める指標としても活用できる」と述べた。
 インターネット上のテスト(iBT)は2005年に導入された。英語の4技能全てを測定することができるのが特徴だ。テスト問題は妥当性や公平性を重視し、1問につき開発に6〜18カ月の期間を要している。4技能のうち、スピーキング(「話す」)では試験官による面接ではなく、受験者の解答を録音してETSの3〜6人の採点者が評価し、点数の客観性を保っている。
 TOEFLは130カ国9千以上の大学などに認められ、他のどの試験よりも「留学などに対応した信頼性の高いテストとして評価されている」と説明した。
 TOEFLテストの受験者数で比べると、日本は毎年、15位以内に入っている。それでも、教員で外部検定試験を受験した経験のある人は、必ずしも多くないことが文科省の調査などからも明らかになっている。ETSは、TOEFLについてもっと知りたい教員のために、動画投稿サイト「YouTube」に専用チャンネルを設け、理解を深めてもらおうとしている。

教員は発話促すコーチ役
安河内 哲也 東進ハイスクール英語講師

 東進ハイスクールの著名講師であり、また文科省「英語教育の在り方に関する有識者会議」の委員も務める安河内哲也氏は、大学入試の現状と生徒の英語スキルを伸ばすための具体的な授業改善の方法について講演した。
 安河内氏は、これまでの大学入試は読解・和訳・文法・語彙(ごい)が全体の8割を占め、リスニングは2%以下、スピーキングに至ってはほとんど出題されておらず、マークシートによるリーディングのみの試験となっている私立大学も多いと説明。この偏った英語スキルのみを測る現状の大学入試を4技能を測るものへと変換することで、小学校からの学習指導要領に即した「聞く・読む・話す・書く」の4技能のバランスの取れた指導から大学での英語活動の充実や留学まで、一貫した英語教育が実現できると強調する。そこで安河内氏が提案したのは、英語力を最大限に伸ばすための授業をつくるポイントとスピーキングテストの方法。英語スキルの向上には理論の習得よりも練習量が重要だという。そのため、授業はあくまで生徒が安心して英語の実践練習に取り組む時間とし、教員には生徒の発話を促すコーチとしての役割を求めた。
 具体的には、「音読をする前に文法や語彙の説明をする。意味調べや全文和訳に時間を費やさない」「生徒により良い発音を身に付けさせるため、音読では音声教材をうまく活用してネーティブスピーカーが話した後に繰り返させる」「文脈ごとに、英文をその場で日本語に訳し読み上げる『サイト・トランスレーション』を取り入れること」などだ。
 また、スピーキングテストの手法として、「Responses(質問を投げ掛けてその答えを述べさせる)」「Short speech(一つのテーマを提示し、15秒の準備時間を設けて1分程度のスピーチをさせる)」「Description(写真や絵などを提示し、45秒で描かれているものや状況を説明する)」を、実演を交えながら紹介した。
 最後には、英語講師となった自らの経緯を振り返りながら、その熱い思いを語った安河内氏。「英語はアメリカ人やイギリス人といった一部の人のものではなく、今や世界の共通言語。半数以上の人々がわれわれ同様、ノンネーティブとして英語を使い、コミュニケーションを図っている。ぜひ英語教員を志した当初の思いに立ち戻り、今こそ大学入試の呪縛からの解放を目指して一歩を踏み出してほしい」と会場にエールを送った。

