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災害に強い学校施設をつくる

9面記事

企画特集

昨年の西日本豪雨など予期せぬ災害が頻発

 地震や豪雨など相次ぐ自然災害を踏まえ、政府は昨年12月に「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」を閣議決定し、7兆円程度をかけて重要インフラにおける防災対策を進める計画を発表した。こうしたなか、子どもたちの学習・生活の場となる学校施設は、災害時には地域住民の避難所としても使用される極めて重要な施設として位置づけられているが、文部科学省のこれまでの調査からも、防災機能が十分ではないことが分かっている。そこで本特集では、学校施設における防災機能の現状を探った。

国家プロジェクトによる3か年緊急対策

自然災害を受けても機能を維持するために
 近年の日本は豪雨や高潮、暴風、震災、豪雪など多くの気象変動や自然災害にさらされているため、このような災害に事前から備え、国民の生命・財産を守ることが喫緊の課題となっている。また、昨年の西日本豪雨や北海道胆振東部地震、大阪府北部地震では、ブラックアウトの発生や空港ターミナルの閉鎖といった国民の生活や経済活動に大きな影響を及ぼす事態が発生した。これらの教訓を踏まえ、重要インフラが自然災害を受けても機能を維持できるよう早期の対策を図るのが、「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」になる。
 本対策は、平成26年6月に閣議決定された「国土強靱化基本計画」に基づき、優先されるべき45のプログラムのうちから、特に重点化すべき15のプログラムと関連が強い5のプログラムの計20ブログラムについて、3年間の達成目標を設定した上で取り組むもの。その重点化プログラムには、文部科学省が進める学校施設等の耐震化・防災機能強化・老朽化対策等も含まれている。
 なお、総事業費の内訳は、防災のための重要インフラ等の機能維持と、経済・生活を支える重要インフラの機能維持に、共に約3・5兆円ずつを投じる構えで、安倍首相も、今後3年間は公共事業を大幅に増額し、スピード感を持って進める意向を表明しているなど本気度がうかがえる。また、本対策の実施に当たっては、行政が効率的に実施することはもとより、自助・共助・公助を適切に組み合わせ、官民が適切に連携、役割分担しながら取り組むことが重要であり、民間事業者等による事業も含め、おおむね7兆円程度を目途とする事業規模をもって達成を図るとしている。

非構造部材の落下防止やエアコン整備を重点的に
 こうしたなか、昨年12月に行われた、柴山昌彦文部科学大臣の記者会見では、平成31年度予算として公立学校施設整備事業などに合計2千億円強を確保したことに言及。学校施設の強靭化を図るため対応が必要となる耐震化や非構造部材の耐震対策などを推進するほか、老朽化対策、トイレ環境等の教育環境の改善等の安全性・機能性の確保を図ることを示唆した。
 文部科学省はこれに伴い、「学校施設等の緊急点検結果を踏まえた対応及び緊急対策について」を全国の教育委員会に通知。学校施設等の屋根や外壁、内壁、天井などの非構造部材の安全性ついて緊急調査した結果を踏まえ、未だ是正されていない箇所について早期の是正をするよう求めている。
 この点検・調査した結果では、公立学校=約3万8千校のうち、安全性が確認できた学校は32%で、安全性に課題がある学校は46%。私立学校=約1万6千校のうち、安全性に課題がある学校は9%。公立社会体育施設=約1万1千施設のうち、安全性に課題がある施設は14%だった。
 このような状況から、重要インフラとしての学校を対象にした緊急対策では、平成30年度の補正予算を活用し、熱中症対策として普通教室のエアコン整備と約1キロのブロック塀の安全対策を実施すること。加えて、全国5千4百箇所の安全対策が進んでいない非構造部材を有する建物について、平成32年度までに改善することを求めている。


