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学校トイレ改修特集「長寿命化改修」で優先的に進められるトイレ改修

19面記事

施設特集

臭い・暗い・汚いの脱3Kを実現する、快適かつ衛生的な学校トイレの洋式化を急げ

 校舎の耐震化が一段落し、現在多くの学校施設において急ピッチで進められているのが、洋式化を主体としたトイレのリニューアルだ。トイレは子どもたちが一日の大半を過ごす学校生活の中で何度も利用する重要なライフラインになる。これをより良い環境に造り変えることは、学校施設の豊かな空間づくりにとって欠かせないポイントになるだけでなく、ノロウイルスなどの感染症を防ぐことにもつながり、いち早く改善を進める必要がある。

学校はいまだ和式トイレが中心
 学校施設の老朽化に伴う長寿命化改修が求められる中で、自治体が教育環境の向上として真っ先に進めたいとしているのがトイレ改修だ。というのも、2016年時点の調査で公立小中学校の和式トイレ率はいまだ半数以上を占めており、ほとんどの家庭やオフィスが洋式化している現代の生活様式とは大きな隔たりを生んでいるからである。
 しかも、和式トイレは床に近く和式便器のまわりに大腸菌が拡散しやすいことから衛生的にも問題がある。もし、ロタウイルスの子どもが1人いれば、そこから感染爆発してしまうリスクがあり、子どもの健康を守る上でも改修を急ぐ必要があるのだ。
 こうした中、学校トイレを洋式に改修することによる効果の一つとしては、トイレを我慢することが減って学習に集中できるなど、子どもの集中力が向上することが挙げられる。2018年に文部科学省が杉並区内小学校(1校340名)に行ったアンケート結果では、トイレに行くのを我慢していた児童は過半数を超え、その理由が「汚い」「臭い」「和式トイレが嫌」など、大多数がトイレ環境によるものだった。
 つまり、和式トイレを使い慣れていない子どもにとっては、その存在自体が苦痛になっているのであり、生理現象であるトイレを我慢すれば、便秘などの健康障害も引き起こしやすくなる。
 その一方、明るいトイレに生まれ変わらせることで使いやすくなり、生活マナーも向上するなどの教育効果も大きいことが指摘されている。同アンケートでも、改修後は86%の児童がトイレを我慢しなくなったと答えており、その理由は「使いやすくなった」「明るくなった」「においがなくなった」である。

床のドライ化で衛生面を向上する
 文部科学省でもトイレの改修は学校施設全般の環境向上や機能改善にもつながり、改修の効果を期待しやすい場所と捉えており、「学校施設の長寿命化改修の手引」の中で、学校のトイレを改修する際の注意すべき点や空間づくりのヒントなどについて解説をしている。
 なかでも重要なのは、タイル貼りの湿式の床をすべてシート貼りにするなどの床面のドライ化である。学校のトイレ清掃といえば、水で洗い流す湿式清掃が一般的だったが、これを乾式清掃へ転換できる環境に改修することが求められている。なぜなら、トイレの床面がぬれたままの状態では菌が繁殖・増殖しやすく、実に乾式清掃の約460倍以上の菌が検出されているからだ。
 加えて、湿式清掃の床のタイル目地に染みついたアンモニアはにおいの原因にもなっていることから、こうしたトイレが嫌われる要因を排除する上でもドライメンテナンスが可能な施設に生まれ変わらせる必要がある。
 また、このように菌の温床は「ぬれた」所であることが分かってきたため、手洗い場においても自動水栓やハンドドライヤーなどを取り入れた、非接触を徹底する環境づくりが大切になっている。

給排水工事なども必要なことを念頭に
 もう一つ、学校のトイレ改修で注意すべき点は、配管・天井・壁面等の本体工事以外の整備に多額の費用がかかることが挙げられる。また、近年では車いす利用者など身体にハンディキャップがある人への対応や、学校開放が進んで多様な年齢層が利用する機会が多くなったことから、多目的トイレを設置する学校も多くなっている。さらに、災害時に避難所となる防災機能の向上として、体育館への整備も普及し始めている。
 したがって、その際は進入経路にスロープやエレベータを併設するなどバリアフリー対策を講じるケースも出てきているため、自治体においては予想以上に工費がかかることを踏まえ、修繕も含めた中長期計画を策定することが重要になっている。たとえば、民間企業によるプロポーザルなどを取り入れて建物全体の最適な事業方式を検討し、財政負担の平準化・効率化を図ることも一つの手段だ。
 一方、トイレの改修によって水まわりや照明を改善することで省エネ化を図り、年間の水道費や電気代を削減できるメリットもある。特に洋式トイレは和式トイレと比較して大幅に水量を抑えられるため、学校によっては年間で30万円も水道料金を削減できた例もあるほどだ。
 なお、こうしたトイレ改修にかかる財政面の手当てとしては、「長寿命化改修」の補助金がある。国の補助率は3分の1だが、地方財政措置も合わせると、実質的な地方の負担率は26・7%になるという。

子どもが自慢できるトイレのリニューアルを
 臭い・暗い・汚い、いわゆる学校トイレの3K問題は、高度成長期以降も長い間仕方のないこととして見過ごされてきた。しかし、これからの人材育成に必要な豊かな学習環境づくりや教職員が働きやすい環境が求められる中で、最も改善が必要な場所という認識が高まっている。
 その中で、せっかくトイレを改修するなら画一的に整備するのではなく、基本的な設備を整えた上で、子どもたちが自慢できるような、それぞれの地域の環境や個性に合わせたトイレに造り変えてほしい。
 グローバル化を筆頭に、社会が複雑化・多様化していく中で、教育も子どもたち一人ひとりの個性や資質を伸ばすことが求められている。学習活動の場となる学校施設にもそうした個性は認められるべきだろう。そのアイテムとしてトイレはふさわしいと言える。今後の学校トイレのリニューアルに大いに期待したい。

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