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災害大国の日本、防災教育で子どもたちに何を教えるべきなのか

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特集 教員の知恵袋

 日本は地震や台風が多い自然災害大国です。2011年の東日本大震災で児童や生徒、教職員ら学校関係者の死者、行方不明者が700人を超すなど、被害も少なくありません。文部科学省は東日本大震災を教訓に防災教育の見直しを進めていますが、子どもたちに何を教えるべきなのでしょうか。

防災教育で育む4つの能力とは

 防災教育とは、さまざまな危険から児童や生徒らの安全を確保するための教育です。文部科学省は防災教育の目的を以下のように挙げています。

 ・自然災害について理解を深め、適切な意思決定や行動選択をできるようにする
 ・災害の危険を理解して自らの安全を確保する行動や日常の備えができるようにする
 ・学校や家庭、地域の安全活動に進んで参加し、貢献できるようにする

 と規定し、そのために養うべき4つの能力を示しています。

(1)それぞれの地域の災害の特性を知り、減災に必要な準備をする能力
(2)自然災害から身を守り、被災後の生活を乗り切る能力
(3)他の人々や地域の安全を支えることができる能力
(4)災害からの復興を成し遂げ、安全・安心な社会を構築する能力

 防災教育は児童や生徒1人ひとりの防災意識向上で地域内の防災力を高めることも目的です。教育に当たっては学校と家庭、そして地域が連携することを忘れてはなりません。

さまざまな教科を活用し、防災を意識づけ

 学校現場の防災教育は他の教科と同様に学習指導要領の枠内で進められますが、防災教育という特定の教科が存在するわけではありません。

 例えば、地震や水害の発生メカニズムは理科、消防署の活動は社会の時間に学びます。

 「どういうときに、けがをしやすいか」、「けがをしないために、どうすれば良いのか」など、災害時のけがに対する知識は体育や特別活動で教えることになるでしょう。

 また、実践力は避難訓練で身に付けていきます。児童や生徒が防災意識を高めるためには、十分な学習時間の確保と充実した授業内容が必要になってくるはずです。ただ、防災教育は学校だけで完結できるものではありません。児童、生徒と教職員が地域住民と協同して活動する機会を積極的に設けることが今後の課題といえそうです。

発達段階に応じた系統的指導が必要

 学校で防災教育を進め、児童や生徒に必要な知識や能力を身に付けさせるためには、発達段階に応じた系統的な指導が必要です。何年も同じ学習内容や指導方針を続けているのなら、随時見直しを進めなければなりません。

発達段階別の目標達成へ綿密な計画づくりを

 文部科学省は防災教育で幼稚園から小学校、中学校、高等学校と発達段階に応じた目標を定めています。

 幼稚園では安全に生活し、緊急時に教職員や保護者の指示に従って行動できることを目指します。小学校は日常生活のさまざまな場面で発生する災害の危険を理解し、他人に気配りしながら安全な行動ができること。中学校は日常の備えや的確な判断に基づいて行動し、地域の防災活動や災害時の助け合いに参加できることが目標です。

 高等学校はさらに一歩進んで安全で安心な社会づくりに参画し、地域の防災活動や災害時の支援活動に自らの判断で参加できるようになることを目指します。

 障害のある児童、生徒には危険を回避し、助けを求められるよう指導する必要があります。授業はこれらの目標を達成するためにあらゆる観点から計画を練ることが求められているのです。

事前に欠かせない年間の指導計画

 防災教育を進めるうえでは、年間指導計画を立てることが重要になってきます。各教科や総合的な学習の時間、特別活動など学校全体で防災教育の体系化を図るためです。

 児童、生徒の発達段階に応じた工夫を施すとともに、指導内容や時期、避難訓練の実施、地域との連携についてまとめ上げ、全ての教職員が認識を同じにして指導に当たる必要があります。指導力の強化に向け、教職員の研修を行うことも大切です。

外部の教材、上手に活用して効果アップに

 どのようなことを児童、生徒に教えたら良いのかを具体的にまとめた教材が、国の省庁や日本赤十字社、地方自治体などから発行されています。

 竜巻や火山の噴火など災害別に対策をまとめたもののほか、絵本やアニメで小さな子どもでも理解できるように編集したものまで内容はさまざまです。教職員が参考にできるようワークシートや指導案を盛り込んだものも出ています。これらの教材をうまく使いこなすことで指導効果を高めることが期待できるでしょう。

地域社会や家庭との連携も不可欠

 防災教育の効果を高めるためには、地域社会や家庭との連携が欠かせません。学校で指導した内容を情報発信し、地域社会や家庭の防災力を高めることが大切です。

 地域の避難訓練や消防署、公民館の防災講座への参加、家族会議での話し合いなど、学校以外での防災活動に積極的に取り組む必要があるでしょう。

教育内容を評価し、翌年度の計画に改善策を

 翌年度の学校安全計画を策定する際には、1年間の防災教育が指導計画通りに実施できたかなど、しっかりと評価しておくことが欠かせません。

 評価項目は安全学習と安全指導に分けたうえで、各学校で設定します。評価後は具体的な改善策を翌年度の計画に盛り込みます。

子どもたちの生きる力育成にも影響

 防災教育は災害に関する知識を教えるだけでなく、非常時に自分の命を守れるようにするためのものです。
能動的に活動するという点から子どもたちの生きる力を育むことにも深く関わっており、家庭や地域との連携を密にして最大の効果を上げるよう工夫していかなければなりません。

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