体育館の天井材落下対策が急がれる

遅れている学校施設の防災機能
 学校施設の耐震化は東日本大震災を契機に急ピッチで進められたことで、校舎についてはほぼ達成し、現在は体育館や武道場、室内プールなど屋内運動場の耐震化を含む非構造部材の改修に移行している。しかし、全国の公立学校の約9割が避難所に指定されていることを考えると、防災機能の面では対応が遅れていると言わざるを得ない。事実、東日本大震災や熊本地震では災害に遭った人たちの多くが学校施設を避難所として利用したが、インフラや機能面でさまざまな問題も噴出した。
 熊本地震では、体育館の吊り天井材や照明器具などの非構造部材が落下する事故により、3分の1の学校が避難所として使えなくなった。また、割れたガラスが飛散することによって2次被害につながるケースも多いため、合わせガラスなどの防災ガラスを導入することや、飛散防止フィルムを貼るなどの安全対策も重要だ。
 さらに、文部科学省が公表した「避難所となる公立学校施設の防災機能に関する調査結果(平成29年4月時点)」でも、備蓄、飲料水、自家発電、通信設備のいずれの点についても十分ではないことが分かっている。「備蓄倉庫や備蓄スペースを設置している」学校は72%。「飲料水を確保している」は66%。「自家発電設備など災害時に使用可能な発電設備を備えている」は53%。「相互通信可能な通信設備などを保有している」は77%と、避難者を受け入れる施設としては心もとない数値になっている。
 なかでも、ライフラインとして重要な断水時に対応できるトイレの備えをしている学校施設は49%と半分にも満たない。しかも、マンホールトイレを保有している学校は12%。携帯トイレや簡易トイレを確保は33%。断水時にプールの水や雨水を洗浄水として使用できるところは、わずか3%ほどに留まっている。
 これまでの災害を振り返っても、避難所生活が長期化するほどトイレや空調、プライバシーを確保する重要性が増すことが分かっている。特に衛生的なトイレの確保は、避難者の健康面や精神面はもちろん、感染症などを防ぐためにも重要なインフラとして考えなければならない。


補正予算でどれだけ進むか

体育館の空調設備も課題
 加えて、昨年の西日本豪雨による避難所でも、冷房機器を仮設したり、大型の扇風機を設置したりして熱中症対策を施すところが多くみられたように、多くの学校の体育館では空調設備が設置されていないのも大きな問題になっている。
 平成30年度の補正予算では、熱中症対策として普通教室へのエアコン整備を推進することになったが、体育館までは手が回っていないのが現状だ。その意味でも、大型の扇風機はクラブ活動や行事などで平時から活用できる魅力がある。したがって、補正予算を使って小中学校に2台ずつ計242台を導入することを決めた東京都八王子市のような自治体も多くなっている。また、喫緊な問題として来年度から体育館へのエアコン導入を計画している埼玉県戸田市のような例も出てきているなど、学校施設全体を通した熱中症対策が1つのトレンドになっている。
 しかし、補正予算によって学校のエアコン導入が一気に進むことはうれしい話題だが、夏が本格化する前に導入しなければ意味がないため、各地から業者不足の声も聞かれている。自治体としてはこうした課題も踏まえ、ガスヒートポンプなど多様な採用のスタイルも取り入れた計画的な整備が必要になるだろう。

情報伝達手段に公衆無線LANを開放
 一方、総務省によって整備が進められているのが、災害時に防災拠点となる学校などの公共施設に無線LANを導入する「防災等に資するWi―Fi環境の整備計画」だ。これは、これまでの震災でインターネットやSNSが貴重な情報伝達手段になったことを教訓に、災害が発生したときに通信回線の輻輳による影響の少ないWi―Fiを開放し、避難者など不特定多数の人が安否確認の連絡手段や情報収集をスムーズに行うことを目指すもの。
 タブレット端末の導入によって校内に無線LAN環境を整備する学校は増えているが、避難所となる体育館までアクセスポイントを設置している学校は少ない。総務省では3万箇所の整備を目標として、ここ数年で整備を加速しており、来年度にかけて残り6千箇所を整備していく意向だ。
 近年だけを振り返っても、大きな災害が起きたときに学校施設が地域の拠り所として機能する重要性は誰もが知るところである。しかし、安全性を高める施設づくりやライフラインを維持する備蓄や設備、あるいは人的ネットワークを円滑に運用する機能はまだまだ十分ではない。自然災害は予測できないし、待ってもくれない。だからこそ、この3カ年を有効に活かしてほしいと期待する。

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