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大学入学共通テストに挑む 随想比較し、読みを深める

15面記事

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西川 かおり 東京都立国分寺高校主任教諭

 大学入試センター試験から出題傾向が大きく変わる「大学入学共通テスト」。高校現場ではどのような授業づくりが求められるのか。各教科で授業を提案してもらいます。

平成30年度試行調査について

 第1問の記述問題は「言語」をテーマにした二つの論理的文章に資料として言語学者の文章が一つ加わり、合わせて2500字程度の比較的平易な文章からの出題であった。要旨が的確に捉えられていれば難しい設問ではないが、採点基準に沿った解答を仕上げるには時間がかかる。問3については採点も考慮された設問になっているものの、基準を統一するのは難しいのではないか。採点の仕方によって問われる力の質が変わってくることもある。思考力を問いながら、かつ明確な採点基準を作り上げてほしい。
 第2問は著作権を扱う問題である。実用的な文章や図表、論理的な文章を関連させて解答する問題だった。限られた時間の中で複数の情報を目的に応じて読み取り、判断し、関連付ける力を問うものだが、このような問題には生徒は慣れていない。決して難しい問題ではないが、正答率はそれほど高くなかったようである。
 第3問は吉原幸子氏の詩と随想を題材とした問題だった。授業において、どれほどの時間を「詩」というジャンルに割いているだろうか。しかし、「詩」は作者がその心情や意図を「ことば」に込めた文学的文章である。さまざまな種類の文学的文章を授業でも扱う必要を感じた。
 第4、5問は会話文形式の問題、引用があるとはいえ、従来の試験とそれほどの違いはなかった。しかし、複数のテキストの比較や関連付けを問う傾向は、古典分野でも押さえておく必要がある。

提案授業

 今回は複数の随想を比較し、読みを深めていく授業を提案したい。プレテスト第3問の中では問6のテキスト全体の展開や表現技巧についての正解率が低かった。文章の特定の場面を問われることには慣れているが、文章全体を体系的に捉えることは苦手なようである。
 随想は思い付くままに書いたようでもあり、表現形式も筆者によってまちまち、捉えどころのないものも多いため戸惑う生徒も多いだろう。しかし、全体に流れる筆者の共通する思いを読み取ることは、さまざまな種類の文章を読解するための学習となる。対象学年は2年生(3学期)。

1.科目 「現代文B」

2.単元名 随想『芝』蜂飼耳

 ※参考資料
 ・『夕陽妄語』「随筆のための随筆」加藤周一(ちくま文庫)
 ・『馬の歯』蜂飼耳(平成26年度東京大学文科入試問題)

3.単元の目標

 (1)心情の機微を表す語句の量を増し、語感を磨き、語彙を豊かにすること。
 (2)文学的な文章における文体の特徴や修辞などの表現について、体系的に理解すること。
 (3)随想というジャンルを踏まえて内容や構成、展開、描写の仕方を的確に捉えること。
 (4)複数の作品を通して作品に表れている筆者のものの見方、感じ方、考え方を捉え、グループで話し合う ことによって自分のものの見方、感じ方、考え方を深めること。
 (5)筆者の心情や情景の描写についての比喩的表現を本文に即して説明し、適切な言い換えができること。((1)~(5)についてのワークシートおよびグループ活動で評価する)
 (6)文章の構成や展開、表現の仕方を考えて文章にまとめること。

4.単元設定の意図

(1)生徒の実態
 1年次より現代文では言語を通じて現代社会を読み解くためのいくつかのテーマについて、複数の文章を読んで理解を深める授業を進めてきた。2人またはグループでの話し合い活動を取り入れるとともに、単元の要約やキーワードの説明など書くことにも力を入れてきた。そのため、比較的スムーズに話し合い活動や記述に取り組むことができる。

(2)教材観
 本文出典は『おいしそうな草』(岩波書店)による。筆者は詩人であるが、多くの随想や小説なども書いている。新聞などにも連載されていたが、独自の視点で選んだ書評なども興味深い。
 本文は詩人らしい感性豊かな随想で、四つの話題が緩やかにつながり展開していく構成となっている。また、比喩や抽象的表現、詩の引用などの表現技巧を通して筆者の思いやものの感じ方、考え方がより効果的に伝わってくる文章である。単元としては2年次に配されているが、3年生初めごろの教材としても適当ではないかと思う。

5.単元の指導(全3時間扱い)

◆1時限目
(1)「随想」というジャンルの特徴を考える。
 ・『夕陽妄語』「随筆のための随筆」加藤周一(ちくま文庫)では「随筆」をどのように捉えているか。
 ・随想の他にはどのような種類の文章(近現代)があるか。(評論、小説、詩歌、戯曲など)
 ・今までどんな「随想」を読んだか。
 →グループで話し合い、まとめた後、全体に発表。

(2)重層的に書き進められている四つの話題について、そのつながりを理解する。
 ・本文音読。
 ・比喩表現や引用なども含めて本文に特徴的な表現を抜き出す。
 ・四つの意味段落に分け、小見出しを付ける。
→各自が付けた小見出しと印象的な表現をグループでまとめ、全体で確認。(「小見出し」を参考に四つの段落がどのようにつながっているか、また、文章全体に共通する筆者の思いを次の時間までに考えておく)

◆2時限目
(1)印象的な表現や筆者のものの見方や感じ方、考え方を捉えることができる表現を抜き出し読み解く。
 ・「あってもなくてもいいようなもの」
 →無駄に見えることであってもそれはそれでその人の生の一部を確実にしている。(本文より)など

(2)表現技巧を学ぶ。
 ・比喩、引用など

(3)作品全体に共通する筆者の思いを理解する。
 ・「人の生」「詩」とは何かと言うこと。
 →ワークシートを記入後、グループで話し合い、全体で確認。

◆3時限目
(1)『馬の歯』蜂飼耳(平成26年度東京大学文科入試問題)
 「設問(四)『掌にのせて、文字のないそんな詩を読む人もいる』とはどういうことか、説明せよ」を解答する。
 →教師が用意した採点基準(なるべく詳細に準備する)を参考に隣の生徒と交換し、採点する。

(2)(1)も参考にして二つの文章に共通した筆者のものの見方や感じ方、考え方を捉える。
 ・二つの文章中にある詩に注目し、筆者の詩に対する思いを考える。その際、(1)の解答も参考にする。
 →グループで話し合い、まとめた後、全体で確認。
 (課題として400字程度で筆者のように体験したことをテーマに随想を書くよう指示する)

 大学入学共通テストでは、新学習指導要領を受けて新たに「多様な文章や図表など」「複数の情報」を的確に読み取ってまとめ、論述する力が問われることとなった。前回のプレテストにおいて一応の方向性は出たものの、われわれ教員もまだ対応し切れていない。
 実際、私も共通テストを念頭に置きつつ授業を行っているが、実用的な文章を読む時間までは取ることができない。教科書や問題集等での指導も限られている。まさに試行錯誤である。
 しかし、今回の大きな改訂は、目まぐるしく変化する社会の中で、生徒たちが心豊かに生きていく力を培うためのものである。前向きに捉えていきたいと考えている。

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