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酪農教育ファームシンポジウム開催

9面記事

企画特集

全国から約200名の酪農・教育関係者が参加した

 子どもたちに牧場を学習の現場として提供し、酪農を通して食やしごと、いのちの学びを支援する「酪農教育ファーム活動」は一般社団法人中央酪農会議から認証を受けた酪農家等が学校や教育現場と連携して行う体験学習活動だ。組織的な活動を始めて20周年を迎えた今年度、これを節目にシンポジウム「酪農教育ファーム20年を節目に」(主催=〔一社〕中央酪農会議、酪農教育ファーム推進委員会)が9月22日、東京で開かれ、酪農関係者と学校教育関係者が一堂に集い、これまでの歩みを振り返り、今後の課題を話し合った。

乳牛とふれあい、いのちを学ぶ

 開会に先立ち(一社)中央酪農会議の迫田潔専務理事が挨拶をした。
 今回のシンポジウムの目的は▼酪農教育ファーム活動の原点や歴史、現状を確認する▼活動の価値と役割を共有し次世代につなげる▼活動を広くPRする▼実践者のモチベーションを高め活動の未来のあり方を追求することの4点と示し、「この活動は酪農関係者、教育関係者などが連携した価値ある社会貢献活動。酪農の理解、学びの場として重要な役割を担っている。今日のシンポジウムが活動を未来につなぐスタートになれば」と語った。
 続いて酪農教育ファーム推進委員会の羽豆成二委員長が「新学習指導要領は社会に開かれた教育課程の実現がメインテーマ。酪農教育ファーム活動と通じるものがあることを理解いただき、今後のありようを考えていただきたい」と挨拶した。

実践報告

実践発表を行う大阪府立農芸高校の小西さん(左)。小学生に実施したアンケート結果が示された
実践発表を行う大阪府立農芸高校の小西さん(左)。小学生に実施したアンケート結果が示された

 続いて、活動の実践者による報告が行われた。シンボライズファーム亀田牧場(埼玉県)代表の亀田康好氏は「組織的な酪農教育ファーム活動の始まりと、関東におけるわくわくモーモースクールのあゆみ」と題して発表した。
 わくわくモーモースクールとは酪農への理解を深めるために、酪農家が小学校に出向き、乳搾りや子牛とのふれあいなどの酪農体験を実施する活動だ。そのきっかけとなった幼稚園児とのふれあいを振り返りながら「子どもたちには牛のあたたかさを忘れずに成長してほしい」と話した。
 続いて、酪農家と教員との出会いが実践を深めた例としてオオヤブデイリーファーム(熊本県)の大藪真裕美氏と熊本市立力合小学校の藤田まり子校長が揃って登壇。
 藤田校長は子牛(交雑種)が「肉」になる事実にショックを受けたことをきっかけに活動に熱心に取り組み始め、大藪氏の協力のもと「子どもの心を育てる」酪農を教材化した事例を発表した。
 最後に大阪府立農芸高等学校の田中怜教諭と3年生の小西さくらさんが「農業高校における酪農教育ファーム活動の取り組み」を発表。
 酪農教育ファーム活動ができる基準を満たした牧場を「認証牧場」と呼ぶが、同校は農業高校として認証を取得。ファシリテーターである教員の指導のもと、高校生も酪農体験受け入れや小学校への出張授業を実施している。児童へのアンケート調査から生産現場や食に対する理解が深まり、学校給食における残乳も減るなど食育推進における課題の解決にもつながっている成果を報告。
 小西さんは「出張授業を通じて、農業高校生として地域貢献することの大切さに気付いた。食育の輪を広げることにつながったと思う」と話した。

パネルディスカッション
酪農教育ファーム 未来のあり方

左から 廣瀬 文彦・リバティヒル広瀬牧場、清水 一将・清水牧場、横山 弘美・練馬区立大泉南小学校 主幹教諭、渋谷 一典・文部科学省 初等中等教育局 教科調査官、姫田 尚・公益社団法人中央畜産会 副会長、小谷 あゆみ・農業ジャーナリスト
左から 廣瀬 文彦・リバティヒル広瀬牧場、清水 一将・清水牧場、横山 弘美・練馬区立大泉南小学校 主幹教諭、渋谷 一典・文部科学省 初等中等教育局 教科調査官、姫田 尚・公益社団法人中央畜産会 副会長、小谷 あゆみ・農業ジャーナリスト

酪農教育ファームの価値と役割を確認
 シンポジウムの後半は酪農教育ファーム活動に携わってきた実践者や関係者によるパネルディスカッション「酪農教育ファーム未来のあり方」が行われた。進行は酪農教育ファームアドバイザーの松原明子氏。
 酪農家の立場から見た酪農教育ファーム活動の役割について、リバティヒル広瀬牧場(北海道)の廣瀬文彦氏は「酪農家と消費者の意識のズレを解消するもの」と指摘する。
 清水牧場(愛知県)の清水一将氏は牧場の後継者であり、「酪農教育ファームファシリテーター」として児童に酪農を伝えている。「子どもたちの前で話すことで自らも牛のいのちや食のありがたみを再確認した」と、酪農家にとっても酪農教育ファーム活動が意義あるものと語った。
 農業ジャーナリストの小谷あゆみ氏は酪農教育ファーム活動を農業と教育の「イノベーション」だと評価。「20年前から取り組まれていることに敬意を表したい」と話した。

