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学校での感染拡大を防ぐために

10面記事

企画特集

ウイルスを削ぎ落すような手洗いが効果的

感染症予防特集

 インフルエンザやノロウイルスなどの感染症は冬季にかけて本格的に流行するため、子どもたちが日常生活の大半を過ごす学校現場では、より一層注意を払う必要がある。本特集では、そんな学校での流行を未然に防ぐ、正しい予防法や感染した際の二次感染対策など、今からできる取り組みを紹介する。

正しい予防法と二次感染対策
冬季に流行する感染症 今年もすでに流行の兆し

 毎年12月から3月にかけて流行するインフルエンザだが、今年はすでに9月初旬から東京を始めとする関東圏や東海地区で学年・学級閉鎖を引き起こしており、10月中旬には大阪府など関西圏でも流行の兆しが見られている。
 また、近年ではほとんどの人が免疫をもたない新型インフルエンザや、呼吸器系の風邪に近い症状から重症化を引き起こすRSウイルス呼吸器感染症、あるいは世界で広がりつつある「MERS」など新しい感染症の流行も危惧されている。特に集団生活する場であり、免疫力の低い子どもをあずかる学校現場にとっては、今から健康管理に細心の注意を払い、感染予防の強化に努める必要がある。
 加えて、12月から翌年1月にかけて発生のピークを迎えるノロウイルスやロタウイルスによる感染性胃腸炎にも気を配りたい。感染・発症すると急激なおう吐や下痢が続き、脱水状態を引き起こすため、園児・児童は深刻な状態へ進行する場合がある。なかでも近年増えている「新型ノロウイルス」は、過去にノロウイルスに感染した人でも罹かる恐れがあり、ノロウイルスに効くワクチンもないことから、学校給食による食中毒などによって集団感染に広がりやすい学校現場においては、より一層注意が必要になっている。

感染予防の3原則を踏まえ、手洗い・うがいの習慣化を

 そもそも感染症とは、環境中に存在する病原性の微生物が、人の体内に侵入することで起こる病気のことである。原因となる微生物の代表的なものには、インフルエンザやノロウイルスなどの「ウイルス」と大腸菌や肺炎球菌などの「細菌」があり、前者は抗生物質が効かないが、後者は有効という特徴がある。これらの感染を予防するには、(1)感染源の除去(2)感染経路の遮断(3)抵抗力を高める、の3原則があることを覚えておきたい。
 インフルエンザの予防の1つにはワクチン接種があるが、日常からできる対策としては「飛沫感染」と「接触感染」を防ぐことである。すなわち、こまめな手洗いやうがいを習慣化することが最も有効な対策になる。
 なお、手洗いは殺菌力の高い薬用せっけんや手指消毒剤を使うとともに、手指や手首まで時間をかけて徹底的に洗浄すること。そして、清潔なタオルまたはペーパータオルでしっかりと水を拭き取ることが大切になる。つまり、適当な洗い方では効果も薄れることから、30秒ルールなどで子どもたちへの意識づけを徹底する学校も増えている。
 加えて、学校や電車の中など人が多く集まる場所では、飛沫感染を防ぐマスクを着用することも効果的だ。厚生労働省ではこうした人込みでの他者への感染を防ぐため、「咳エチケット」の普及啓発活動を進めており、咳やくしゃみなど自覚症状がある人のマスク着用を促している。また、マスクを持っていない場合はティッシュや腕の内側などで口と鼻を押さえ、他の人から顔をそむけて1m以上離れる。鼻汁・痰などを含んだティッシュはすぐにゴミ箱に捨て、手のひらで咳やくしゃみを受け止めた時はすぐに手を洗うこととしている。

発生時の感染拡大防止は、速やかな清掃・消毒

 インフルエンザの主な治療法としては、抗インフルエンザウイルス薬(タミフルなど)の投与がある。感染した場合はなるべく個室で静養し、熱が下がっても感染力は残っていることから、最低でも解熱後2日間は外出しないことが求められる。
 一方、ノロウイルス感染の原因は牡蠣などの二枚貝から感染する食中毒菌に近いと思われてきたが、最近ではヒトからヒトへの感染や、感染者が触れた器具などを介しても伝染することがわかっている。そのため、学校給食の調理者が感染していた場合は大規模な食中毒を引き起こす可能性があることから、調理者や調理器具などからの二次汚染を防止する衛生管理が重要になっている。しかも、実際には接触感染や空気感染が直接的な原因となることが多いため、学校では余計に感染しやすいといった傾向がある。
 ノロウイルスの予防にはウイルスを削ぎ落すように手洗いすることが大事になるほか、完全に失活化するためには次亜塩素酸ナトリウムが有効である。最近では安全性に配慮した市販の殺菌剤・スプレーも発売されており、トイレのドアノブ、手すり、ボタン、スイッチなど、人が触りやすい場所を中心に消毒・清掃に努めてほしい。
 発生したときの感染の拡大防止としては、主管課及び保健所等へ速やかに報告するほか、感染を広げないために発生状況を正確に把握し、経路を遮断する対策を行う必要がある。たとえば、下痢やおう吐する子どもが出たときは速やかに校舎内の清掃と消毒を徹底して行うなど、二次感染を防ぐ初期対処が何より肝心になる。
 したがって、学校における感染予防としては、「平常時からの予防対策」と「発生時の感染の拡大防止対策」の両面で日頃から準備しておくことが大事なのである。

