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伝え合う力を伸ばすこれからの漢字学習

18面記事

企画特集

サブノートに「言葉あつめ」を書く

考えて使える漢字学習への転換
 繰り返し書いて覚える指導から、考えて使える学び方へ―明星大学教授(元筑波大学附属小学校教諭)の白石範孝氏らが企画・監修した漢字学習帳「漢字のとびら」は発刊から3年目を迎え多くの学校で活用されている。問いかけから気づきを促す構成は、これまでにない画期的なもの。正しく漢字を覚えるだけでなく、伝え合う力を高める教材としても注目される

漢字の世界を広げる学び方 低学年からスタート
大阪・高槻市立大冠小学校

コンセプトに共感し高学年から導入
 高槻市立大冠小学校(福澤隆治校長)は学校目標である「個々の良さを生かすとともに、主体的に考える、進んで行動する、心豊かで心身ともに健やかな児童の育成を図る」ため、英語や外国語活動と国語を連動させた取り組みを行っている。
 校内各部のうち、授業部は主に国語を中心に重点活動を計画。「子どもたちの語彙力を伸ばすことや、自分の考えや意見を相手に正しく伝える力の育成を目指している」と福澤校長。漢字学習においても、伝え合う力の育成に貢献しつつ、正しい漢字を覚え、使えるようになる取り組みを目指している。
 関美和子教諭は、6年担任となった3年前の教材選定会議で、発刊されたばかりの「漢字のとびら」を知った。筆順を正しく学ばせてほしいという保護者の声が多く、それに応える教材を探していたところで、従来の漢字ドリルとは異なる「考える」というコンセプトに魅かれたという。「自分で書き方のポイントや筆順を確かめられ、考えて漢字が学べる点に魅力を感じた」。実際に使ってみると、この1冊だけで考えながら取り組め、正しい漢字を身に付けられるメリットを先生も子どもも感じているという。

低学年こそ「考える」楽しさを
 今年度、1年担任となった関教諭は低学年でも「考える」漢字学習は有効と考え、「漢字のとびら」を活用しており、漢字を学ぶ楽しさを体験してほしいと、授業ではさまざまなアイデアを加えている。
 部首を使った「漢字あつめ」は1年生でもできる。「一」を使った漢字をたずねると、「七」「二」「三」など子どもたちから声が上がる。全員で空書きをしたり、板書をして横棒の長さを確認したりする。
 低学年の場合、ひらがな、カタカナ、漢字の表記と、音のつながりの理解が十分でない場合もある。そんなときは教員が整理していく指導が必要だという。
 「九」にはカタカナの「ノ」や「ナ」「カ」がかくれんぼしているように見える、さかさまから見ると、数字の「2」やひらがなの「も」にも見えるなど、1年生ならではの自由なイメージを大切にしながら、漢字の世界へと導いていく。
 語彙を広げる「言葉あつめ」用のノートを用意して、言葉や文章を書き溜める方法は、今年度から試している。「九」を使った言葉をたずねると、「九にん」「九さい」「九十九さい」と連想が始まるので、板書し子どものノートにも書かせる。
 「きゅうり」「きゅうきゅうばこ」など、別の言葉が出てきたときは黒板の「おしい」の欄に分けて板書する。これにより「きゅうりの“きゅう”は、音は同じだけれど“九”は書かないんだな」と子どもたちが意識できる。

単純ミスが減り楽しく学べる
 今年度、同校では「漢字のとびら」を1、2、4、6学年で使用中だ。低学年でも漢字のうっかりミスが減ったという。漢字のとびらは「なんかく目?」「どちらを さきに かく?」などの問いかけが多く、間違えやすいところを意識できる。「簡単な漢字でも、棒が突き抜けてしまうなどの誤りが減った」と、基礎・基本の定着に効果を感じている。
 「低学年の子どもは、一人ひとり漢字の覚え方が違う。書き順から入るときもあるが、似ている漢字を探してから書き順を確認するなど授業展開を複数パターン持つようにしている」と関教諭。発達段階に合わせた教え方のバリエーションを広げることにもつながったようだ。こなすだけの漢字ドリルから自分で考える漢字学習へ。1年生の段階から発想の転換を図ることで、今後の漢字学習もスムーズに運ぶことが期待できそうだ。


