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運動中の熱中症における救急処置

10面記事

企画特集

松本 孝朗 スポーツドクターに聞


松本 孝朗 中京大学スポーツ科学部スポーツ健康科学科教授

命にかかわる熱射病への理解を
 学校の管理下における熱中症死亡事故は、約8割が体育・スポーツ活動によるもので、最も暑くなる7月の後半から8月が多いほか、それほど高くない気温(25~30度)でも湿度が高い場合に発生しています。熱中症とは暑さの中で起こる障害の総称で、熱失神、熱痙攣、熱疲労、熱射病に分類することができます。その中で熱中症による死亡事故を防止するためには、一般に命にかかわることのない熱疲労と、死に至るリスクの高い熱射病との病態や症状の違いについて理解することが重要になります。
 すなわち、指導者には熱射病を予防する強い意識を持ってもらうことが必要であり、そのためには運動中にふらふらしている、言動がおかしいといった軽い意識障害を常に見つける努力をしてもらうこと。さらには、子どもに「水を飲みに行っていいですか?」と言わせない、いつでも自由に水分補給を行える環境づくりを進めることが大切になります。

なるべく早く体温を下げるための処置
 運動中に熱中症で子どもが倒れたときの救急処置としては、まず初めに意識状態の有無を確認することで、簡単な確認方法としてペットボトルの蓋を自分で開けて飲めるかという調べ方があります。自分で飲めない場合は救急車を呼んだ上で、涼しい場所に移し、水道のホースを使って全身に水をかけ続ける「水道水散布法」を行ってください。
 熱射病が疑われた際の「身体冷却法」としては、我が国では「アイスパックや氷を首、わきの下、足の付け根に当てる」がこれまで推奨されてきましたが、近年の研究結果からこの方法は体温低下率が低く、単独での使用は推奨できないことが分かっています。最も体温低下率が高く、救命率が高いのが、バスタブなどに全身を氷水に浸ける「氷冷水浴法」で、次に効果的なのが「水道水散布法」になります。我が国では、医療関係者や救急隊でも未だに「アイスパック法」を基本としているところが多いため、何とかしてその認識を変えなければいけないと考えています。
 学校では「水道水散布法」が現実的な対処法になると思いますが、寝かせるときに頭を打たないように注意し、水が気道(口や鼻)に入らないよう肩から足先まで、常に全身が水に接している状態を保てるようにかけ続けてください。なるべく早く体温を下げることが重要のため、靴は脱がして衣服はTシャツ・短パンのままでも構いません。
加えて、その際には話しかけ続けて応答を確認しながら行うこと。そして、本人が寒いと言うまで冷やすことが大切です。私自身、テニス部の学生に対して行った経験がありますが、続けているうちに「先生、もう寒いからやめてください」と言われ、ここまで行えばいいんだと実感しました。

意識がある場合は水分と塩分補給を
 一方、意識障害が起きていない場合は、室内の涼しい場所に移動し、水分と塩分を含んだ経口補水液などを飲ませて様子を見るようにします。問題なのは、未だにお茶の入った水筒しか持ち込みを許さない学校があることや、脱水症を防ぐには塩分も必要なことを知識として知らない指導者がいることです。たとえば熱中症で足がつって病院に行った場合は、生理食塩水(0・9%食塩水)を1時間で1リットル点滴すると、通常は歩いて帰れるようになります。つまり、塩分を体内に9g入れるわけで、現在の食事基準は一日6g以下ですから、それだけ大量の塩分が失われているのです。
 ちなみに、スポーツドリンクは0・1%食塩水で、経口補水液は0・3%です。したがって、どのくらい緊急性があるかに応じて濃度の高い食塩水を補給することが大事になり、一般的な予防にはスポーツドリンク、熱中症の症状が現れた場合は、経口補水液が適していると思います。
 なお、こうした熱中症予防や救急措置の詳細については、昨年度に取り組んだ独立行政法人日本スポーツ振興センターによる「熱中症を予防しよう~知って防ごう熱中症~」(学校における体育活動での事故防止対策推進事業)のパンフレットとDVDが完成し、現在ホームページでも公開されています。ぜひ、参考にしてください。
 詳細=https://www.jpnsport.go.jp/

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