脱水状態を改善させる経口補水液
小児でも飲みやすいゼリータイプも

 インフルエンザやノロウイルスなどに感染したとき注意したいのは、下痢やおう吐、発熱によって急激に体液を消失させ、脱水症状に陥りやすいことである。とりわけ、体内の水分量を調節する機能が未熟な子どもには注意が必要だが、水だけでは体の塩分濃度が薄まり、脱水がうまく改善しない。 そこで、有効なのが水に塩分などの電解質と糖とがバランスよく配合されている経口補水液(Oral Rehydration Solution;ORS)を飲むことで脱水状態を改善させる経口補水療法(Oral Rehydration Therapy;ORT)だ。
 欧米では小児急性胃腸炎の初期治療にORSを使用する診療ガイドラインが確立していたが、昨年日本でもガイドラインが発表され、統一した治療法として広がることが期待されている。この中で、ORTは軽度から中等度の脱水状態に点滴と同等の効果があり、初期治療に有効であるとして推奨した上で、欧米の勧告レベルに合致する経口補水液として大塚製薬工場の「オーエスワン」が紹介されている。
 「オーエスワン」は世界保健機関(WHO)の提唱するORTの考え方に基づいた飲料で、さまざまな医療現場で活用されているほか、家庭でもドラッグストアや調剤薬局などで購入できる。さらに、学校でも夏場の熱中症対策も含めて活用できるため、1年を通して保健室や職員室に常備するケースも増えている。
 また、ゼリータイプは塩味を感じにくく、子どもでも飲みやすい味となっている。そしゃく・えん下が困難な場合、誤嚥(ごえん)性肺炎などを引き起こすリスクがある高齢者にも、ゼリータイプは飲み込みやすくつくられている。
 特に、災害時に避難所となる学校では、特殊な環境で体調を崩して脱水状態に陥る人が出ることが予想できることから、幅広い年齢層で経口補水療法ができるゼリータイプを備蓄しておくことを勧めたい。

大塚製薬工場の「オーエスワンゼリー」

「ワクチンで防げる病気(VPD)」への理解を

 一方、今年に入ってニュースなどで大きく報じられているのが、関東地方を中心にした風疹の流行だ。10月になり累積患者数は千人を超え、すでに昨年の12倍を超えていることから、厚生労働省では予防接種の徹底などを呼びかける通知を5年ぶりに出しているほど。患者の大半は30~50代の男性で、この世代はワクチン未接種の人が多く、抗体を持たないことが要因になっている。
 このような風疹、あるいは麻疹(はしか)やB型肝炎といった「ワクチンで防げる病気(VPD)」への社会理解と、すべてのワクチンの定期接種化を推進する「NPO法人VPDを知って、子どもを守ろうの会」(菅谷明則理事長:すがやこどもクリニック院長)では、子どもの予防接種の定期接種化が進み患者数が減少傾向にある一方で、大人のVPDが増加傾向にあると警鐘を鳴らしている。
 たとえば麻疹は、日本では2015年にWHO西太平洋地域事務局が「麻疹排除国」に認定したが、今年に入って沖縄や愛知などで160人を超える流行が起こっている。つまり、排除国であっても、海外からウイルスが持ち込まれれば、ワクチンを接種していない人たちを中心に流行してしまう恐れがあり、日本の海外旅行者や訪日観光客が年々増えている状況から、海外から持ち込まれるリスクは高まっているのだ。
 しかも、感染は大人だけに留まらない。なぜなら、今年もワクチン未接種で麻疹に罹った中学生が通う学校で2次感染が発生しているからである。そのため、同NPOでは本人の感染予防だけでなく、周囲への感染予防を図ることを目的に、ワクチンを2回接種していない者を把握し、2回の接種が完了するまで接種勧奨を行うなど、学校におけるVPD対策の必要性を訴えている。

中高生におけるVPD対策の意義

 こうした対策が重要なのは、(1)大人のVPDは子どもが罹るよりも重症化しやすく、思春期以降に罹りやすい特徴があること(2)特に妊娠中は母子に深刻な事態を招く危険性が高まるため、妊娠出産年代前の今のうちに男女ともワクチンを受けておく必要がある、といったことがあげられる。したがって、中高生までにしっかりとVPD対策をしておけば、本人たちの将来の重症化するリスクを減らすだけでなくがん予防やその次の世代に対してもVPDから守ることにつながる。
 さらに、集団生活する学校は感染が広がる恐れがあることから、教員のVPD対策も重要で、必要なワクチン接種をすべきと提案している。
 なお、同NPOがVPD対策を訴えるのは、日本の予防接種制度は先進国の中では最低レベルといわれており、他の国では無料で接種できるワクチンの定期接種化が、日本では遅れているからだ。WHOが誰でも受けられるようにすべきとしているおたふくかぜやロタウイルスワクチンは現在も任意接種だ。学生寮や集団生活の場で流行することが知られている髄膜炎菌感染症のワクチンは、米国では11~12歳に1回、さらに16歳で追加接種を受けることが推奨されているが、日本では2015年に承認はされたもののあまり知られていない。
 だからこそ、学校においても感染症対策の1つとして、「ワクチンで防げる病気」があることをもっと理解する必要がありそうだ。

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