日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

新型コロナで学校休校 欧州諸国の状況は

3面記事

pick-up

現地在住の島崎由美子さんら寄稿

 感染者数、死亡者数ともに日本より深刻なヨーロッパ諸国でも、新型コロナウイルス問題による学校休業を終えて、教育活動を再開させる国が増えつつある。オランダ在住のフリーライター、島崎由美子さんと、仙台市在住の医師、八巻孝之さんに、共著としてヨーロッパ5カ国の事情を寄稿してもらった。

 2020年5月1日時点、国連によると188カ国が休校措置を取り、15億人以上の子どもたちが学校に通えなくなったそうです。多くの国でオンライン授業が広がる一方、通常授業との開きは大きくなるばかりか経済状況などによる教育格差も生まれており、各国で子どもたちの学びや生活に影響を及ぼしました。
 新型コロナウイルス対策による行動制限の緩和が進む国々で学校が再開し始めています。学校での感染拡大を防ごうと、分散登校や校内で子ども同士が距離を保つといったさまざまな対応策も打ち出されています。
 ただし、課題は山積みで学校現場はその対応に苦慮しているようです。世界5カ国について、親交のある友人らとSNSで連絡し、休校・再開状況、学習状況、子どもたちからのメッセージを紹介します。

オランダ 児童・生徒 半数ずつ登校

 私(島崎)が住むオランダでは、3月15日に休校措置が発表され16日から休校となる中、多くの学校でオンライン授業が始まりました。デジタル機器の問題で自宅学習が十分にできない生徒のためのサポートも開始されています。しかし、オンライン授業が行われているとはいえ参加しない生徒もいて、参加しても通学時同等の授業進行は難しいという問題を抱えています。
 学習の遅れを取り戻すため、夏休みをなくすとか、学校の在校時間を午後5時(通常は3時)まで伸ばすなどの検討がされているというニュースが報道されました。
 欧州諸国では、厳しい外出規制を伴う都市封鎖を導入した国もありますが、オランダでは、「インテリジェントロックダウン」と呼び、比較的、寛容な手法を取りました。
 私は、休校措置の延長は当然だろうと思ったのですが、小学校と保育所、特別学校は特定ルールの下、5月11日に再開されています。オランダでは通常、4月27日から5月8日まで学校が2週間休みになるので、この休み明けに学校再開をするという判断のようです。
 中等教育機関(学校)の2年生、アイノア(14歳)は、「私の学校は6月1日までクローズよ。今は、宿題しろとか運動しろとかウザイってば。二度と戻らない青春だから、とてもストレスフルよ」としかめ顔の様子でした。宿題が済んだかどうかの確認しかしようとしない再婚パパとの会話から、私には子どものストレスがひしひしと伝わってきました。
 学校再開に当たり、日本は「分散登校」という対策を取るそうですが、オランダも政府から、児童・生徒数を半分にするようにという指針が出されています。人数の分け方と登校方法は各学校により違う形となるそうですが、半分にすると1クラスの人数が10~15人程度の登校ということになります。また、クラスを2グループに分けたり、月曜日・木曜日登校、火曜日・金曜日登校グループ(水曜日は先生たちの会議の日)があるようです。

ドイツ 元来休暇多く、混乱見られず

 ドイツでは、隣国のイタリア、フランスでの学校閉鎖に続き、3月13日に学校閉鎖が始まりました。
 休校の可否は州に一任されています。措置の早い州では、子どもの宿題&課題の送信先メールアドレスを連絡するよう、すぐに知らせが来たそうですが、私の友人は特に何の驚きもなかったと言っていました。
 もともとドイツの学校は休暇が多く(年に14週間)、その現実を親も考慮しているので突然の休校に慌てることはないのだろうと思っています。
 バイエルン州の学校は、3月16日から4月3日まで休校、その直後2週間のイースター休暇に入るため、トータル5週間の休校です。当然ながら子どもたちは大喜びのようです。
 中等教育機関(学校)の5年生、ローラ(15歳)は、「私は高校卒業試験のアビトゥア試験で忙しいからコロナどころじゃないの。家にいる時間が増えて勉強に集中できるから、なおうれしいかも」と冷静でした。
 試験はとてもハードで、数学4時間、ドイツ語5時間、面接1時間。スクールカウンセラーにいつでもアクセスできる環境が整っており、受験生にとっての休校は一石二鳥のようです。

スイス 州ごとに差、「ほぼ通常」も

 スイスの連邦内閣は4月29日、義務教育(16歳まで)の小・中学校(一部地域は幼稚園)の再開を発表し、高等学校・職業訓練校などは、少人数の授業なら可能だとして、最終決定権は州にあると明言しました。
 アッペンツェル・アウサーローデン準州、ニトヴァルデン準州などは、5月11日から「ほぼ通常」のカリキュラムに戻っていますが、ある州は全面再開、別の州はより慎重と、温度差があるように感じます。
 中等教育機関(学校)の最終学年で学ぶサンドラ(16歳)は、「コロナストレスは70%、ずっと自宅にいても親との関わりは60%、宿題はPCで済ませているよ。休校で大変だったのは両親の前でおとなしく振る舞うこと、由美子、分かるでしょ。ママは学校再開後の問題をとても心配しているわ」と大人顔でした。
 学校再開への対策は、手を洗う、部屋をまめに掃除する、空気の入れ替えを頻繁に行う、教師と生徒の間には2メートルの距離を空けることなどを定めていますが、非現実的なため、10歳未満の生徒にはソーシャル・ディスタンスを適用せず、マスク着用の義務もありません。

