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直前 新共通テスト 議論再スタート、見直しの行方は

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 昨年、記述式問題導入と、英語民間試験の活用という改革の2本柱が見送りになった大学入学共通テスト。文科省が今年から新たな有識者の下で、再スタートのための議論を続けている。現在、検討はどのように進んでいるのか。

有識者一新、経緯を検証
経緯

 検討会議は、これまで入試改革を議論してきた会議から有識者委員の顔ぶれを大幅に変更。三島良直・東京工業大学前学長を座長に18人の委員が今年1月から月1~2回の頻度で議論している。民間試験と記述式の出題の在り方に加え、家庭の経済格差や地域格差に対する配慮も盛り込んだ提言を年内にまとめる予定だ。
 会議は、共通テストや民間試験の活用がどのような経緯で決まったのか検証することから始めた。
 政府レベルでの検討が始まったのは安倍晋三首相が設けた教育再生実行会議から。2013(平成25)年にまとめた第4次提言で、大学入学希望者に「達成度テスト(発展レベル)」の受験を求めた。提言の中には「複数回挑戦できる」「外部検定試験を活用する」「結果は1点刻みではなく段階別に表示する」などの文言が盛り込まれた。既にこの時点で共通テストの原型は出来上がっていたと言える。
 これを受けた中央教育審議会では新テストの詳細な議論はせず、14年の答申で提言内容を事実上追認。2021(令和3)年から実施する考えを示した。その後、文科省は有識者や関係者による「高大接続システム改革会議」で具体的な制度設計を話し合い、記述式は当面、国語と数学だけで導入することなどを決めた。19年には共通テストの実施方針を示した。
 一方、後に争点となる英語民間試験の活用は、13年の政府の「新成長戦略実現会議」の決定を受け、文科省内の複数の会議で検討された。従来、文科省は、高校生に「欧州言語共通参照枠(CEFR)」でA2(英検準2級)以上とする具体的な目標を設けており、その点で民間試験の活用の方針とは符合していた。
 15年に入試での活用を促す行動指針を公表。17年には英語教育の専門家による会議で各団体の試験とCEFRとの対応関係が議論され、対照表が示された。

不安払拭できず延期の声高まる

 文科省は2014(平成26)年の中央教育審議会答申からさまざまな会議を重ね、地固めしようとしてきたが、最後まで反対意見は消えなかった。
 全国高等学校長協会は、知識だけでなく思考力などを評価するという考え方自体は支持しながらも、英語の民間試験の活用や複数回実施に対して、受験料負担の増加や受験対策の早期化など理由に反対。宮本久也会長(当時)は「センター試験の見直しは一般入試とセットで議論していくことが必要だ」と求め、受験生に求める力を全て共通テストだけで測ることは難しいと指摘していた。
 専門家からの反対もあった。その急先鋒だったのが当時東京大学教授だった南風原朝和氏。「スケジュール優先で、記述問題の採点の正確性に不安が残る」「民間試験の活用は試験間の難易度調整ができているのか不透明だ」などとして文科省に再考を促していた。
 高校関係者の不安の声が高まったのは17年と18年に行われた試行調査の結果が公表されてからだった。国語の記述式問題で自己採点と実際の得点との間のズレが埋まらなかったことが理由だ。
 英語の民間試験では、団体間で実施会場や試験監督の確保にばらつきが出るなど、体制面でも問題が表面化。開始まで1年を切る中、延期や中止を求める声は日増しに高まっていった。
 昨年11月1日、萩生田光一文科相の記者会見。「自信を持って受験生の皆さんにお薦めできるシステムにはなっていないと判断せざるを得ない。これ以上決断の時期を遅らせることは混乱を一層大きくしかねない」
 英語の民間試験の活用見送りを表明したのは「英語成績提供システム」の共通IDの配布を予定していた、まさにその日だった。翌月には記述式の導入も延期が決まった。