分科会
TOEFLを実際に体験

 分科会Aでは、TOEFL―iBTの受験体験を実施。広島会場(8月18日)では、リスニングとスピーキングテストの体験に同県内の教員らが臨んだ。リスニングでは、「学生同士」や「教授と学生」の会話をそれぞれ3分程度聞き、各5問の選択問題を解いた。スピーキングでは、リーディングとリスニング、スピーキングの複合的な能力を測る「インテグレーテッドタスク」に臨んだ。
 タスクでは受験者に英文のレジュメが配布される。受験者は制限時間以内にそれを読み、次にレジュメの内容の会話を聞く。そして内容を整理する時間の後、レジュメと会話の内容に関するスピーチを行うという手順で行われる。
 体験では45秒でレジュメ読解、60秒の会話文を聞き、表示された質問について30秒で解答を用意。その後4分間でスピーチの内容を考え、隣席の人に60秒間スピーチすることになった。スピーチでは、60秒間話し続けることができず、早めに話し終わってしまう参加者の姿が多かった。
 参加者からは、「勉強不足を痛感した。長年中学校の教員をやっているが、会話力も語彙力もさびついている。自身をブラッシュアップしないといけないと危機感を感じた」(中学校教諭・女性)、「TOEFLがどういうものか分かった。学校が留学を許してくれるなら受けてみたいと思う。ただ、普段の業務が忙しくて勉強している時間がない」(高校教諭・男性)、「試験内容に自分が専門としている分野の内容が出てくれば高得点が望めるが、そうでないと難しい」(高校教諭・男性)といった声が上がった。

「話す」「書く」技術向上で演習
 埼玉会場(8月22日)のB分科会では「スピーキング・ライティングの技術向上ワークショップ」を実施。TOEFL専門トレーナーの鬼頭和也・東海大学非常勤講師が、中学校や高校での日頃の授業を通して、TOEFLの「スピーキング」「ライティング」の技能を高める具体策を、演習を通して説明した。
 スピーキングは、「Independent Tasks」(独立問題)と「Integrated Tasks」(統合問題)の2種類があり、採点基準は(1)Delivery(話し方…発音やイントネーション、早さなど)(2)Language Use(言葉の使い方…言葉遣いや文法、スムーズさなど)(3)Topic Development(内容の充実ぶり)―の三つ。
 これらの概要を伝えながら、サンプルの質問を投げ掛け、参加者同士で話をさせた。サンプルの回答も示し、その改善点なども解説。
 (1)について鬼頭トレーナーは、「インターネットなどでよく、『ネーティブの発音に近い方がよい』などと解説されることがあるが、これは誤解」と明言。「相手が理解できないような発音であれば減点されるが、もともと非英語圏の人を対象としており、ネーティブに近づけることが目的ではない」と続けた。
 (3)のTopic Developmentを改善するテクニックとしては、感情表現を増やす、時間・期間表現で強調する、内容を絞り込んでより具体的に説明する―といった内容を示した。
 鬼頭トレーナーは、TOEFLの各問題は、普段の授業に盛り込むことができるとし、「いかにも勉強という形でなく、会話などを通して自然に生徒の力量を高められる」と語り掛けた。
 ライティングに関しても同様に演習を核に問題を解説。ETSでは、教育機関向けにCriterion(クライテリオン)というオンライン指導ツールを提供していることも紹介した。

米国の留学生活など助言
 米国への留学に向けた対策や、留学中の学生生活を解説するC分科会では、元ETS副社長のフィリップ・タビナー氏の話に各地の教員が耳を傾けた。主題は、「アメリカ留学〜大学の受け入れと学生生活の全て」。8月6日の福岡会場でタビナー氏は、(1)アメリカ留学の傾向(2)アメリカの大学教育制度(3)入学条件と必要書類(4)留学費用と奨学金(5)キャンパス生活(6)成功する秘訣(ひけつ)―の6項目に分けて話を進めた。
 このうち、「入学条件と必要書類」については、「入学時期が秋の場合、年末から年始にかけて出願書類を提出する。できるだけ早くから準備する必要がある。(統一試験である)SATなどを受けなければいけない。いい得点をそろえるために早くから準備することが必要」と訴えた。
 合格が決まってから入学する前の過ごし方としては、民間企業による教養プログラムの利用を推奨。ある企業によるプログラムに参加すると、大学入学後に単位の一部に認められるという。「合格が決まったら、このようなプログラムに参加して大学の授業の準備をするとよいでしょう」(タビナー氏)
 留学費用に関しては、州立大学は私立大学よりも安いものの、別の州から入学した学生や留学生には一定の費用がかかるとした。一方、知名度が高いハーバード大学は私立大学だが、学費が全米で最も高い大学ではないという。他に、より学費が高い大学があることを説明した。
 奨学金は留学生でも利用できるが、数が少なく額も制限されているという。キャンパス生活に関して、留学生は学内のアルバイトに就労できるが時間に制限があり、「大きな収入としては期待できないと思う」と助言した。
 タビナー氏は英語で話し、通訳が日本語で説明した。

