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今の時代にふさわしい卒業記念品を

13面記事

企画特集

古くから変わらず愛されるもの、新しい視点や役割を担ったもの、卒業記念品選びも選択肢の幅が広がっている

 時代はどんなに変わっても、卒業生から学校へ、学校から卒業生へ、感謝や祝福の思いをカタチに変えて贈られるのが「卒業記念品」だ。しかし、社会や教育を取り巻く環境が著しく変化する中で、卒業記念品に対する考え方や捉え方も多様化している。そこで秋の訪れとともに本格的な選定時期を迎えた学校現場へ、今の時代にふさわしい卒業記念品を紹介する。

壁掛け時計も今や昔に

キーワードは多様化と実用性

年々早まる選定時期
 卒業記念品には、卒業する児童生徒に向けて、母校への愛着を持ち、誇れる郷土を記憶に残してもらうため贈られるものと、学校へ向けて、卒業する児童生徒の保護者から感謝を込めて贈られるものの2種類がある。また、卒業生に贈る記念品の単価はおおむね千円~3千円未満で、学校に贈呈される記念品は私立学校を除くと10万円~30万円程度といわれている。
 そんな卒業記念品の選定時期は、本紙のアンケート調査の結果によれば、7割近くの学校が9月から12月の期間を挙げている。以前は慣習的に学校前業者に依頼していた学校も多かったが、近年ではネットなどでノベルティに関する情報も入手しやすくなった。そのため、幅広い商品の中からコストを含めて比較検討することが容易になり競争も激しくなっているとともに、「より良いものを贈りたい」「マンネリでないものを贈りたい」という考えも相まって、選定時期も年々早まる傾向にあるようだ。
 したがって、のんびりと構えていては欠品や納期不足が生じる恐れもあるため、予算に見合って思い通りの記念品を贈呈するために、なるべく早期に選定する必要が生まれている。

記念品選びが難航する背景
 もう1つ選定時期が早まっている理由には、少子化や価値観の多様化によって記念品選びに難航する学校が多くなっていることが挙げられる。なぜなら、多くの学校は卒業記念品にかかる費用を「卒対費」と「PTA予算」の両方から捻出しているため、保護者の意向にも配慮する必要があり、それが記念品選びをより難しくする要因になっているからだ。たとえば、教育熱が高いばかりに口を挟む保護者が増えたり、生活スタイルの違いや経済格差などによって意見の食い違いが見られたりするといったことが、年々増えてきているのだ。
 また、学校に贈られる記念品についても、より「実用性」を重視した品目を選ぶ傾向が強くなっていることに加え、私立学校を中心に高額化が浸透している印象がある。これは学校から卒業生に贈る記念品も同様で、高校生以上は「進学・就職先で活用できるもの」といった、より社会生活に役立つ品目が歓迎される傾向にある。
 さらに、学校教育の多様化や個性化が進む中で、部活動やクラス単位で記念品を用意するといったケースも珍しくなくなっていることなどが挙げられる。つまり、担当する教員にとっては、こうしたさまざまな要望に応えるためにも、より早期かつ慎重に記念品を検討する必要が生まれているのだ。

在校生に役立つ品目を選ぶ
 このように、卒業記念品といっても一括りにできない状況がある中で、時代にふさわしい、新しい視点で選ぶ記念品にはどのようなものがあるのか。
 まず、卒業生から学校に贈るものとしては、課題解決や探究的な授業に必要な情報活用に向けて、学校のインフラとして足りない電子黒板やタブレット、プリンター、長尺印刷機、プロジェクターなどのICT機器が定番としてある。また、理科の実験・観察が重視される中で、太陽光発電装置、顕微鏡や計測器、理科ソフトなども選択肢に入っている。これらに加えて、今後は新学習指導要領で実施されるプログラミング教材やロボット、各種英語教材、3Dプリンター、無線LAN機器なども入ってくるかもしれない。つまり、従来のレリーフや記念樹といったものよりも、後輩たちのために役立つ品目を選択するケースが多くなっており、こうした傾向は教育情報化に向けた整備が遅れている自治体が多いことからも、今後も引き続き増加していくものと思われる。
 ただし、児童生徒数の減少もあってレリーフなどの記念碑的なアイテムを寄贈するケースは減っているが、従来からの人気を保っている品目も存在する。その代表格が運動会などの学校行事における日よけや雨よけに欠かせない屋外テントで、近年では災害時の仮設テントや熱中症・紫外線対策としても活用できることから、その価値が見直されている。また、そうした意味ではスピーカーシステムなどの音響製品も学校では必要性が高い。最近ではワイヤレス型も登場しており、屋外問わず利用できる魅力がある。あるいは、かつての卒業記念品の定番として年配者にはなつかしい壁掛け時計も、現代にマッチしたデザインや機能性を高めることで存在価値を高めている。

