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今、なぜ種が問題なのか 食卓の野菜が!?

13面記事

書評

寺尾 朱織 著
在来野菜を守る人々の歩み

 スーパーで売られている野菜の大きさは、大抵きれいにそろっている。その理由は、種にある。買ってきた野菜を植えると、翌年には花が咲く。だが、花粉がなく、実を付けない。このような種は、第2次世界大戦後に、人の手で作り出されたものだ。今では、世界中に流通している。
 生産者は毎年、種を買って、野菜を育てることになる。こうして収穫されたのが、F1品種の野菜である。私たちは、日々、こうした野菜を買って食べているのだ。
 もう一つの種がある。こちらは、固定種と呼ばれる。何世代にもわたって、生産者がその土地に合った野菜を作り続けてきた。京野菜や江戸野菜など、地域の名前を冠した野菜である。毎年、自家採種して育てるのだ。
 本書は、福島県のいわき市の在来野菜を守る活動のドキュメンタリーである。在来野菜の種のアーカイブを作成し、収穫した野菜を人々と共に味わう。親から子へと連綿と受け継いできた種を、さらに、次世代に伝えていく。極めて重要な活動である。
 最初は、いわき市の受託事業として開始したILO(いわきリエゾンオフィス)が、生産者との結び付き(リエゾン)の核となった。事業終了後は、いわき昔野菜保存会が、その中心である。登場する人たちは、一様に明るい。きっと、種が人と人をつなぐからだろう。
(1620円 歴史春秋出版)
(都筑 学・中央大学教授)

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