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共通テスト・モデル問題例を踏まえ高校の授業改革探る

8面記事

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全国12会場で「夏の教育セミナー」
(株)ナガセ・本社主催

 「大学入学共通テスト」の概要、モデル問題例公表を受け、高校授業改革に焦点を当てた夏の教育セミナー((株)ナガセ・日本教育新聞社主催)が全国12会場で開催された。高大接続改革をテーマに開催し4年目。各地の高校教員が参加して、文科省関係者などから大学入試を含む高大接続改革の進捗(しんちょく)状況を聞き、現場教員を講師にモデル問題例に対応する授業改善の方法などを学んだ。

英語 4技能を評価する時代に
国語 記述で「他者理解の力」必要
数学 解法教えるだけでは駄目
「共通テスト」問題解説

 英語4技能について、山本崇雄・東京都立武蔵高校・附属中学校主幹教諭(金沢、横浜会場)は、近年の大学入試の変化から、「特定の状況に合った英語の記述」などの力を付ける授業の必要性を語った。
 東進ハイスクール・東進衛星予備校講師の安河内哲也氏(東京など6会場)は世界中で、読み、書きに加えて「聞く、話す」を加えた4技能を評価する時代となるなどと話した。
 筑波大学附属駒場中学校・高校の須田智之教諭(大宮、仙台会場)は、「英語を学ぶ目的を見つけてから4技能入試に臨むことが理想」などと述べた。
 東大寺学園中学校・高校の西山哲郎教諭(神戸、千葉会場)は英語で議論する力、英語で描写する力の必要性を指摘し、教員のマインドセットを求めた。
 国語のモデル問題例を分析し、城野大輔・三田国際学園中学校・高校教諭(金沢会場)は判断力、編集力、論理力などが問われるとし「これまでも求められていた力」と解説。
 湯尾健児・三田国際学園中学校・高校校長(横浜、札幌会場)は登場人物と同じ立場の意見を記述する設問があることから「他者の考えを理解する力」が必要と指摘した。
 桐蔭学園中学校・高校の川妻篤史教諭(東京、大阪、名古屋会場)は、大規模校で臨んだアクティブ・ラーニング型授業への改革を報告した。
 宮城県仙台第三高校の滝井隆太主幹教諭(福岡、広島会場)は、解くための力に劇的な変化はないと分析。アクティブ・ラーニング型の授業で対応できるとした。
 福井県立若狭高校の渡邉久暢教諭(大宮、神戸、千葉会場)は記述式では複数の情報を構造化、深める力が必要とし、別の立場から説明できることが鍵とした。
 長野県屋代高校・附属中学校の宇都宮仁教諭〔キャリア教育係、進路指導主事〕(仙台会場)は自校での問題作り、他教科との連携授業の必要性に言及した。
 数学では、鈴鹿中等教育学校の岩佐純巨・特命講師〔授業力向上推進部長〕(金沢、横浜、広島会場)が、「記述式」は文章や図、グラフも多いため「長い文章を読む能力」の必要性を指摘。
 筑波大学附属中学校・高校の川崎宣昭教諭(東京、札幌会場)は記述式問題には図形問題が多く、中学校段階の指導内容を把握、発展させる指導が必要と話した。
 酒井淳平・立命館宇治中学校・高校教諭(福岡会場)は従来の数学の問題との違いに「問題の背景を明示していること」など、三つのポイントを指摘した。
 静岡県立科学技術高校の梅田英之教諭(大阪会場)は、記述問題モデル例もマーク式に極めて類似していると分析。「通常通りの指導で十分対応可能」と述べた。
 広尾学園中学校・高校の堀内陽介教諭(名古屋、大宮、仙台会場)は新テストについて「解法を教え込むだけでは対応できない」と話した。
 大石隆・世田谷学園中学校・高校教諭〔数学科主任〕(神戸会場)は、新テストの問題例を解説しながら「『主体的・対話的で深い学び』が必要になる」と指摘した。
 岩手県立花巻北高校の下町壽男校長(千葉会場)は、データ分析問題を考察し、演習指導で「問題を読解し解決へのビジョンを示す」などが重要とした。