フランス 幼・小皮切りに段階的再開

 フランスはビジネスと学校を再開する動きが出ています。フランスのフィリップ首相は4月28日、新型コロナ感染がフラット化してきていることから、学校を5月11日から再開するプランを発表しました。
 「いつまでも、このまま制限措置を続けるわけにはいかない」「人々はウイルスと一緒に過ごすことを学ぶべきで、彼ら自身がそれから身を守る」「地方ごとの措置」「段階的な解除」といったことを掲げて、「今後の成り行きは、フランス国民一人一人の民度に期待する」と切実に訴えていました。
 外出するときはソーシャル・ディスタンスを、公共交通機関を利用するときはマスク着用を呼び掛けたそうです。
 学校は幼稚園と小学校を皮切りに段階的に再開するとしており、幼稚園は5月11日に再開されました。高校は5月末の再開を予定しています。
 リセ1年生のエラ(16歳)は、「私、仏バカロレア(バック)受験のため忙しいの。人文系に進む予定だけど、哲学の問題に困っている。だって、2019年度の問題が、時間から逃れることはあり得るか、芸術作品を解釈することは何になるのか、ヘーゲル(法の哲学)からの抜粋の解説で記述式。日本では哲学の授業をしないで、人はどうして生まれて死ぬのかをどう考えているの」と困り顔でした。
 バック合格は国家試験で高等学校教育の修了証、高等教育にアクセスするための必須アイテムです。エリート養成校グランド・ゼコールを目指す彼女。グランドに入学する前の準備学校進学はバック受験者の10%以下と狭き門。今の彼女にとって、コロナストレスはストレスの分に入らないのかもしれません。
 学校再開に向けて11~15歳の生徒はマスクを着けるよう義務付けされ、教室に入る人数は15人を超えないようにするそうです。
 ブランケール教育相は休校措置開始から約2週間後の3月末に「児童・生徒の5~8%が既に付いていけなくなっている」との見方を示していました。

スペイン 6月も続くのか不透明

 スペインは、ヨーロッパの中で特に感染者数が多い国です。ただし、こういう騒動に振り回されないという強いポジティブな国民性があり、高齢者は要注意だけれど、そうでないなら感染したところで普通のインフルと同じだろうという見方が一般的な印象です。
 3月下旬、教育相は休校が5月もしくは6月まで続く可能性を肯定しつつ、3学期が終わる前(5月から6月の間)の15日か20日ほど学校へ行けるようになればと話をしていました。
 スペインの親友は、今後どういう判断をするのかまだ分からないそうです。休校は、このまま夏休みに入ってしまう可能性もゼロではありません。3学期の授業をどう取り戻すのかなど、9月から始まる新学期についても不明な点ばかりです。
 初等教育機関(学校)の5年生、ラウラ(10歳)は、「私は授業に付いていくのが大変。今のオンラインでも、月に1回は先生が自宅に来てくれるけど、算数の2桁の計算が最も苦手。14歳で学校をやめた船乗りのパパも教えられないから、1対1で教えてくれる先生に助けてもらっているの。フランス語の授業は楽しいよ、得意だし。今は、観光に来るフランス人と街でおしゃべりするのが大好き」と幼な顔でした。彼女の趣味はバスルームの鏡を見ながら1時間かけるお化粧。学校の部活動がないため自宅でエクササイズをする活発な子です。
 ペドロ首相は、「6月末までにショップは開店できるだろう、ただし、国内の50の州の移動は制限されたまま」と言っていました。経済活動を再開させる方針が相次いで示されていますが、感染が再び広がることを防ぐことができるかが焦点となりそうです。
 今、スペインを訪れるとすれば、マスクは着用しない方が印象が良いそうです。マスクをしていないことが、私たちは元気ですよという意思表示なのだそうです。

最後に 家庭の「デジタル格差」課題

 オランダの友人教師は、授業動画の撮影や編集に追われるなど負担はあるけれど、やりがいは大きいと言っていました。
 一方、多くの国が試行錯誤でオンライン授業を進める中、経済的にネット環境を持てない家庭もあり、「デジタル格差」が懸念されています。また、休校で学校給食が中止となり、子どもの栄養面が心配される国もあります。家から出られない子どもたちを元気にしようと、YouTubeで体育の授業を紹介していました。
 中国や韓国では、行動制限の緩和が進む中で新たなクラスターが発生しています。私は、ワクチンが使えない現状での学校再開に戸惑いを感じながらも、世界の子どもたちの学びと生活が段階的に前進できることを切に願っています。

執筆者プロフィール

 しまざき・ゆみこ オランダ在住のフリーライター、元薬剤師。新型コロナウイルス感染症の流行拡大に伴い、日本に一時帰国している。帰国後、早速「ニッポンが抱える不登校問題へのメッセージ」と題した外視鏡的論考を執筆し、本紙電子版に掲載中。今後、オランダで環境学・環境科学・地球科学を学ぶため大学進学を検討中。将来は環境と生態をテーマに執筆予定。

 やまき・たかゆき 元肝胆膵外科医、今は総合診療外科医として活躍中。昨年末批判を浴びた厚労省「人生会議」関連のファシリテーター、東京2020のメディカルスタッフであるスポーツドクター、認知症サポートドクター等、多彩な資格と経験を有する。今回は、島崎の同郷の親友であり、インフェクションコントロールドクター(新型コロナ感染対策)として、執筆に協力。

英語版はこちら

pick-up

連載