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働きながら学べる「通信教育」の魅力~教員のキャリアアップに生かせる複数免許の取得を~

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 新たな知識や技術の活用により社会の進歩や変化のスピードが速まる中、教員の資質能力向上はわが国の最重要課題として位置づけられている。そのため、文部科学省では高い専門性を備えた指導力など教員の質の向上に向けた複数免許の取得や免許状取得要件の弾力化、専科教員の拡充を推進している。こうしたなか、教員自らのスキルアップを実現する場としてより一層注目を浴びているのが、働きながら多様な教科・校種の免許を無理なく取得できる「大学通信教育」や「通信制大学院」だ。

通信制教育で複数免許を取得

 大学通信教育は、地理的、時間的制約などがあって、その実現に困難を伴う人たちの期待に応えようとする正規の大学教育課程になる。現在、44大学、27大学院、11短期大学が門戸を開放しており、全国でおよそ24万人が学んでいる。
 通信教育課程で取得できる教員免許は普通免許状で、小、中、高、特別支援学校、幼稚園教諭、養護教諭、栄養教諭の免許状があり、それぞれ専修、1種、2種に分かれている。免許状取得の代表的なものとしては、

 (1) 新たに教員免許状を取得する場合
 (2) 現在持っている免許状を上位の免許状に上進させる場合
 (3) 現在持っている免許状を基にして同校種の他の教科の免許状を取得する場合
 (4) 教職経験を有する者が隣接校種免許状を取得する場合

 の4つがある。
 学習方法は印刷教材による授業が中心で、大学から送付されたテキストなどを学習し、与えられた課題に沿って学習成果をリポートして添削指導と評価を受ける。また、足りない部分を面接授業(スクーリング)や放送授業(主に放送大学)、インターネットなどを活用したメディア授業で補うとともに、学習指導(教育・学習上の指導)が行われるのが特色で、これらの学びを通して科目ごとの試験に合格することで、単位を取得できる仕組みだ。
 特に、近年の情報通信技術の進展に伴い、メディア授業を積極的に取り入れる大学が増えており、生涯にわたって働きながら学び続ける機会を後押ししている。

学校を取り巻く環境変化への対応
 こうした大学通信教育では、現職の教員が複数免許の取得を目指して受講するケースも増えている。その理由としては、複雑化・多様化する教育課題を抱える中で、各教科等を学ぶ意義と教科等横断的な視点、学校段階間の連携・接続の視点を踏まえて教育課程を編成することが求められているからで、教員自体にも豊かな知識や識見、幅広い視野を持つことが必要となっているからだ。
 たとえば、現在、9年間を1つの括りとしてカリキュラムを編成する「小中一貫校」が全国で推進されており、教員が学校種を越えて活躍する機会が広がっている。その中で、小・中どちらの免許も取得している教員の方が学校にとっては柔軟な編成がしやすくなることから、自分自身のキャリアアップにとって有利に働くことになる。これは、すでに新卒や私立学校の採用に「複数免許の取得」が条件になっていることからも明らかだ。
 また、もう1つの背景としては、ベテラン教員の大量退職、大量採用の影響等により、教員の経験年数の均衡が顕著に崩れ始め、かつてのように先輩教員から若手教員への知識・技能の伝承をうまく図ることのできない状況があること。あるいは、中学校・高等学校では技術科、情報科のような特定教科の免許状を保有する教員が少ないことから、教員に免許外の教科を担当させる弊害も生まれているからにほかならない。

キャリアシステム構築の一翼を担う
 文部科学省は、こうした教科の免許状を保有する教員を採用できない場合に、都道府県教育委員会の許可により、校内の他教科の教員が1年に限ってその教科を担任できる「免許外教科担任制度」を設けて弾力化を図っている。しかし、「主体的で対話的な深い学び」の実現に向けて、これからの教員にはより一層各教科等の特質に応じた授業改善が求められている中で、教育の質を確保していく必要がある。
 そのための対策の1つが、教員の教職経験を考慮した免許状併有の促進になる。ある学校に一定年数以上の勤務経験のある教員が、他の学校種の普通免許状を取得しようとする場合、勤務経験年数を考慮して軽減された単位数で普通免許状を取得することが可能となっている。その場合に必要な単位は大学における通常の講義のみならず、大学や教育委員会等が文部科学大臣の認定を受けて開設する講習や公開講座においても取得可能とされている。
 したがって大学通信教育は、こうした学び続ける教員を支えるキャリアシステム構築の一翼を担う受け皿として、今後ますます需要が拡大していくことが予想されている。

教員に求められる資質能力も変化
 これからの教員には、子どもたちの学力を伸ばすスキルだけでなく、学級運営を円滑にするマネジメント力、効率的に事務処理を行える力、学校外への対応を含めたコミュニケーション力など総合的な資質が必要になる。すでに新学習指導要領の下では、英語や道徳、ICTなど新しい教科等の指導に関する専門知識を備えた教えの専門家としての側面や、アクティブ・ラーニングの視点から学習・指導方法を改善していく力が求められている。
 加えて、今後「GIGAスクール構想」によって教育のICT化が否応なく進むことで、教員の役割や求められる資質も自ずと変わっていくことになる。とりわけ「教えること」は、WEB上の教材やコンテンツを活用すれば一人ひとりの習熟度に合わせた学習が可能になることから、教員にはテクノロジーと子どもをつなぐ媒介者としての役割が重視されるようになるにちがいない。今回のコロナ禍によるオンライン対応は、まさにその資質が試される機会になったといえる。
 だからこそ、教員は今の自分の力量を知ることから始め、足りないスキルをレベルアップしていくことが大切になる。すなわち、自律的に学ぶ姿勢を持ち、時代の変化や自らのキャリアステージに応じて求められる資質能力を生涯にわたって高めていくことが必要になる。
 また、そうした教員の資質能力を育成するためには、教員研修の充実や教員養成機関との連携強化が不可欠であり、大学通信教育にもさらなる免許状取得のための講習の開発・実施が望まれているところだ。

より多くの教員のスキルアップに
 2020年度に向けた第3期教育振興基本計画では、教育を通じて生涯にわたる一人ひとりの「可能性」と「チャンス」を最大化することを今後の教育政策の中心に据えて取り組むことを掲げている。その意味でも、大学通信教育は、働きながら学び続ける社会人のニーズに応えて、大学、大学院、短期大学の教育の機会を開く役割を担っている。教員の資質能力の向上に寄与することもその1つ。今後も「大学通信教育ガイドライン」をはじめとした教育水準の向上や、新しい情報技術を駆使した教材の開発などを導入することによっ、より多くの教員のスキルアップに貢献していくことを期待したい。
 なお、私立大学通信教育協会が毎年8月に開催している「秋期合同入学説明会」は、新型コロナウイルス感染症対策を鑑み、残念ながら中止が決定している。

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