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防災教育にはどのように取り組むべきか 被災から学ぶ教訓

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特集 教員の知恵袋

 日本は地震や津波、台風やそれによる水害などが多く、大きな被害を受けやすい国です。特に、令和6年の能登半島地震や平成23年の東日本大震災では、防災対策の重要性を改めて浮き彫りにしました。

 こうした災害への備えとして、防災教育は「命を守る力」を育むだけでなく、地域全体の防災力向上に大きく関係します。本記事では、防災教育の目的や現状、具体的な取り組み事例を紹介し、効果的な防災教育を進めるためのポイントを解説します。

防災教育で育む4つの能力

 防災教育とは、子どもたちの『命を守ること』を最重要課題とし、災害発生の仕組みや社会と地域の実態を知り、備え方や災害発生時の対処法を学ぶことです。文部科学省は防災教育の目的と養うべき能力について以下のように挙げています。

▽防災教育の目的

 ・自然災害について理解を深め、適切な意思決定や行動選択をできるようにする
 ・災害の危険を理解して自らの安全を確保する行動や日常の備えができるようにする
 ・学校や家庭、地域の安全活動に進んで参加し、貢献できるようにする

▽養うべき4つの能力

 (1)それぞれの地域における災害の特性を知り、減災に必要な準備をする能力
 (2)自然災害から身を守り、被災後の生活を乗り切る能力
 (3)他の人々や地域の安全を支えることができる能力
 (4)災害からの復興を成し遂げ、安全・安心な社会を構築する能力

 防災教育は児童・生徒一人ひとりの防災意識向上で地域内の防災力を高めることも目的です。教育に当たっては学校と家庭、そして地域が連携することを忘れてはなりません。

出典:内閣府防災情報『特集 防災教育

防災教育の現状

 防災教育は学校教育の現場に限ったものではありません。家庭や地域、職場といったさまざまな場で防災教育に関する取り組みが行われています。

 ここからは、学校で行われる防災教育の例や、学校以外での防災教育の現状について紹介します。

学校ではさまざまな教科を活用し、防災を意識づけ

 学校現場の防災教育は他の教科と同様に学習指導要領の枠内で進められますが、防災教育という特定の教科が存在するわけではありません。教科ごとに、災害に関係する内容について学ぶ機会が設けられています。

▽学校で行われる防災教育の例

 ・理科…地震や水害の発生メカニズムに関する知識
 ・社会科…消防署・自治体の活動や災害情報について
 ・体育や特別活動…災害時のけがの予防、応急処置に関する知識

 授業での防犯教育に加えて、定期的に行われる避難訓練では、避難経路の確認や避難行動のシミュレーションを行いながら実践力を身につけます。

 防災教育によって児童・生徒の防災意識を高めるためには、実践的な訓練や学習のための時間確保や授業内容の充実が求められます。また、避難所での生活や復興活動を想定し、地域住民と協同する機会を積極的に設けることも重要です。

出典:内閣府防災情報『特集 防災教育』/文部科学省『現在の防災教育における課題

学校以外での防災教育

 防災教育は、家庭や地域、職場などでの取り組みも非常に重要です。内閣府は、各家庭へ緊急地震速報への対応、避難所や災害時の連絡方法、非常用食料の備蓄などを行うよう呼びかけています。また、自治体や企業などが主導して防災や災害対策への取り組みが広く行われています。

▽地方自治体による取り組み例

 ・避難訓練の実施や防災用品の配布
 ・災害対策への勉強会・講演会の実施 など

▽企業による取り組み例

 ・避難訓練の実施や帰宅支援マップや防災用品の配布
 ・災害時の連絡・参集方法の確認 など

出典:内閣府防災情報『特集 防災教育

防災教育の方向性

 内閣府では、これまで発生した災害を踏まえた防災教育に関する多くの議論がされています。

 内閣府『これまでの議論を踏まえた今後目指す防災教育の内容と教育方法』の資料によると、小・中学校の義務教育機関において、より具体的で必要な知識を教え、避難訓練が実践的に行われるよう、学校や教員を支援していく方針であることが分かります。

