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冷凍食品の活用で豊かな献立を目指して

14面記事

企画特集

講演では栄養教諭への期待が語られた

学校給食での冷凍食品活用に向けた研修会
大阪

 食品の品質をとれたて・作りたての状態のまま保存できる冷凍食品は、食品の安定供給や安全性、調理時間の短縮といった利点があり、豊かな献立づくりの面で学校給食の充実に貢献している。
 その活用法を知り、豊かな献立を実現するための研修会が7月31日、大阪市で開かれ、大阪府を中心に栄養教諭ら42名の学校給食関係者が集った。(主催=日本教育新聞社、共催=一般社団法人日本冷凍食品協会)
 開会にあたり日本冷凍食品協会の木村均専務理事は「本協会は冷凍食品に関する正しい知識の普及活動や、品質・技術指導を行い、今年で50周年を迎えた。冷凍食品の利点を再認識いただき豊かな献立の実現に活かしていただきたい。メーカー担当者と直接顔を合わせ率直に意見交換し、互いに有益な研修会になれば」と挨拶した。研修会の様子を報告する。

基調講演
食育推進に果たす冷凍食品の役割
栄養教諭の活躍に期待


金田 雅代 女子栄養大学名誉教授

エビデンスに基づいた業務の改善
 元文部科学省学校給食調査官で女子栄養大学名誉教授の金田雅代氏が「食育推進に果たす冷凍食品の役割」と題して基調講演をおこなった。
 食育基本法は平成17年に成立した。金田氏は同法の条文や食育推進基本計画を抜粋し「学校給食が食育推進に期待されていることをしっかりおさえることが栄養教諭の話の説得力につながる」と言う。
 特にこれからはエビデンスに基づいた業務改善が求められると強調し3段階のデータの利用例を示した。 1つは生活習慣病の罹患率や医療費などの全国的なデータだ。健康寿命を延ばし社会保障費を抑制するには食育は不可欠との前提となる。
 2つめは日本人の栄養状態を示す厚労省「国民健康・栄養調査」など。食と健康にかかわる調査から朝食欠食や野菜摂取量などの現状を知るのに役立つ。
 3つめは学校給食摂取基準など国の方向性を示したもの。「データに基づき現状を説明すれば、食に関する実践力を伸ばす学校給食の重要性が理解されやすい。国の基準が変わったら自分たちの実態を把握し、すぐに見直しをかけるべき」と話す。

冷凍食品活用も実践力のひとつ
 栄養教諭の役割は学校給食法に明記されるように「実践的な指導」だ。金田氏は栄養教諭のあるべき姿として、食に関する指導と給食管理の両立を実践し「1食1食バランスのとれた美味しい食事を提供し、その実現のために専門性を発揮すること」と述べる。
 冷凍食品はそうした美味しい給食、バランスのよい献立に大いに貢献できる食品だ。日本冷凍食品協会が発行する啓発資料や統計資料を上手に活用すれば食材選定の際の参考になり、正しい取扱い方や調理法の知識を得られる。
 同協会が2012年に給食事業者を対象に冷凍食品の利用実態を調べた報告書によると「冷凍食品の取り扱いで重視する点」として「非常に重視」が高かった項目として「生産国、原材料の産地が信頼できる」「食品としての安全性に信頼がある」「二次汚染を防止できて安全である」「価格が安定している」などが挙がっている。金田氏は「データを集めて、どのような冷凍食品を取り入れる際の参考にしてほしい」と活用に際しての留意点を述べた。
 結びに今後の課題として「減塩」を挙げ、「学校給食の食材メーカーも減塩品を提供し始めた。業界と協力して推進することが必要。今の大人が抱える食生活や健康問題は、将来、子ども達が抱える可能性がある。子どもの食生活の問題や課題は保護者が抱える問題や意識を反映していると捉えて取り組んでほしい」と呼びかけた。