元気よく全員で空書きする

対話力、表現力を高めるこれからの漢字学習
北海道・札幌市立西園小学校

新カリ見据え効率的な学習を模索
 札幌市西区にある札幌市立西園小学校(山吹明範校長)は、縦割りグループによる異学年交流「ほほえみ活動」や、あいさつ運動など6年間の積み上げを意識した、豊かな教育活動が特色だ。
 近年は、主体的に学ぶ力の育成のため「対話力の育成」に力を入れる。児童の様子として「素直で明るいが、互いにかかわって発信する力に差が見られ、“聞く力”の二極化が課題となっている」と、鳥丸俊郎教頭は話す。今後、主体的・対話的で深い学びを推進するためにも、子ども同士、また子どもと教師が交流や対話を通して学び合う力を付けたい考えだ。特に国語はその基盤を形成する教科ととらえ、授業改善を進めてきた。
 「漢字のとびら」は2018年度より2~6学年で採用している。導入した理由はおもに2つ。ひとつはどの子どもも使いやすい教材であること、2つめは国語の時間の使い方を効率化できることだ。「同じ時間を使っていても、漢字を書き順通りに覚えるだけでなく、部首や読み方、熟語などさまざまな要素に目を向けさせることができると感じた」(鳥丸教頭)

自由に発想広げ、参加する授業
 繰り返し練習するだけの漢字学習から、「漢字のとびら」を使った対話的な漢字学習に変わることで担任の授業力が問われるという。子どもたちの問いにその場で答え、視野を広める投げかけが求められるからだ。
 玉木景滋教諭の3年生の教室では、複数の題材の合間に「漢字のとびら」を用いて漢字指導をする時間を1コマまるまる設けている。
 新出漢字は前方のディスプレイに映し出し、書き順を全員で確認する。音・訓、部首は、子どもたちの発想や質問を取り上げながら解説する。「待」の漢字にさしかかり、玉木教諭が「この漢字は何へんですか?」と問いかけると、一斉に「ぎょうにんべん」と、声があがる。
 熟語をたずねると「待ち合わせ」「期待」など、次々に手が挙がる。「期待の期は、どう書くの?」「何学期の、期です」と、語彙も豊富だ。「先生に期待している」など文を作る子もいる。「待望」「待機」など子どもたちが音だけで知っている熟語も出てくるため、玉木教諭が「その字はまだ習っていないけれど、そう使うね」と板書しないながらも認めていく。こうしたやりとりが、子どもたちの印象に残り、言葉の世界を広げている。


子どもの問いに答えながら授業を進める

ミニ漢字テストで見られた定着
 「漢字のとびら」を使うときは「子どもたちの知っている言葉を取り上げながら、1時間集中して漢字学習にあてている」という玉木教諭。「れんしゅうしよう」や「力だめし」などのページは、書き練習の終わった子どもから自由に取り組ませたり、夏休みの宿題としたりしている。
 毎週水曜には漢字のミニテストを実施。30人中25人ほどは毎回、8問中6問以上正答の「合格」に達しているといい、漢字を楽しみながら進んで学ぶ子どもが着実に育っている。
 漢字に興味を持たせるために、「漢字のとびら」を応用しゲーム的な要素も加えている。ある部首を使った漢字をいくつ思い出せるかを競う言葉集めゲーム、辞書を引いて意味から熟語を連想させる言葉当てゲームなどだ。また、玉木教諭は、子どもの出した熟語が既習か未習かとっさに判断できないときは、目の前で辞書を引いて見せている。先生がすべての答えを知っているのではなく辞書を調べれば詳しくわかる、と子どもたちが理解すれば、漢字や言葉への関心を高めるだけでなく、家庭学習の方法のヒントとしても良い影響がありそうだ。


(左から)鳥丸俊郎教頭、玉木景滋教諭

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