慎重論相次ぐ「大学が自主的に」
これから

 メンバーをほぼ一新して始まった「大学入試のあり方に関する検討会議」はこれまでに10回開催されている。委員による意見発表を終え、現在は関係団体などへのヒアリングの最中だ。会議では、英語の民間試験利用も記述式導入も慎重論が続出しており、当初の案からは後退する可能性も出てきた。
 全国高等学校長協会の萩原聡会長は「大学入試はそれぞれの大学によって主体的に実施されるべきだ」と述べ、民間試験についても「英語4技能を評価する必要のある大学だけが活用すれば良い」と主張。共通テストの枠組みで評価したければ、大学入試センターが実施するよう求めた。
 国立大学協会の岡正朗・入試委員会委員長は、民間試験について「特にスピーキングを画一的に全ての国立大学の試験に課すことは、試験期間や受験生の経済的負担を考慮した場合、非常にハードルが高い」と指摘。記述式は「各大学が個別試験で課している」として共通テストの中で出題する必要性を否定した。
 日本私立大学協会の小林弘祐・常務理事も「私立大学では一般入試で民間試験の利用が進んでいる上、入学者の中でセンター試験の利用は少ない」と説明し、不要説を唱えた。こうした団体代表以外の有識者委員からも、同様の声が相次いだ。
 ただ依然、活用を望む声もある。日本私立中学高等学校連合会の吉田晋会長は、英語4技能の測定や記述式による思考力の評価の必要性は変わらないと指摘し、「家庭の困窮などで民間試験を受けられない問題こそ、本来は討議していくべき」と訴えた。そうした家庭への支援策などを固めた上で、新学習指導要領で学んだ高校生が受験する2025(令和7)年実施からの導入を求めた。
 前身の高大接続システム改革会議から委員を務めている荒瀬克己・大谷大学教授は「共通テストを大学進学希望者の資格試験にすることを望んでいた」と説明した。民間試験の活用を推進したことについては「経済格差や地域格差に対する配慮がなかったという指摘は重い」と認めた上で「(英語4技能の測定を)実施するとしたら他の方法がないように思えた」と振り返った。

主体性評価、地域差が課題

 大学入試改革は「思考力」と「英語4技能」とともに「主体性」の評価を充実させることも目指してきた。
 そのため、文科省は2月から「大学入学者選抜における多面的な評価の在り方に関する協力者会議」で議論を進めている。年内に報告をまとめ、2024(令和6)年度に実施する一般入試と総合型選抜(旧AO入試)、学校推薦型選抜(旧推薦入試)から本格的に反映させるという。
 主体性の評価方法として検討されているのが、学校の作成する調査書の見直しと、生徒本人に高校での学習成果などを書かせる資料の活用だ。
 調査書では、記載欄を細かくして教科ごとの様子や「行動の特徴・特技」「部活動、ボランティア、留学経験」「取得資格」などを記入できるようにする案が出ている。受験生の高校生活の様子を大学側が丁寧に評価する仕組みをつくりたい考えだ。
 ただ実現には課題も残る。会議では「大学がどこまで調査書を評価するのか見えない中で、記載欄を細かくすることは教員の負担感が増す」とする意見が出ている。また、そもそも記載欄の充実が主体性の評価につながるのか疑問視する声もある。一般入試での主体性評価は諦め、総合型選抜や学校推薦型選抜を充実させるという立場だ。
 これまでの会議では、ペーパーテストで合否の境にある受験生を対象に、提出資料を評価するといった大学の取り組みなどが発表されている。
 留学経験や資格の評価には、英語の民間試験と同様、家庭の経済格差や地域格差の影響も指摘されている。高校へのアンケート調査の結果を報告した全国高等学校長協会の石崎規生・大学入試対策委員長は「さまざまな活動を提供できる学校と提供できない学校もある。環境によって、生徒に不公平が生まれるようなことが懸念されている」と話した。2024年度の入試に向け、公平性・公正性の確保を巡って再び禍根を残さないためにも慎重な議論が求められる。

※「直前 新共通テスト」では、「夏の教育セミナー」と連動して来年から始まる 大学入学共通テストに向けた授業提案や最新情報を掲載します。

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