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知財創造教育【第10回】「未来の学校」の実現

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 スウェーデンの著述家でもあり小学校の教師でもあったエレン・ケイ(Ellen Key)は、19世紀最後の年である1900年に著書「児童の世紀(Barnets århundrade)」の「未来の学校」の章において次のように述べています(注1)。

 ・「授業で最初に大切なことは、子どもの自主的観察力と自主的作業力を、子どものための教育手段として用い、またこれを子どもを観察する者の指標として用いることである。」
 ・「教師の本来の仕事は、次に挙げる数々の事項を子どもに教えることである。すなわち、みずから観察すること、自分で任務を決定すること、自分独自の補助手段-書籍、辞典、地図など-を見出すこと、たとえ困難があっても最後まで闘えば、その労に対して道徳的に報いられることを教え、広い視野と勝利への力を与えることである。」
 ・「坐ったまま、教師のデモンストレーションや実験を見たり聞いたりする生徒は、観察を学ぶことができない。書き方帳をあまり念入りに直してもらっている生徒は、書き方を覚えない。工作の手本集を杓子定規にまねる生徒は、工作を日常生活の仕事にすることはできない。自分で研究し、暗に示された誤りを自分で発見し、成し遂げるべき目的を自分で案出し-大体、長く尾を引くような誤りでない限り細かい訂正はせず-、自分で模索して、正確に完全な作業および表現方法を発見する、これが本当の教育であり、これこそ純粋な訓練の道である。」


(注2)

 しかしながら、この著作の翌年から始まった20世紀の社会では、指導者の指示に忠実に応え、機械のように反復的かつ正確に働くことが人々に求められ、ごく一部の人を除いて彼女の言う「未来の学校」は不要な存在でした。また、「未来の学校」を実現するために必要となる、自ら学習する際にすばやく正確に情報を得るための手段として活用できる視聴覚機器やインターネットのようなインフラも存在しませんでした。一方、21世紀の社会では、人工知能やロボットのような機械にはできない尖った発想をすることが求められ、自ら学習をするために必要な技術もインフラも整っています。まさに、100年以上前の教育者が描いた「未来の学校」を実現することが求められ、また、実現できるようになったのです。

 知財創造教育は、この「未来の学校」を実現して、新しいものを自ら創造し、それらを尊重することのできる子どもたちを育てようとするものです。そして、その子どもたちが社会の担い手となったときに、モノやコトに付加することのできる価値を増大させて、我が国が低いといわれている労働生産性を飛躍的に向上できるようにするための投資でもあります。

 教育という巨大なイナーシャ(慣性)を有する船の舵を切ることは、容易なことではありません。しかしながら、教育の分野でも、20世紀型社会で生きていくための教育から、21世紀型社会で生きていくための教育へと変化することが求められています。
 「知財創造教育」、すなわち、「『新しい創造をする』こと、『創造されたものを尊重する』ことを、楽しみながら理解させ育む教育」を推進していくことは、現代を生きる大人の責務として捉える必要があると考えていることを示して、連載を締めくくりたいと思います。
(文=仁科雅弘・内閣府知的財産戦略推進事務局参事官)

(注1)エレン・ケイ 著/小野寺 信、小野寺 百合子 訳、「児童の世紀」、冨山房百科文庫24、冨山房、1979年2月9日、p.224,226-227
 ※åは「上リング付きA小文字」

(注2)画像引用元
https://sv.wikipedia.org/wiki/Ellen_Key

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