大学で「深まる」高校の学びを
浅田 和伸 大学入試センター理事・副所長
特別講演

 高等教育、高大接続を担当していた前文科省大臣官房審議官の浅田和伸・(独)大学入試センター理事・副所長(横浜、仙台会場)は「高大接続改革」の理念をあらためて語るとともに、高校教育改革、大学教育改革、大学入学者選抜の改革、それぞれについての進捗(しんちょく)状況を話した。
 この中で、大学側の改革にも触れた。一部の大学は着手しているが、個別入試において、高校での学びや活動を正当に評価して大学に入学する方向を示し、それにより、高校での学びが大学でさらに「深まる」ことにつながると述べた。
 また、7月に公表した「大学入学共通テスト実施方針」を基に、平成32年度に導入される大学入学共通テストなどについても説明した。国語や数学では記述式問題を加え、英語は4技能評価への転換を図ること、マーク式出題の一層の改善などについて話した。
 大学入学共通テストの円滑な実施に向けては、今秋と来年度内に、それぞれ5万・10万人を対象に試行をすると報告した。
 併せて、記述式問題が入試問題として耐えるものになるか、採点に当たって短時間でばらつきのない基準ができるかなど、今後の課題についても言及した。
 また、大学入学共通テストの改善だけでなく、個別の大学での入試改善も要望した。
 一方で、高大接続改革について「入試を変えるだけの小手先のものではない」と強調。多くの大学で、高校の学習内容を学び直させていることを挙げ、高校段階での学力の確実な定着の必要性を訴えた。
 高校教員に向け、浅田氏は自身の中学校校長経験を踏まえ「行政は現場を支援する側。教育の仕事は大事だし、影響力も大きい。社会だけでなく、一人一人の子どもの未来をつくる仕事」と語り「入試の変化にかかわらず、生徒をどう育てるかを念頭に教育の在り方を見直してほしい」「高校の新学習指導要領が改訂されるが、どういう力を付けようとしているかを考えてほしい」などと話した。

ペア組み英会話交代で質問・回答
安河内 哲也 東進ハイスクール・東進衛星予備校講師
英語「アクティビティー」で模擬授業

 東進ハイスクール・東進衛星予備校講師の安河内哲也氏の模擬授業は、「アクティビティー」と呼び、英語と日本語で説明した上で、受講した教員らが生徒役となって互いに英会話の練習に臨んだ。
 例えば、2人がじゃんけんで質問者と回答者を決め、30秒間の会話の後、役割を交代して再び30秒間の会話に臨む活動。互いの名前、ニックネームを紹介し合う導入に始まり、質問者はひたすら「なぜ(why)」と問い、回答者は何とかその答えを探り続ける時間などを設けた。
 動画を使った模擬授業もあった。英会話が数分間ほど続くもので恋愛を主題とした内容と思わせて、最後は菓子のコマーシャルフィルムだったことが分かるというもの。動画の粗筋を英語でそれぞれ説明した。
 アクティビティーを始めるに当たって、教師が教室で英語を話す際に、間違いを恐れてはならないことを強調。生徒が気軽に英会話の練習に臨める雰囲気づくりの大切さを訴えた。同時に、2人一組での英会話練習では互いに真正面から向き合い、目と目が合うよう指導することを求めた。

記述式に思考力など全要素
安西 祐一郎 日本学術振興会理事長
特別講演

 文科省の高大接続改革チームのリーダーを務める安西祐一郎・日本学術振興会理事長(札幌、大阪会場)が特別講演し、大学入試の新テストに記述式問題を導入する狙いなどを説明した。
 安西氏は初めに、高大接続改革に関連して学校教育法が規定する「学力の3要素」について触れ、「主体的学習に取り組む態度」の重要性を指摘。AI(人工知能)の急速な進展に代表される社会の変化を踏まえ、これからの学校には「受け身の教育から能動的な学習への転換が必要だ」と強調した。
 平成32年度の小学校から順次実施される新学習指導要領でも「主体的・対話的で深い学び」と記述されたアクティブ・ラーニングの授業改善が求められている。高校の基礎学力テストや大学入試の新テストは、こうした授業改善を評価するための一環であるとして参加した高校教員らに理解を求めた。
 高校の基礎学力テストについては現在、国が民間のテストを認定する仕組みで検討を進めているが、高校間で生徒の学力差が大きいことから「2種類程度の難易度の試験を想定している」と話した。
 また、採点にかかる負担が大きく客観性の担保が難しい中でも、あえて大学入試の新テストに記述式問題を導入することについては「書き手の意図を反映する明確な構造を持った文章・図などを、読み手が明確に理解できる表現で記述する力を問うのが記述式問題。そこには身に付けるべき知識や技能、思考力、表現力などの全てが含まれる」と意義を強調。既に一部の大学入試で実施されている小論文とは性質が本質的に異なるという考えを示した。
 一方、新テストに英語の資格・検定試験を導入することについては、大学生が卒業後、さまざまな国籍の人たちの中で競争し、協働しながら生きていく上で、自分の考えを伝えることは不可欠だと述べ、4技能の育成が急務だと強調した。日本の高校生らがこれまで苦手としてきた「話す」「書く」などの技能も、今後、必須の評価対象となることで、生徒の学習のモチベーションになると語った。

