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学校施設の長寿命化対策に4千億円 計画的・効率的な改修で建物のライフサイクルを伸ばす

9面記事

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近年は台風による停電や水害も頻発している

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 学校施設の老朽化が深刻化する中で、各自治体にはこれまでの建て替えから、計画的・効率的な保全・改修を図ることで、建物のライフサイクルを伸ばすことが求められている。ここでは、そんな学校施設が直面する「長寿命化」を焦点に、防災対策や時代にふさわしい高機能化を含めた設備機器について特集する。

「老朽化」対策が次のテーマに
 学校施設の耐震化がおおむね完了した中で、次なる課題として浮上しているのが、校舎などの建物の「老朽化」問題といえる。なぜなら、第2次ベビーブーム時の15年間に建てられた校舎が公立学校施設面積の半数以上を占めているからで、一般的に改修が必要となる経年25年以上の建物が全体の7割を占めるなど深刻な状態を迎えているからだ。
 そのため、老朽化したからといって、これまでのように一律に校舎を建て替えることは財政的に困難であることから、文部科学省では「学校施設の長寿命化計画策定に係る手引」を作成し、各自治体に対して計画的・効率的な保全・改修を図ることで建物のライフサイクルを伸ばすことを求めている。
 学校施設の長寿命化対策を進めるにあたっては、中長期的な維持管理等に係るトータルコストの縮減および予算の平準化を図りつつ、安全・安心な施設環境に改修するとともに、現在の学校施設に求められる機能・性能を確保することが必要になる。また、計画期間については、少なくとも10年以上を見据えた中長期的な計画とし、進捗状況のフォローアップ結果等を踏まえて、5年程度を目安に計画を更新することが望ましいとしている。

長寿命化に向けた改修ポイント
 学校施設の老朽化の問題点には、次のようなものがある。

 (1) 構造躯体の健全性に問題のある建物がある。
 (2) 適切な維持管理が行われておらず、劣化の進んだ部材や設備・配管等がある。
 (3) 耐震対策等、安全面で適切な対策がなされていない建物がある。
 (4) 現代の多様な学習内容・学習形態に対応していない建物がある。
 (5) 省エネルギー化や木材利用等が進んでいない。

 その上で、学校施設の長寿命化に向けた具体的な改修ポイントとしては、安全面では、内装、外装、非構造部材の耐震対策、防災機能、防犯対策、事故防止の対策。機能面では、少人数教育への対応、ICT設備の仕様、バリアフリー、空調換気設備、給排水衛生設備、トイレの仕様。環境面では、太陽光パネル、木材利用などがピックアップできる。
 これらの改善点を踏まえ、各自治体には学校施設の運営状況・活用状況等の実態を調査した上で、将来の更新コストを算定し、地域でのあるべき学校の姿を示すことが大切になる。

防災機能の強化も課題
 一方、学校は子どもたちの安全を確保するだけでなく、災害時には地域の避難所として機能することが求められている。そんな防災の観点から見ても、文部科学省が実施した調査によれば、安全性に課題がある学校施設が全国の半数近くを占めているといった現状がある。
 近年では、地震はもちろんのこと、台風などによる水害も相次ぎ、避難所における防災機能の重要性が増している。しかし、地域住民を受け入れる体育館の大半には空調設備が設置されていないなど、およそ避難所として機能できるような設備を有していない。また、非常用電源・発電機やWi―Fi環境、衛星電話などの代替通信機能、多目的トイレ、バリアフリー化などの整備も遅れているのが実態だ。
 現在は、こうした災害時の備えに適したさまざまな設備機器が登場しているほか、地震や災害に強い新素材による屋根・壁材も開発されている。建物の改修や機能向上を検討する上では、このような防災に関する最新情報・導入事例にも注視し、効率的・効果的な対策に役立ててほしい。

前年度を大幅に上回る予算で
 こうした学校施設の老朽化対策は、政府の「防災・減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策」においても重点化プログラムに位置づけられている。その中で、文部科学省は2020年度の概算要求において、学校施設の計画的・効率的な長寿命化を図る整備を中心とした改善等に、前年度を大幅に上回る3917億円を計上した。その内訳は、公立学校に2323億円(1655億円増)、国立大学等913億円(566億円増)、私立学校506億円(397億円増)、 認定こども園175億円(152億円増)。
 また、昨年末に閣議決定した2019年度の補正予算でも、1170億円を追加。学校施設の防災機能強化等の整備を図るとともに、国私立大学の設備等の整備、国立高等専門学校の機能の高度化を進める。内訳は、公立学校606億円、国立大学等270億円、私立学校50億円、国立高専200億円となっている。
 さらに、政府も災害からの復旧・復興と安全・安心の確保に2兆3086億円を計上している中から、964億円を学校施設の耐震化・防災機能強化に充てるほか、学校などの避難所が停電した際に自家発電できる設備の導入予算も加えている。

早期に長寿命化計画の策定を
 このように政府・文部科学省が学校施設の改善に本腰を入れる中で、各自治体には財源を有効に活用する施策が求められる。しかし、「公立学校施設の長寿命化計画(個別施設計画)」の策定完了目標である2020年が迫ったいまでも、未策定の設置者が多いことが分かっている。
 各自治体によって財政面などの格差があることは事実だが、そこに住む人にとって学校施設は生涯にわたる地域の重要なインフラになる。文教予算としては、かつてない大規模な投資が行われており、これを無駄にしないためにも、なるべく早期に長寿命化計画を策定してもらい、学校を地域で誇れる施設として再生してほしい。

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