特別講演
冷凍食品を活用した献立例を紹介
震災受け、冷凍食品の活用工夫


井間 眞理子 福島県学校給食会専門栄養技師

 基調講演に続き「冷凍食品の活用の実際~DVDの事例に学ぶ~」と題して、公益財団法人福島県学校給食会の専門栄養技師・井間眞理子氏が特別講演を行った。
 井間氏は日本冷凍食品協会が作成したDVD『学校給食充実のために冷凍食品ができること』に携わった経験を持つ。DVDに登場する福島市・川俣町学校給食センター勤務時の冷凍食品の活用例を紹介した。
 同センターは平成19年度に開設されたオール電化厨房システムの調理場で、12校1460食を提供する。平成23年の東日本大震災と福島第一原発事故により給食は中断。復旧後も食材の調達が難しかったため、県外の冷凍品を用いて郷土料理の「いかにんじん」を調理するなどして乗り切ったという。
 こうした経験から、冷凍食品活用の多彩な工夫を編み出したという。魚の切り身は、1人当たり0・5~1グラム程度のサラダ油を絡ませてから焼くとパサつきを防げる。冷凍液卵は卵液の5%の油を入れて混ぜ合わせることでふわっとした汁になる、などだ。
 ほうれんそうやホールコーンなどの野菜類や切り身魚や肉、液卵など「素材系」の冷凍食品は季節の野菜等と上手に使い分けることがポイント。ハンバーグやコロッケ、フライ、シューマイなどの「加工食品系」は調理済みなので二次汚染の不安が少ない。ソースやたれの活用と工夫をすることで変化を付けるという。井間氏は「ハンバーグひとつでもおろし、きのこ、ごまだれソースなど、調理員と試作を繰り返しておいしいオリジナルソースを考案した」と振り返る。
 オムレツは蒸し調理ならバラ凍結品を、釜でボイルの場合は袋詰め品と、同じ食品でも献立や調理法により凍結状態を選ぶことは調理時間の短縮や二次汚染防止、良い仕上がりにつながる。経験の浅い調理員も確実に作業できるという。リクエストの多い「揚げパン」など手のかかる献立がある場合は、主菜を冷凍食品にして調理時間短縮を図る。二次汚染防止のためフライヤーから離れた釜で調理できるボイル品を選んだという。冷凍食品を活用することで豊かな献立実現と安全性の高い作業動線の確保が可能になった例だ。
 参加者からは「冷凍食品の調理法が具体的にわかってよかった」「実際の献立例を知ることができ、応用したい」と好評で、献立例のスライドを真剣に見入り、熱心にメモする様子があった。

DVD視聴
冷凍食品の安全・安心、活用事例を学ぶ
基礎的内容を網羅

 井間氏の特別講演後、会場では日本冷凍食品協会作成のDVD『学校給食充実のために冷凍食品ができること』が上映された。このDVDは金田氏が監修し、学校給食関係者向けに冷凍食品に関する基礎的内容や学校給食での活用事例を解説したもの。
 前半は冷凍食品の製造工程と品質管理を解説。冷凍食品は通常、次の4つの条件を満たすように作られている。

1 前処理している
原料を洗浄したうえで、食用としない部分を取り除く、調理するなど前処理をしてあること。

2 急速凍結している
凍結するときに食品の組織が壊れて品質が変わらないよう低温で急速凍結すること。

3 適切に包装している
利用者の手に届くまでに汚れたり、型崩れするのを防ぐため適切に包装してあること。

4 品温をマイナス18度以下で保管している
 生産・貯蔵・輸送・配送・販売の各段階を通じて常にマイナス18度以下に保つように管理していること。

 品質と製造工程の衛生管理レベルが一定基準以上に達した工場で製造した製品には、日本冷凍食品協会の「冷凍食品認定制度」に基づき「認定証マーク」を貼付することができる。冷凍食品活用の際はこのマークが選定の目安となる。
 後半は特別講演の講師である井間氏が勤務していた川俣町学校給食センターの取り組み例が登場した。二次汚染リスクを回避し、調理時間の短縮化をしたうえで献立を工夫をする手順が紹介されている。
 DVDの中で公益社団法人全国学校栄養士協議会の長島美保子会長は、冷凍食品は「魅力的な献立づくりを助けてくれるもの」とし、安全・安心の面から上手に使ってレパートリーを増やすことが大事と指摘する。17分間のコンパクトな内容で冷凍食品に関する知識が把握できる映像資料だ。


DVD視聴後には出演者である井間氏から解説を受けた

意見交換会
冷凍食品利用の疑問を解消
協会やメーカーと栄養教諭で議論
適切な扱い方を共有

 研修会後半は、冷凍食品活用についての疑問を解消し、活用のヒントを探るため、学校給食関係者と冷凍食品メーカー担当者が一堂に会し意見交換会を行った。金田雅代氏の進行で活発な質疑応答があった。


研修を通じて疑問に思ったことを投げかける参加者

金田 講演や試食会、DVD視聴をして冷凍食品の扱いについて知識が深まったと同時に、さまざまな疑問もあるでしょう。どうですか?