 また、地域と学校が連携して防災教育を実施できるよう、防災教育を支援する人材の育成や研修の実施を図ることが重要です。

出典:内閣府防災情報『これまでの議論を踏まえた今後目指す防災教育の内容と教育方法(案)

学校での防災教育の目的達成に必要なこと

 東日本大震災以降、教育現場では復興に向けて心身ともにたくましい人材の育成が求められるとともに、避難所としての機能や、防災教育拠点としての役割が改めて注目されるようになりました。その背景には、平成7年の阪神・淡路大震災やそれ以降の地震被害から得た教訓をもとに進められてきた防災教育・防災管理、学校施設の整備があります。

 しかし、平成23年の東日本大震災では、津波による被害という新たな課題が発生したことから、学校防災のあり方を見直す必要性が明らかになりました。

出典:文部科学省『学校防災のための参考資料「生きる力」を育む防災教育の展開

発達段階別の目標達成へ綿密な計画づくりを

 子どもたちに必要な知識や能力を身につけさせるためには、発達段階に応じた系統的な指導計画が必要です。文部科学省は防災教育で幼稚園から小学校、中学校、高等学校と発達段階に応じた目標を定めています。

▽発達段階に応じた指導目標

 ・幼稚園:安全に生活し、緊急時に教職員や保護者の指示に従って行動できる
 ・小学校:日常生活のさまざまな場面で発生する災害の危険を理解し、他人に気配りしながら安全な行動ができる
 ・中学校:日常の備えや的確な判断に基づいて行動し、地域の防災活動や災害時の助け合いに参加できる
 ・高等学校:安全で安心な社会づくりに参画し、地域の防災活動や災害時の支援活動に自らの判断で参加できるようになる
 ・障害のある児童・生徒:危険を回避し、助けを求められるようになる

出典:文部科学省『学校防災のための参考資料「生きる力」を育む防災教育の展開

事前に欠かせない年間の指導計画

 各教科や総合的な学習の時間、特別活動など学校全体で防災教育の体系化を図るため、防災教育の年間指導計画を立てることは重要です。

 児童、生徒の発達段階に応じた工夫を施すとともに、指導内容や時期、避難訓練の実施、地域との連携についてまとめ上げ、全ての教職員が認識を同じにして指導に当たる必要があります。

出典:文部科学省『学校防災のための参考資料「生きる力」を育む防災教育の展開

教育内容を評価して翌年度の計画に改善策を

 翌年度の学校安全計画を策定する際には、今年度の計画を安全学習と安全指導の観点に分け、各学校で評価項目を設定し評価する必要があります。

 「1年間の防災教育が指導計画通りに実施できたか」「指導計画に不足している項目はなかったか」など前年の計画を正しく評価し、欠点を明確にします。翌年度の計画には具体的な改善策を盛り込み、毎年更新していくことが大切です。

出典:文部科学省『学校防災のための参考資料「生きる力」を育む防災教育の展開

外部の教材を上手に活用して効果アップに

 国土交通省では『防災学習ポータルサイト』というコンテンツを提供しており、子ども用と教員向けのページも設置されています。他にも、国の省庁や日本赤十字社、地方自治体などから、児童・生徒への教材と教員が参考にできる指導資料なども提供されています。

 教材の内容は、竜巻や火山の噴火など災害別に対策をまとめたもののほか、絵本やアニメで小さな子どもでも理解できるように編集したものなどさまざまです。これらの教材をうまく使いこなすことで、指導効果を高めることが期待できます。

出典:国土交通省『防災学習ポータルサイト』/気象庁『防災教育に使える副教材・副読本ポータル

地域社会や家庭との連携が不可欠

 防災教育の効果を高めるためには、地域社会や家庭との連携が欠かせません。学校で指導した内容を情報発信することで、地域社会や家庭での防災力の向上を目指します。

 地域の避難訓練や消防署、公民館の防災講座への参加、家族会議での話し合いなど、学校以外での防災活動に積極的に取り組むことで、一人ひとりの防災意識を高めることが重要です。