TOEFL解説
米国の大学で学べるか測定

 各会場で開催した「TOEFL解説」では、TOEFL専門トレーナーが同資格の制度や試験方法を詳しく説明した。
 一般的なアメリカの大学では、1年次は専攻にかかわらず、生物学や社会学などの一般教養を30単位程度履修する。
 TOEFLは、これらの授業についていけるほどの「使える英語」が身に付いているかを測定するものだ。
 インターネットで受験できるiBTの採点は自動採点と採点官による二重のシステム。これらと質の高い試験問題を合わせて、資格としての優位性を担保しているという。
 この講演では、TOEFL試験の特徴について、実際の問題文などを適時提示しながら進行。
 その他にも動画で問題・採点形式を確認できる「TOEFL TV」のクラスでの活用例なども示した。また受験の際の注意点として、パスポートや住民基本台帳カードなど、公的機関が発行する身分証明書が必要で、学生証などは不可であることを挙げた。

参加者の声
意欲引き出す活動を増やしたい
入試でのスピーキング導入の行方注視

 セミナーには中学・高校教員を中心に全国10会場で計2千人が参加した。セミナー後の感想では、自身の授業づくりに言及する声が多かった。
 福岡会場に参加した山口県防府市立富海中学校の福井貴己教諭は「夏休み明けからは、オーラルプラクティスをたくさん取り入れたい。授業では教員は英語を50%くらい使うよう言われたが、60〜70%を目指していきたい」と話す。福岡県内の中学校教員も「授業中に教員が話す時間を減らし、その分を生徒の意欲・関心を引き出す活動に充てる必要を感じた」と語った。
 東京会場にいた横浜市立中学校の女性教諭は「4技能型の授業に変えていくことの必要性や指導例が分かった。これまでスピーキングをするとライティングのための時間が取れなくなるようなことが多かったが、紹介された方法を取り入れてみたい」と話した。
 大学受験のための高校教育ではない―。講演でも、度々話題に上った入試との関係で悩みを口にする参加者も少なくなかった。
 横浜会場に参加していた私立中高一貫校の教諭は「自分が授業を変えても受験の出題傾向は変わっていない。学習指導要領に合わせて変えた人が損するだけなのでは、と思っていた。大学入試から今後、文法・訳読が減っていくことは良いことだ」と歓迎する。
 「自分の授業ではスピーキングを取り入れているが、学校では定期テストに取り入れることが許されていない。大学入試が今後、スピーキングテストをどう導入するかが気になる」と福岡県内の私立中高一貫校の教諭は話す。
 セミナーのテーマとなったTOEFLなどの外部試験はどう受け止められたのか。
 札幌会場でTOEFLの模擬試験にも参加した道内の高校教諭は「出題が実際の会話場面からだったりするので、教室によって切り離された英語教育ではないと感じた」。TOEFLの指導経験のある神奈川県の私立高校教諭は「指導がリーディングに偏ってしまいがちなので、聞きに来た。スピーキングの伸ばし方をもっと聞きたかった」と話した。
 大阪市立中学校の英語教諭は「自分自身は昔受験したことがあるが、そのころとは変わっているだろうと思っていた。今の内容や指導方法を知ることができたので良かった」と言う。
 ただ、一方で「TOEFLは、進学校の生徒でもレベルが高くて苦労しているのが現状。入試改革は必要だが、単に導入すれば良いわけではなく、慎重に進める必要がある」(大阪府立高校教諭)という声もあった。

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