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三月の空を見上げて 戦災孤児から児童文学作家へ

15面記事

書評

漆原 智良 著
孤島の教師、困難乗り越え

 これは人間としての教師の生きざまを赤裸々に吐露した実践記録である。
 「十一歳で戦災孤児になった私は、終戦後の一時は『生きるために』『食べていくために』必死になって働いた。なぜなら、戦地で父母を亡くした戦争遺児には遺族年金が支給されたが、空襲などで親を亡くした戦災孤児には何らの保証もなければ、国からの謝罪すらなかった」。こうした史実を私たち教師は当事者として理解はできない。まさに生き証人として未来へと忘却させない使命感を感じる。
 艱難辛苦の荒波にもまれながら、孤島・八丈小島で教師となり、やがて全島移住を経験、その後、夢であった児童文学作家へと転身。折々に励まし支えてくれた人々との交流の中で、東日本大震災へと関わる。時にほほ笑ましく日記を読むように記される。
 「大学定年後、『七十歳からが本格的な人生の始まりだ』と、私はいっそう心を引き締めた」と、生涯青春の気概で鼓舞する言葉に、強烈な気合を入れられた感がある。また「教師の怠慢と傲慢さを排除することが教育の原点である」とも指摘する。この潔さこそ、教師であった者、教師である者、教師を目指す者にとって、普遍の神髄ではないだろうか。たゆみつつある私に、教師という枠を超え、人として「いかに誠実に生き切るか」を示していただいた「激励書」と受け止めた。
(1512円 第三文明社)
(大久保 俊輝・亜細亜大学特任教授)

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