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GIGAスクール構想の目的とは?予算や環境整備、指導者に求められるポイントを解説

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 世界各国で教育のICT化が叫ばれるなか、日本でも文部科学省が2019年12月に打ち出したGIGAスクール構想が話題になっています。構想の実現にはどのような環境整備が必要で、またどのくらいの予算が割かれるのでしょうか。指導者に求められる姿勢も踏まえて解説します。

GIGAスクール構想の概要

 GIGAスクール構想とは、2019年12月に文部科学省が発表した教育改革案のことです。GIGAはギガバイトのギガではなく、「Global and Innovation Gateway for All」の略で、「すべての児童・生徒にグローバルで革新的な扉を」という意味が込められています。

 この改革案の目的は、子どもたち一人ひとりに対して個別最適化された創造性を育む教育の実施や、情報通信や技術面を含めたICT環境の実現です。具体的には、児童生徒1人1台の学習用端末やクラウド活用を踏まえたネットワーク環境の整備を行い、個別に最適化された教育の実現を目指します。

GIGAスクール構想推進の背景

 GIGAスクール構想の背景にあるのは、日本のICT教育の遅れです。GIGAスクール構想が発案された当時、先進国を中心に世界各国で教育のICT化が進む一方で、日本ではICT機器を活用した教育が一般的とはいえませんでした。

 AIやIoTなどを積極的に使用する新たな時代を生きていく子どもたちに必要なのは、従来の知識を詰込むだけの教育ではなく、創造性や論理的思考力を養う教育です。ICTなどの先端技術を活用して、創造性や思考力を育む教育を行い、次世代の人材を持続的に育成するという点も、GIGAスクール構想の背景にはあります。

GIGAスクール構想による効果

 導入が進められているGIGAスクール構想が実現すると、従来の教育とは異なる効果が期待できます。

・生徒児童ごとに最適化された学びを提供

 GIGAスクール構想が実現すると、子どもごとに教材を配信できるようになるため、学習状況やレベルに応じた教育を行えます。また、端末を利用すれば、子どもの意見は手を挙げなくても端末から発信できる点もメリットです。生徒や教員を含めたコミュニケーションが活発になり、教員は生徒の学習状況や反応などを知りやすくなります。

・教員の働き方改革

 GIGAスクール構想によって恩恵を受けるのは、生徒児童だけではありません。テストの採点や授業の準備、事務作業など、教員は多忙な職業です。GIGAスクール構想を通じて、出席や成績などの情報を教員同士で共有したり、各種事務作業を自動化したりすれば、教員の業務負担の軽減につながります。

 雑務に追われる時間が減れば、授業の準備や指導方針の検討といった業務に集中できるようになるはずです。子どもはもちろん、教員側にもメリットが大きい取り組みだといえるでしょう。

スケジュールの前倒しと構想実現のための予算

 昨今猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の影響は、GIGAスクール構想に大きな影響を与えました。ICTを活用した学習システムの早急な整備が求められ、端末の整備も推し進められています。

 2019年12月に閣議決定された補正予算案内では、GIGAスクール構想実現に向けた予算2,318億円が計上され、児童生徒1人1台端末と高速大容量の通信ネットワークの整備を令和5年度までに目指すとされていました。しかし、2020年4月に開かれた臨時閣議では新型コロナウイルス感染症(COVID―19)拡大の影響を受けた臨時休校が長期化する状況を鑑みて、スケジュールの前倒しが必要と判断され、2,292億円が計上されています。この結果として、2021年3月時点で全国ほとんどの小中学校で端末の導入が完了しました。

 また、構想実現のために学習用端末の整備だけでなく、校内ネットワーク環境の整備に向けた補助金など、GIGAスクールにおける各種環境整備支援のためにも多くの予算が割かれています。

GIGAスクール構想実現に向けた環境整備のポイント

 GIGAスクール構想の実現に向けて、必要不可欠となるのが環境整備です。必要な端末の種類や通信環境、指導体制などさまざまな課題があげられます。

・端末の調達と仕様書の作成

 1つ目は端末の調達です。2021年3月までに、小中学生に関しては1人1台の学習用端末の整備がほぼ完了していますが、高校における端末の整備状況は各自治体・学校ごとに大きく異なります。GIGAスクール構想実現のためには、高校においても早急に端末の整備を進めるべきといえるでしょう。