参加者 ブロック凍結の冷凍野菜の適切な取り扱いを教えてください。夾雑物が混入しているケースもあり、大量の冷凍ほうれんそうは扱いにくいという話も聞きます。

井間 ほうれんそうは解凍に時間のかかるブロックタイプではなくバラ凍結を使っていました。

三浦佳子(日本冷凍食品協会広報部長) バラ凍結のほうが調理時間は短くなります。夾雑物についてはメーカーの中には協会会員社外の企業もありますので、選定の際は認定証マークをよく確認することが大切です。

参加者 さやつき冷凍枝豆も同じ悩みがあります。納入業者には「自然解凍でいい」と言われていますが、調理委託業者が加熱してしまいます。上手に説明する方法はないでしょうか。

三浦 弁当などに用いられる自然解凍品は、食べごろを想定して35度で9時間放置しても菌が繁殖しない厳しい規格で作られています。衛生上の問題がない商品だけが「自然解凍品」と名乗ることができるのです。自信を持って自然解凍で使ってください。

参加者 井間講師の冷凍魚に油をからめて焼く方法はヒントになりました。じつは焼き魚は「むら」が出て苦労しています。半解凍または凍結したままスチームコンベクション(スチコン)に入れてもいいですか。

参加者 凍ったままの魚に塩をし、ホットモードで5分焼きグレーズを落としてからコンビモードにして10~15分でうまく焼けますよ。スチコンメーカーのセミナーで習い目からうろこでした。

金田 冷凍食品と同じく、調理機の適切な使い方もメーカーに聞くと教えてくれます。積極的にたずねてみましょう。

参加者 同じく焼き魚のことです。冷凍魚は前日から冷蔵庫に移してもいいですか?

メーカー 冷凍のまま焼くのがおいしいでしょう。冷蔵庫で保管するとうまみ成分がドリップで失われますし、解凍状態によりスチコンの調整が大変になりますから。

参加者 納入業者が1カ月に1、2回しか来ない地域です。昨年は8月末に9月分が納品され直後に停電が起きました。丸1日復旧せず、業者にたずねたところ冷凍庫の扉を閉めたままであれば冷凍食品は使えると聞き、魚以外は実際に調理できたので助かりました。でも、停電後、本当はどれぐらいの時間まで使えますか。

三浦 家庭用冷凍庫なら閉めっぱなしで3、4時間は大丈夫です。業務用の大型冷凍庫は閉めたままでも在庫の多寡で庫内の温度が変わります。このような場合は、食べる前に十分な確認をしてください。一度解けたものは再凍結せず、加熱したうえで食べ、少しでも異変があれば破棄してください。

金田 子ども達は今の給食しか食べられませんね。環境が悪いから、設備が整っていないからは理由になりません。栄養教諭をはじめ学校給食関係者はもっと声を上げるべきです。お互いもっと頑張っていきましょう。今日はありがとうございました。

企業の取り組み紹介・試食
新しい献立づくりの参考に
担当者との直接交流し、活用方法を模索

 研修会に合わせ一般社団法人日本冷凍食品協会会員の9社が試食・商品説明会を同時開催した。学校給食向け冷凍食品の品質や情報を提供する狙い。
 給食の配膳時間を想定し、午前中に調理したものを各社3点ずつ提供。学校給食製品に対する取り組みポイントを5分間でプレゼンテーションした後、調理室に移動し、参加者に味わってもらった。餃子、魚のフライなど主菜となる調理品、油揚げなどの大豆製品、ゼリーなどのデザート類など多彩な商品が揃い、参加者たちは各社の担当者に質問をしながら試食を進めた。
 「初めて食べるものもあり知識が広がった」「新たな献立をイメージできそう」と、参加者は味や食感、サイズ感などを確かめていた。「メーカーの担当者から調理法やソースの工夫を聞けた」「各社の工夫や、商品へのこだわりが感じられた」と冷凍食品そのものへの理解も深まった。


味や食感などを試食で確かめた

 日本冷凍食品協会では、学校給食関係者を対象に、冷凍食品に関する講演会や調理講習会を無料で実施している。
 問い合わせ=電話03・3541・3003

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