現在のトレンドは、防災用機器・用品
 さらに、近年相次ぐ自然災害を踏まえ、地域の避難所機能を担う学校施設に、災害時に役立つ設備機器を卒業記念品として贈呈することが増えている。なぜなら、文部科学省の「避難所となる公立学校施設の防災機能に関する調査結果(平成29年4月1日時点)」では、備蓄、飲料水、自家発電、通信設備、トイレ環境のいずれの点についても十分ではないなど、防災設備が極めて乏しいことが明らかになっているからだ。
 特に、避難者が生活する空間になる学校の体育館には、冷暖房装置が未設置な場合がほとんどのため、冬場の寒さや夏場の暑さを凌ぐ対策は命綱となる。そこで、卒業記念品の予算を活用して、大型の赤外線ヒーターや業務用ヒーター、大型扇風機(大型送風機)、スポットクーラーなどを導入するケースや、発電機や簡易トイレ、マンホールトイレ、備蓄用品などの災害用品をそろえるところが多くなっている。
 また、年々猛暑が激しくなる中で、ふだんの体育授業や部活動の熱中症対策として、こうした冷房機器や冷水機、熱中症計を始めとする熱中症対策製品を贈呈することも増えている。本来ならば、これらの機器は自治体が計画的に整備していくものだが、知っての通り教育予算は潤沢ではない。「今すぐ対処したい」「来年度には間に合わせたい」と考えると、卒業記念品として寄贈する方がスピーディーなのだ。

非常用バックも人気

名入れ技術の進化で多様な選択が可能に
 一方、卒業生に贈るノベルティも、名入れ印刷技術の進化や通販サイトの拡張によって選択肢の幅が飛躍的に広がっている。これらの名入れギフトは、従来からあったマグカップやボールペン、時計、国語辞典や英和辞典、電子手帳、印鑑や名刺入れ、慶事用のふくさ、革財布、ペーパーウェイト、フォトフレーム、図書カードなどの種類・品目数にも反映されて多様化している。
 加えて、名入れできる品種や形状も問わなくなったことから、USBメモリ、携帯バッテリー、スマホケース、ストラップなどのモバイル関連商品、またはステンレスやクリスタル、木製などの素材を使ったノベルティ、Tシャツやパーカー、バッグ小物、アクセサリーといったように衣料品などにも波及し、ラインアップを増やしている。しかも、近年では1人ひとりのラッピングにこだわることもできるなど、包装自体も工夫できるようになっている。
 また、防災対策への関心の高まりによって、非常用持出袋や緊急避難セット、懐中電灯、防犯対策として反射板を使用したバンドやキーホルダー、防犯ブザーといったものも選択肢に入るようになっている。
 このような卒業生に贈るノベルティは、前述したとおり部活動の記念品としても用途が増えている。それは部活動そのものが学校の教育活動の範疇を超えて、保護者や地域の人々などの熱心なサポートを受ける機会が多くなっている証拠だろう。
 もとより開かれた学校づくりによって、保護者や地域の人々が学校に関わることも多くなっている現在、卒業記念品といえども、ともすれば軋轢を生む原因になる。ましてやこれだけ変化の激しい時代にあって、学校がこれまでの慣習通りに記念品の選定を推し進めていくことには限界がある。となれば、当然ながら新しい視点を持った卒業記念品選びが、現在の学校には求められているのだ。

卒業記念品は時代を映す鏡
 卒業記念品の品目は、ある意味で時代を映す鏡でもある。とはいえ、学校に足りないものを贈呈するだけに限られるなら、それはそれで少し寂しい気がする。本来、卒業記念品は卒業生の門出を祝うものであり、感謝の思いをカタチにして学校に贈るものであるはず。だからこそ、記念の品を選定する教員や保護者には、その年その年の思いを託す責任があるといえる。
 それぞれの学校の規模や考え方によって選択の余地はいろいろあるだろうが、「思い出に残る」という根本部分を忘れずに、今の時代に合った記念品を選んでほしい。

それぞれの思い出になる記念品を

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