入試で「学力の3要素」測定
新たな価値創り、生き抜く人材へ
文科省関係者など登壇

 特別講演は「高大接続改革の動向について」をテーマに、江戸朋子・文科省高等教育企画課課長補佐(金沢会場)、山田泰造・文科省大学振興課大学入試室室長(東京、広島、名古屋会場)、大杉住子・(独)大学入試センター審議役(福岡、大宮会場)、大塚千尋・文科省高等教育企画課専門官(神戸会場)、吉岡路・文科省高等教育企画課専門官(千葉会場)が、一体的に改革を進める「高校教育改革」と「大学教育改革」、両者をつなぐ「大学入学者選抜改革」について解説した。
 「高大接続改革」が必要となった背景について、世界で日本の相対的な位置が下がってきている状況、今ある仕事の大部分が技術革新によって失われる可能性などがあることから、新しい価値を創造し、どんな時代でも生き抜ける人材を育成することが必要になったことを挙げた。
 そのために、「学力の3要素」(知識・技能の確実な習得、思考力・判断力・表現力、主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度)の育成を重視し、大学入試でそれを評価するという考え方で改革を進めているとした。
 「高校教育改革」では、本年度中に告示する予定の学習指導要領の改訂を最重点事項として挙げた。
 また、7月に実施方針を公表した「高校生のための学びの基礎診断」について、高校段階での基礎学力定着に向けたPDCAサイクルの在り方を解説。本年度中に基礎診断テストの認定基準を出すとした。
 「大学教育改革」では、本年4月から全大学がアドミッション(どんな人を採るのか)、カリキュラム(どうやって育てるのか)、ディプロマ(どんな人を卒業させるのか)の三つのポリシーを一体的に考えて定め、公表することを課し、大学教育の改善を目指していることを説明した。
 今後の「大学入学者選抜」については、「学力の3要素」を踏まえた選抜にするために、自分の考えをまとめて表現することをしっかりと評価することが重要であるとあらためて強調した。
 平成32年度に導入する「大学入学共通テスト」について説明し、記述問題を加える他、選択問題も「学力の3要素」を評価できるように改善していくとした。そのため、昨年度から31年度までプレテストを試行し、内容を検証することを報告した。
 英語では4技能を評価するため、民間の検定試験を活用すると説明した。
 英語では4技能評価へと転換を図り、外部検定試験を活用して「認定」していく他、「共通テストの英語試験は、認定試験の実施・活用状況等を検証しつつ、35年度までは継続して実施」などとした。
 個別選抜の改革については、AO入試・推薦入試について触れた。
 AO入試は「総合型選抜」と名称を改めるなどして、どんな形態の入試であっても「学力の3要素」を測る試験を課す方向であるとした。多面的に評価するため、一般選抜でも調査書の使用方法を明記することも求めるとし、調査書や推薦書などの見直しを図るなどとした。