「こわい」が「すごい」に変化する牧場の力
 学校現場から見た酪農教育ファーム活動の意義は児童生徒の変容から見て取れる。「牧場に連れて行ったら想像以上に子どもたちが変わった」と振り返るのは練馬区立大泉南小学校の横山弘美主幹教諭だ。活動を通して子どもたちの感想は「こわい」などのネガティブなものから、「すごい」とポジティブなものに変化するという。「牧場や牛乳に対する見方が変わり、地域との関わり方が変わるのを実感できる」
 文部科学省初等中等教育局の渋谷一典教科調査官は札幌市教育委員会の指導主事時代に創設した「農業体験学習」の一つとして、酪農教育ファーム活動を導入した例を紹介。「食やいのちについて学べる酪農教育ファーム活動にしかない魅力がある」と話した。

学校=地域連携の視点
 社会の変化に伴い酪農教育ファーム活動も新たな局面に入っている。横山主幹教諭は教員の世代交代による実践者の減少や、新学習指導要領の全面実施に向けた多忙化で「現場に余裕がないのが正直なところ」ともらす。
 活動を定着させるには教員個人の取り組みではなく「学校が必要性を感じて酪農家とつながり持続性を持たせること」と、学校と牧場が連携することの重要性を指摘した。
 渋谷教科調査官も「各校が組織立って教育課程に位置付け、学習をデザインすることが極めて重要」と話した。
 一方、酪農家側にも課題はある。廣瀬氏は活動が受け身になっている牧場もあると指摘したうえで「酪農家として何を伝えたいのか、自らの想いをしっかり持つことが大事」と酪農の魅力発信が普及の鍵だとする。
 公益社団法人中央畜産会の姫田尚副会長は、酪農教育ファーム活動が継続するには「熱意だけでなく、牧場が経営の柱の一つとして取り組む考えもある」とし、体験活動への適正な対価を求めていく姿勢も必要だと指摘した。

渋谷教科調査官は体験学習の重要性を語った
渋谷教科調査官は体験学習の重要性を語った

体験活動から得る学びを整理する
 シンポジウムの締めくくりにあたり、酪農教育ファーム活動の社会的認知を高める方策について議論した。
 横山主幹教諭は所属する日本酪農教育ファーム研究会の活動の中で「学校と牧場、牛乳工場と牧場というように“つながり”を作り、子どもたちが足を運べるカリキュラムを作成したい」と話す。
 会場の酪農家に「ぜひ自信を持って学校の扉を叩いてほしい。PTA活動がきっかけでもよい。地域から声があがれば学校とのつながりが生まれる」とエールを送った。
 渋谷教科調査官は「学校が酪農教育ファーム活動の中に各教科につながる学習を見いだし、検討することが必要。体験による実感を通して各教科を学ぶ必要性を感じられるようになると良い」と、カリキュラム・マネジメントの視点から酪農教育ファーム活動を整理し、再認識することを求めた。

総括
若手や異業種との連携でさらなる広がりを

國分 重隆 日本酪農教育ファーム研究会会長
國分 重隆 日本酪農教育ファーム研究会会長

 東京教師養成塾教授であり日本酪農教育ファーム研究会会長の國分重隆氏が、酪農教育ファーム活動の成果と今後の目標をあげた。
 まず、酪農教育ファーム活動は酪農を巡るさまざまな厳しい環境の変化に耐え、続けられてきた価値ある取り組みと述べた。
 「酪農家が自分たちの仕事に教育的価値を見いだし、誇りを持って続けたこと、そして、現場の教員が酪農のすばらしさを子どもたちに還元しようと教育実践にかえていったこと。双方の地道な努力のたまもの。その積み重ねが酪農教育ファーム活動の価値と言える」
 酪農教育ファーム推進委員会は、子どもが安心して牧場を訪問できるよう安全・衛生条件を満たす牧場等を認証する「酪農教育ファーム認証制度」と、子どもたちに酪農教育ファーム活動を行う酪農家等を認証する「酪農教育ファームファシリテーター」の2つの「認証制度」を持っている。この2つは子どもたちに安全・安心で豊かな体験活動の場を提供する「世界に誇れる取り組み」であると話す。
 國分会長はこの20年で体験のノウハウが充実したことも評価した。
 今後の目標は、新たな世代や異業種も巻き込んで実践を広げること。「牛乳」を中心に、乳業メーカーや消費者、行政の担当者や教員を目指す学生、メディアなど「酪農教育ファーム活動の必要性を感じる人々のスクラムを強固にしていくことが必要」と語った。

酪農教育ファーム活動
 詳しく知りたい方はこちら
 フェイスブック
 http://www.facebook.com/rakunoukyouikufarm

 ホームページ
 http://www.dairy.co.jp/edf/

お問い合わせはこちら
 TEL 03-6688-9841
 (一社)中央酪農会議 業務部内

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