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長寿命化へシフトする学校施設 高度化&防災機能の強化を実現するために

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施設特集

 これからの学校施設は、計画的な保全・改修によって「長寿命化」を図りつつ、児童・生徒の成長を支える場にふさわしい環境づくりを目指していく必要がある。ここでは、「長寿命化」に向けた課題やメリットについてまとめた。

計画的・効率的な保全・改修を
 学校施設の「耐震化」が概ね完了した一方で、深刻化しているのが「老朽化」だ。一般的に改修が必要となる経年25年以上の建物が全体の7割に達していることから、政府は2020年度までに管轄する各自治体に個別施設ごとの長寿命化計画(個別施設計画)を策定し、計画的・効率的な保全・改修を図っていくことを求めている。
 また、長寿命化改修にあたっては、よりよい教育環境の確保やトータルコストの縮減・予算の平準化、今後の方針の共有による学校関係者・地域住民の理解の促進といったことを踏まえつつ、時代にふさわしい教育の場としての高機能化や快適性を高めていかなければならない。

学校施設の改善に4000億円を確保
 こうしたことから、文部科学省は2020年度(令和2年度)予算で、学校施設の改善に前年度を大幅に上回る約4000億円を確保。また、政府も学校施設の耐震化・防災機能強化に1000億円を追加計上し、各自治体が長寿命化のための計画・改修を速やかに実施できるよう対策を打ち出している。
 しかし、財務省が公立小中学校約3000校を調べたところ、昨年4月時点で78%が未策定であることが分かっている。このような自治体の長寿命化計画策定が進まない背景には、何か不具合が起きてから改修に着手する「事後的修繕」体質が根強く残っているためだ。その要因は校舎が古くなったらスクラップ&ビルドを繰り返してきたことにあるが、今後15年間に第2次ベビーブームに合わせて建築された校舎の更新時期が一斉に到来する状況を考えれば、必要な対策を適切な時期に効率的に行う「予防的修繕」に体質を変えていかなければならない。

長寿命化改修のメリットとは
 では、長寿命化改修に転換すると、どんなメリットがあるのか。まず、これまでの改築では約80年のサイクルの中で2回の改築コストが必要になるが、それが長寿命化により1回になることでトータルのコストが削減できることが挙げられる。また、その過程での工期の短縮が可能、廃棄物量が少ないことでの環境負荷低減、建て替えた場合と同等の教育環境の確保が可能といったメリットがある。
 特に、学校施設を児童・生徒や教職員の生活スペースとして捉えるならば、ライフラインの更新が短いスパンで実施できる意味は大きいといえる。しかも、財政を工面する自治体にとっては、「大規模改造事業」よりも実質的な地方負担割合が51・7%から26・7%と有利になる。

安全面の不具合が年間3万件
 次に、長寿命化を踏まえた学校施設の改善点としては、すでに外壁・窓枠の落下、構造体の強度低下など、安全面での不具合を生じている学校が年間約3万件に上っていることが挙げられる。また、大半の学校のトイレが洋式化されていないことは、子どもたちにとっての快適な環境や衛生面を考えても早期に着手する必要がある。これには、給排水設備の老朽化という問題も付随している。
 避難所となる体育館に目を移すと、吊り天井や照明等の非構造部材の天井落下防止対策が残っているほか、高齢者や身体に障害を抱える人に対応した多目的トイレの設置やバリアフリー化も求められる。
 しかも、ほとんどの体育館ではエアコンが設置されていないため、日常の体育授業や部活動中の熱中症リスクも解消されていない。したがって、大型扇風機や冷風機、スポットクーラーなどを導入する学校も増えている。加えて、非常時における電源や公衆Wi―Fiによる通信手段の確保など、防災機能の強化に向けたインフラ整備が欠かせなくなっている。

長寿命化計画の進め方と課題
 では、実際にはどのような方法で長寿命化計画を策定しているのか。秋田県秋田市は2016年、10年後には小中学校施設の80%が老朽化することを踏まえ、今後40年間の長期方針と5年間の具体的な整備計画をたてることを目的に策定。学校の適正配置を計画した上で、205棟全ての劣化状況を数値化して把握し、長寿命化改修に必要なコストと保全の優先順位を設定した。
 また、施設関連経費は40年で建替える従来の修繕・改修を今後も続けた場合は年間で51億円が必要になるため、これを直近5年間の平均費17億円(年)に設定。長寿命化改修によって40%削減する方針を掲げている。
 東京都立川市は、これまで築50年で建替えていたのを、大規模改修を中心にすることで築70年に変更。すべての施設の劣化状況を技術的視点で調査・評価し、保全優先順位づけを行って20年スパンで修繕することで、今後40年間で経費を22・8%圧縮することを謳っている。
 自治体の財政が厳しい中で、一斉に老朽化する学校施設を維持していくためには長寿命化に着手することは避けられない。一方で、これまで策定を終えた自治体でも長期にわたるコスト削減には課題も見えているのが事実だ。いくら理想のラフスケッチが描けても、絵付けが失敗したら名作は生まれない。長寿命化を達成するには、時に応じて精査し、改善を重ねていく知恵と努力が必要になる。

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