日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

「学びの保障」と感染予防の両立。子どもの学びを支える考え方と支援策

トレンド

特集 教員の知恵袋

 2020年3月、文部科学省から新型コロナウイルスの感染対策の一環として全国の小中学校、高等学校、特別支援学校等で臨時休業を行うよう通知されました。

 臨時休業中の学習指導は教科書や参考書などの教材を活かした家庭学習ですが、そこで浮き彫りになったのが休業期間中の学習の遅れをどのように取り戻していくかという課題です。今回は文部科学省が示した休業中でも学びを止めない「学びの保障」について解説します。

「学びの保障」の基本的な考え方

 学びの保障とは、文部科学省が示す4つの考えに基づいた支援や対策を実施し、子どもたちの学びを最大限に保障することです。

 1 臨時休業中も、学びを止めない
 2 速やかに、できるところから学校での学びを再開する
 3 あらゆる手段を活用し、学びを取り戻す
 4 柔軟な対応の備えにより、学校ならではの学びを最大限確保

 緊急事態宣言は解除されたものの、今後も社会全体で継続して新型コロナウイルスの感染症対策を行いながら生きていかなければなりません。感染症対策が大切なのはいうまでもありませんが、より重視しなければならないのは子どもたちの「学びの保障」です。

文部科学省が実施する2つの施策

 「学びの保障」の基本的な考えを踏まえ、文部科学省は「効果的な学習保障のための学習指導の考え方の明確化」と「国全体の学習保障に必要な人的・物的支援」という2つの施策を実施しています。

1.「効果的な学習保障のための学習指導の考え方の明確化」効教育課程の見直しや入試に対する措置

 1つ目の施策「効果的な学習保障のための学習指導の考え方の明確化」では、指導内容や方法の見直しを行い、学校での教育活動と家庭学習を上手に組み合わせて臨機応変に対応していくことがポイントです。
 また、高等学校や大学への受験においては、実績や成績の評価方法、試験の出題内容や方法の見直しが必要といえます。

感染症防止に配慮した教育課程の見直しと学習活動

 効果的な学習保障のためには、新学習指導要領に沿った教育課程の編成が重要です。子どもたちの生きる力を育成するために、指導方法を見直し・工夫・改善を図ります。
 感染症の防止に配慮しつつ、学校での指導をより充実させるために臨時休業中の登校日設定や分散登校、時間割の編成、土曜日の活用も有効な措置です。本年度中に予定内容が終わらない場合、次年度以降を見通した教育課程の編成と学習活動の重点化を行います。

入試を控えた児童生徒への措置

 高校や大学を受験するにあたり、特定の生徒が不利益を被らないようにするための措置も必要です。
文部科学省は、各教育委員会や大学へ対して評価基準の見直しや設定、試験の出題内容や範囲の工夫などの配慮を依頼しています。

 評価の基準という点では、部活動の大会や資格試験が中止・延期になった場合、ほかの行事の実績や努力のプロセスで評価したり、調査書の記載が少ないことによる影響を受けないように配慮したりすることが必要です。

2.「国全体の学習保障に必要な人的・物的支援」教員の負担軽減や環境整備の必要性

 学習指導を充実させるためには、教員の負担軽減や学校の環境整備が欠かせません。重要なのは、人的・物的の両面から全小中高等学校等をサポートしていくことです。

人材の追加配置と必要経費のサポート

 人的体制の整備として教員や学習指導員、スクールサポートスタッフなど学習面の支援を行う人材だけでなく、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーを追加配置して心のケアを行うことも求められます。

 一方、物的体制の整備では感染症対策と学習保障の両面をカバーしなければなりません。感染症対策のための消毒液や体温計、学習保障のための教材や空き教室活用備品などの購入や対策実施のために「学校再開支援経費」の支援を予定しています。

環境整備とオンラインでの学習支援

 感染症や災害発生時でも全ての子どもたちの学びを保障するためには、1人1台端末や通信環境など、「GIGAスクール構想」における整備を加速させることが重要です。
 文部科学省は、8月をめどに優先すべき地域の全児童生徒がオンライン学習を行えるICT環境を整備することを目指しています。
 また、新型コロナウイルスの感染拡大による臨時休業を受け、文部科学省は学習支援コンテンツポータルサイト「子どもの学び応援サイト」を開設しました。
 このサイトでは、各教育委員会が各教科書に基づいて作成した家庭学習支援動画や京都教育大学の学生が作成した学習動画、NHK・放送大学が家庭学習に役立つコンテンツが随時更新され、YouTubeでも視聴が可能です。
 学校向けの調査や文部科学省から委託する各種事業を一部見送ることが決定したということも、学校全体で「学びの保障」に集中するために行う環境整備の一環といえます。

大阪府箕面市の取組

 6月12日に行われた「学びの保障」オンラインフォーラムでは、3つの事例が発表されました。ここでは大阪府箕面市の取組を紹介します。
 箕面市では臨時休業に伴い、箕面市内の小中学校教員が協力して作成した565本の授業動画をYouTube上で公開しました。しかし、各家庭にICT環境が整っているかというと、そうではありません。そこで国の第一次補正予算を活用し、タブレット端末やルーターの貸し出しが行われました。
 また、オンライン授業を実施する前に設けられたのが接続状況の確認や課題の洗い出しを行うオンラインホームルームと称した準備期間です。そういった準備や授業動画の投稿のおかげで「友達や教員とのコミュニケーションの場になった」「不登校の生徒も気軽に参加できた」といった意見も寄せられています。

求められる子どもたちの「学びの保障」と感染症対策の両立

 子どもたちの学びを保障するためには、ICT環境を含めた学習環境の設備や支援、措置などを進めていくことが肝要です。特に小学6年生・中学3年生・高校3年生などの最終学年の生徒には、優先的に対応することが求められます。

 今後、新型コロナウイルスの第二波によって再び臨時休業になった場合にも迅速に対応できるよう、環境整備とあわせて教員のオンライン学習の実施を想定した研修やトレーニングへの参加も検討する必要がありそうです。

特集 教員の知恵袋

連載