 ICT教育で使用する学習用端末に関して、文部科学省は標準仕様書のモデルを提示しています。

 仕様書にはMicrosoft Windowsであれば、OSは10 Pro、CPUはIntel Celeronと同等かそれ以上といったように、学校での活用を想定した場合に必要となるOSのスペックが示されています。

 しかし、端末の調達は各学校の活用方法に合わせて柔軟に行われるべきとあり、実際に端末の選定・調達を行うのは各自治体です。仕様書の作成も仕様書モデルを参考にしながら必要に応じて作成することが求められています。

 また、端末の整備は学習者(生徒児童)に限った話ではありません。教師用の端末も、授業配信や校務に対応するため、新調や整備を進めていく必要があります。

・安定した高速ネットワーク環境の整備

 2つ目は校内ネットワークの整備です。ICTを活用した教育における動画を使った遠隔教育や、多数の生徒によるネットへの一斉接続では安定した高速のネットワークが欠かせません。

 また、特定の場所だけでなく、どの教室にいても校内ネットワークにつながる環境を整備することが重要です。ネットワーク環境の整備においては、商用基地局のない基地でも超高速のネットワーク環境を自前で利用できる、ローカル5Gの活用も検討されています。

 十分なスペックの端末を用意しても、ネットワーク環境が整っていなければICT教育で満足のいく授業の実施は難しくなります。重要なのは端末と通信環境を一体的に整備し、環境の不備によるストレスを生み出さない快適な環境を整えることです。

・学習ツールや校務のクラウド化

 3つ目は学習と校務のクラウド化です。例えば、クラウド型のアプリケーションを利用すれば、ファイルの共有や協働学習支援ツールを活用でき、授業や家庭学習の効率化につながります。

 また、クラウド化のメリットは児童生徒だけに限ったものではありません。文部科学省が想定している統合型校務支援システムを導入すれば、教務や学校事務を一括して管理できるようになり、教員の業務効率化や負担削減も実現できます。

・ICTの活用

 GIGAスクール構想における4つ目のポイントはICTの活用です。2020年度から必修化されたプログラミング教育を含め、デジタル教科書や教材、動画を駆使した授業が想定されます。

 教科書同様に、学習ソフトやツールも複数のメーカーから開発されているため、選定に迷う担当者も少なくありません。端末などハード面の整備は小中学校を中心に進んでいるものの、コンテンツを十分に使うことができず、効果が伸び悩んでいる現状も散見されます。

 GIGAスクール構想ヘの対応をきっかけに、現在使用している学習ツールやソフトの見直しを図り、より効率化や業務負担の軽減につなげる必要もあるでしょう。

・指導体制の見直し

 ICTを活用した教育方法は、従来と大きく異なるため、指導する教員のスキルやITリテラシーの向上も必須です。日頃デジタル端末に触れる機会が少ない方の場合、ICT利用の推進が業務の足かせとなることも考えられます。

 学習用端末や通信環境といったハード、学習ツールやデジタル教科書などのソフトにあわせて、ICT支援員の設置や外部人材による指導支援など、指導体制を充実させることも欠かせません。ハードとソフト、指導体制の3つを一体して整備することが重要です。

・学校外での端末利用の対応

 GIGAスクール構想は、導入した端末やアプリケーションを活用して、生徒児童ごとに最適な学びが活用できることが前提です。学校内の授業だけでなく自宅学習で端末を活用して、学びの機会を増やすことが求められています。

 しかし、ゲームや動画サイトといった学習以外のコンテンツへの接続やSNSでのトラブル、セキュリティの問題など、学校外での運用にはさまざまな課題があり、各自治体でも見解は分かれているのが実情です。端末利用に際して、どのような取り決めを作るのかも検討していく必要があります。

GIGAスクール構想は今後の教育基準となる

 2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による臨時休校の長期化をきっかけに、GIGAスクール構想への関心はこれまで以上に高まりを見せました。

 ICTを活用した教育は、今後の学校教育の基準となっていくと想定できます。文部科学省がWeb上で提示するGIGAスクール構想の端末に関する仕様書や予算などの資料を踏まえつつ、各自治体と学校とが連携を図り、早急に環境やルールを整備していくことが求められています。

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