自然災害の現実

 日本は、地震が頻発する災害大国です。近年起きた大きな地震には、以下が挙げられます。

▽近年の主な被害地震

 ・平成23年3月:東日本大震災
 ・平成28年4月:熊本地震
 ・平成30年9月:北海道胆振東部地震
 ・令和6年1月:能登半島地震

 文部科学省は、東日本大震災や熊本地震の経験を踏まえ、防災教育の充実を図っています。以下では、直近で発生した能登半島地震での教育関係での対応や、それを踏まえて見えた課題について紹介します。

出典:気象庁『日本付近で発生した主な被害地震(平成8年以降)

教育関係での被害状況

 能登半島地震では、石川県の志賀町や輪島市で震度7を記録し、能登半島の広い範囲で震度6強から6弱の大きな揺れを観測しました。地震以前には、防災に関する教育や設備面の対策が行われていました。

▽地震以前の対策

 ・公立小・中学校施設では構造体の耐震化と教室の空調設備の整備
 ・文部科学省による教師用の防災教育指導資料の作成
 ・実践事例の紹介などを通じて防災教育を推進

 地震の発生により、石川県、新潟県、富山県、福井県などの約1,000校の学校施設に物的被害が出ています。敷地内の亀裂隆起や校舎壁のひび割れ、ガラス破損などが確認されましたが、学校耐震化の措置により校舎の倒壊被害は生じませんでした。

 また、避難所として教室の空調設備の整備を活用するといった地域住民への貢献も見られました。

 一方で、避難者の居場所の確保や避難先への教職員派遣に要する時間や子どもたちの学習時間の確保、メンタルケアの必要性が問われています。

出典:参議院事務局企画調整室『令和6年能登半島地震における教育関係の対応

防災教育の取り組みの成果

 今までの防災教育の取り組みに効果があった事例を紹介します。

▽能登町立小木中学校の取り組み

・生徒主体の防災訓練
 近隣地域に住む高齢者にヒアリングを実施し、座学で学んだ避難行動と災害弱者とされる高齢者の意識とのギャップに自ら気づき、具体的な行動におこす機会を作る

・地域を巻き込んだ防災活動
 地域住民や地域の小学校とも合同で訓練実施することにより、地域で防災意識を高める

▽取り組みの効果

・緊急対応の迅速化
 避難所設営時に段ボールの仕切りの設置、物資の運搬や整理などに生徒が関わり、人員が少ない被災後の緊急対応を迅速に行うことができた

・地域全体の防災意識の向上
 さまざまな事態を想定し地域と連携した訓練を行っていたことにより、地域全体の防災意識が高まっていた

 生徒だけではなく地域住民の防災意識が高まっていたのは、地域と連携した防災教育による取り組みの成果だと考えられます。

出典:内閣官房『生徒主体の 防災教育と地域交流を結びつける 取組の実施

被災から学ぶ今後の課題

 これまでに起きた地震の被害を踏まえて、以下のようなさまざまな観点での課題が挙げられています。

 ・避難所となる学校体育館の防災機能を持たせること
 ・支援被災地、避難先へ教職員の派遣体制を整備すること
 ・子どもたちの学習や体験学習を提供すること

 実際に災害が発生した際、どのような被害が出るのか、被災したときにどのような行動をすべきかなど、学校の授業だけでは学びきれない点も多くあります。一方で、「行政や地域と連携した防災教育を行うことが難しい」という学校職員の声があるのも事実です。

 今後は、より防災意識を強化し、被災時に迅速な対応をするためにはさまざまな視点から解決策を考えることが肝要です。

出典:文部科学省『令和6年能登半島地震における学校施設整備と教育再開の取組と課題

子どもたちを含むすべての人の「命を守る力」に影響する防災教育

 防災教育は、災害が身近な存在である日本において、「命を守る力」を身につけるための重要な基盤です。特に子どもたちは、防災教育を通して、自然災害への理解や適切な行動選択、自らの安全を確保する能力を育みます。

 学校や家庭、地域社会が連携して避難訓練や協力活動を実施することで、世代を超えて地域全体の防災力を向上させると同時に、防災教育の効果を高めるための取り組みを続けていくことが大切です。

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