海外の経験、将来に生かせ
官民共同で高校生支援
「トビタテ!留学JAPAN」紹介

 特別講演では、官民共同の留学促進プロジェクト「トビタテ!留学JAPAN」について、文科省の同プロジェクト高校生コース担当者らが解説した。
 近年の技術革新で約30年後に、人工知能が人間を超えるシンギュラリティが発生することが予測され、仕事の自動化や喪失が進む、先が見えない社会となることを指摘。そんな社会を生き抜かなくてはならない現在の高校生らに、大人が語る過去の経験や知識だけでなく、自分自身の経験を通して将来を決める姿勢を養うこと、他国を見て世界情勢を学ぶ機会を与えることを、同プロジェクトの目的として紹介した。
 さらに企業の海外進出の増加や、2020年の東京オリンピック・パラリンピックなど、現在進行している事案からも海外留学の重要性を指摘。その上で、「高校生コース」では、グローバルリーダーになること、日本の良さを海外に発信するアンバサダーになること、海外留学の良さを日本に広めるエバンジェリストになること―の3点を参加者に期待しているとし、写真でそれぞれに関連した活動を紹介した。
 その他、トビタテ!留学JAPANの参加区分、留学までのプロセス、留学資金提供など支援体制を説明。また参加者による同窓会、参加者同士でさまざまな団体を結成し活動している事例もあるなど、過去のプロジェクトの成果を紹介。最後に地域ごとの申し込み率を公表し、大都市圏が高いことから、同プロジェクトでも全ての地域から分け隔てなく参加者を選ぶことを宣言した上で、申し込みを呼び掛けた。

教科別分科会
英語
即興型ディベートでチーム戦
面白い画像使い情景など描写

 東京都立武蔵高校・附属中学校の山本崇雄主幹教諭(金沢、横浜会場)は、「生徒に任せる」部分をつくることで、生徒の主体性を高めつつスリム化を図った授業を紹介した。
 例えば授業冒頭のウオーミングアップ。相手の質問に瞬時に答えるカランメソッドや日本語訳を見ながら課題の英文を再現するバックトランスレーションなど、幾つかの練習方法を生徒に紹介した上で、ペアで「音読練習」などの課題を提示する。その際、教師からは「5分後にすらすら言えるかチェックする」とだけ伝え、練習方法は生徒に任せる。「能動的にパートナーのことを考えた学習は身に付く」という。
 また学びを深める手法も紹介。例えば教科書の学習では、近年の大学入試の変化に対応して、まずは写真や絵を基に本文の内容を推測する活動を行う。この際、パートナーを代えてペアで数回、考えを発表し合う。「絵からの推測は難しいが、繰り返すことで友達の意見を取り入れることができ、特に英語が苦手な生徒に有効」と山本主幹教諭。また授業の最後に行う、学習した英文を絵にし、その絵を基にペアで解説し合う活動から、「英語をイメージで理解できる」との生徒の感想を挙げ、「描画」の有効性を語った。
 筑波大学附属駒場中学校・高校の須田智之教諭(大宮、仙台会場)は「即興型英語ディベート入門講座」と題し、チームを組んで議論を戦わせる場面を会場で再現した。授業と部活動で実践してきた経験を生かした。
 英国議会を参考にした討議方法を紹介。4人で1チームとなり、各チームは「政府」と「野党」のどちらかの立場で討議に臨むもので、政府側の主張に野党が反論。審判が勝敗を決める仕組みだ。「パーラメンタリーディベート」という名で紹介した。
 模擬授業に参加した教職員は、主に英語を使って討論に臨み、議論を戦わせる経験を積んだ。勝敗もつけた。
 講演によると、英語ディベートには、論題が半年以上前に示され、専門知識、統計などを用意した上で議論する「アカデミック」(学術的)の型もある。
 今回の「パーラメンタリー」は論題が数十分前に示され、その場で自分の知識などを生かして議論に臨む。そうした実践を同高校で試みてきた。
 50分間の授業で取り入れる場合は、対戦時間を20分間とし、その前に「チーム分け・論題提示」で5分から10分ほど、チーム内での準備に15分から20分ほどを充てる。対戦中は2〜3分の持ち時間で政府側チームと野党側チームが互いの主張を述べ合う仕組みだという。
 東大寺学園中学校・高校の西山哲郎教諭(神戸、千葉会場)は、現在の授業で多く行われる、文法と単語を中心に知識を詰め込む「フォアグラ型」ではない、4技能、特にスピーキング中心の授業を紹介した。
 西山教諭は終始英語で授業をし、「Be open!」「Be difference!」と、恥ずかしがらず、間違いを恐れずに声を出すことを強調した。参加者たちはペアをつくり、立ち上がって英語で会話をした。
 人物や情景を描写することで英語力が付くとして、有名人の画像や映画の1シーンを相手に向かって説明した。その際に使用する画像はできるだけ生徒が面白がりそうな画像を選ぶのがコツという。
 描写する際は色、数字、特性、場面などを意識する。日本人は疑問文を作るのが苦手なので、「How」や「Who」から始まる例文を幾つか提示し、ハードルを下げることが大事だとした。
 単語は、暗記するだけでは実践で使えない。児童用英英辞書や児童用シソーラスを効果的に使い、文章を覚えさせて問題を出す。
 複数の写真から「オチ」をつけたストーリーを作る「ストーリーテリング」や、授業内で多読多聴し、毎週洋楽を1曲歌うなど、とにかく生徒がたくさん英語をしゃべり、読む環境のそろった授業を紹介した。

国語
CMの日本語比べ印象議論
人間の在り方 AIめぐる文章読み考察

 三田国際学園中学校・高校の城野大輔教諭(金沢会場)は、「相互通行型授業」と呼ぶ同校でのアクティブ・ラーニングの要点について説明した。その一つが教員研修。教員の共通認識が重要として、研修を学校行事のように位置付け、全員参加で年間32時間以上を確保していることを紹介。また、生徒の学習が深まらない要因について城野教諭は「教師がその能力の習得を求めていることを、生徒に伝えていないから」と、評価の重要性も指摘し、学校の目標と社会が求める教育成果の2軸で作成したルーブリックを紹介した。
 同じく三田国際学園中学校・高校の湯尾健児校長(横浜、札幌会場)は、同校が取り組んでいる「相互通行型」の授業を紹介した。
 湯尾校長は普段、授業の流れを決めているという。生徒に資料を提示し、タブレットで調べさせる。その後、話し合いと発表をして、最後にリポートを作成するという流れだ。教員が、どのタイミングで、生徒にどう関わるかが重要になる。
 動画で紹介した授業例は二つのコマーシャルを、使われている日本語の動詞に注目しながら比較し、そこから受ける印象を話し合うという内容。説明をさせることで論理性や表現力が身に付くと話した。
 桐蔭学園中学校・高校の川妻篤史教諭(東京、大阪、名古屋会場)は、約400人規模の教員を抱える同校で取り組んだアクティブ・ラーニング型の授業改革の経緯について説明した。
 以前まで、受験を控える生徒たちに、読解指導に加えて古文・漢文の知識も細かく扱っていた川妻教諭は「生徒に配るプリントの枚数ばかりが増えていた」と振り返る。その後、言語活動の充実を柱とした授業改善によって、網羅的な知識よりも理解を伴った読みを重視した。川妻教諭は「社会に求められるコミュニケーション力は授業をベースに育てなければいけない」と強調した。
 宮城県仙台第三高校の滝井隆太主幹教諭(福岡、広島会場)は、「推論による構造化」に焦点を当て、模擬授業と実践演習を実施。実践演習では、これからの国語の授業では「授業者はデザイナー」であることが重要とした上で、短歌を使った問いのデザイン、評論文を使った構成・形態のデザインの在り方を考えた。
 その上で、国や世界の教育改革の動向から「主体的・対話的で深い学び」は今後必須であると説明。授業では、最も達成可能性の高い課題設定を行い、「授業デザイン」と「問いの立て方」などによって意欲を引き出す単元・授業設計が求められるとした。
 福井県立若狭高校の渡邉久暢教諭(大宮、神戸、千葉会場)は人工知能に関わるさまざまな文章を読むことを通して、生徒たちが人間としての在り方を自ら考える授業を紹介した。
 新テストの国語の記述式の問題では、複数の情報を統合して考えをまとめ、根拠に基づいて論述する力が求められる。その力を付けるためには誰かの立場に立って考えたことを、他者に説明できるかが鍵だと渡邉教諭は話した。
 渡邉教諭は「質より量」だとし、たくさんの文章を生徒に読ませる。説明はできるだけ少なく、生徒自身に考えさせる。分からない人は個別で対応するという。
 長野県屋代高校・附属中学校の宇都宮仁教諭〔キャリア教育係、進路指導主事〕(仙台会場)は同校での「育てるべき生徒像」に基づいた「生徒が活躍する授業」改善の様子を報告した。授業改善のため、同校はアクティブ・ラーニング型授業を選択し、各教科での試行錯誤について話した。
 また、受講者らに生徒用の「古文確認ドリル」に挑戦してもらい、答えをペアで説明し合うなどの授業を体験してもらった。
 その後は、グループに分かれて、受講者同士がそれぞれの学校での授業を振り返り、現状の問題点と今後の改善策などについて協議し、成果を共有していた。

数学
話す活動で思考過程可視化
身近な事象扱い深い学びに

 鈴鹿中等教育学校の岩佐純巨・特命講師〔授業力向上推進部長〕(金沢、横浜、広島会場)が「『数学的な見方・考え方』を育成する授業を目指して!」と題して、指導上の配慮事項などについて話した。
 高校段階での数学では既有知識の教科内活用、理論化のモデルの学習などをしていると指摘し、生徒が今持っている知識を信じさせることや、自らの考えを話させる活動を取り入れ、思考過程の可視化を図ることなどの必要性を挙げた。「基本的な事項についても、生徒同士の学び合いの授業で身に付く」と話した。
 筑波大学附属中学校・高校の川崎宣昭教諭(東京、札幌会場)による模擬授業では受講した教職員が6人ほどの班に分かれ、分担して例題を解くなどした。
 この例題は四つの数・文字式などの大小関係を明らかにするもので、四つの不等式を証明すれば結論が出る。じゃんけんで勝った人から解きたい不等式を選んでもらうなどした。解き終わったころを見計らい、同じ不等式を証明した人に集まってもらい、それぞれの解法を説明し合った。
 模擬授業に先立ち、同高校で実際に試みた授業を紹介した。その上で、普段の教科に掲載されている教材をアレンジすると、グループ活動に生かしやすくなると助言した。
 模擬授業・実践演習を通して、酒井淳平・立命館宇治中学校・高校教諭(福岡会場)が重点に置いたことの一つは「数学を通して育てたい力を考えること」だった。それを筋トレに例え、「教師と生徒が『授業を通してどんな力を付けるか』を意識している、していないかで効果が大きく違う」と指摘した。
 新テストの問題例について解説し、「活用問題」などにも触れた酒井教諭。単元に一つぐらいは活用型の問題を扱い、「習得問題」でもグループ活動を取り入れることも大事と説明した。一人では扱う問題のネタも尽きてくる。今後は「開発した教材を共有する視点も重要」と述べた。
 静岡県立科学技術高校の梅田英之教諭(大阪会場)は、高校数学の課題として、テストの平均点や大学合格率を上げるために、生徒に問題パターンを把握させ、「この形式ならこの公式を使って解きなさい」という表面的な操作に終始した伝達型授業を挙げた。そこで、こうした課題から脱却し、生徒が学ぶ意義を実感できる数学の授業として自ら実践した離散数学や箱ひげ図の問題を実際に会場の参加者に出題しながら紹介。「身近な事象を扱った出題やグループ討論が、生徒に深く考えさせる上で有効だ」と説いた。
 広尾学園中学校・高校の堀内陽介教諭(名古屋、大宮、仙台会場)は、反転授業の実践を紹介した。授業中に生徒が考える時間を多く取る狙いで、映像教材「EDuPA」を使って生徒に予習してもらう。授業では、生徒間で話し合いながら、一つの問題につき複数の解法を用意するよう指示。「生徒が数学の知識や考え方を総動員する」と効果を説明した。一方、予習用の映像を見ない生徒がいるという課題もある。内容に関するチェックテストを実施し、その解説をすることで、そうした生徒が取り残されないよう図っている。
 次期学習指導要領でキーワードになっている「主体的・対話的で深い学び」。それが新テストに向けた指導で欠かせないと考える大石隆・世田谷学園中学校・高校教諭〔数学科主任〕(神戸会場)は、数学での実践方法について詳しく解説した。
 新テストの記述式の体裁などを踏まえ、参加者が自ら考えを記入するワークシートを使用。途中、対話型活動を取り入れることなどが理解深化に効果的と指摘した。教師には活用問題を準備する負担などがある。理解を図る一つの節目で実践することが望ましいと述べた。
 岩手県立花巻北高校の下町壽男校長(千葉会場)は、自身の経験や取り組んできた実践から、数学の問題発見・解決のプロセスと育成すべき資質・能力の中で、特に大切なこととして「人と交流し合い説明したり理解したり評価したりする」「粘り強く問題の発見や解決に取り組む」を挙げた。
 その上で、授業では「問題を読解し解決へのビジョンを示す」ことを一番のポイントとして挙げ、「数学の面白さ・楽しさ/活用」「公式を『納得』する」などをテーマに、アプローチの方法を考えた。

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