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直前 新共通テスト 検討会議、現在は

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 文科省の大学入試のあり方に関する検討会議は7月末までに12回を数えた。これまで委員以外の外部有識者や関係団体、高校生など40人近くにヒアリングを実施した。学校現場で実際に教える教員や受験を控える高校生は、既に入試改革の影響も口にした。コロナ禍による審議の遅れもあり、中間的な報告は夏以降にずれこむ見通しだ。

各大学での出題を
記述式問題の導入

 国語と数学で出題予定だった記述式問題。その導入を巡っては、運営面や技術的な面から困難だとする意見が相次いだ。
 埼玉県の高田直芳教育長は記述式について、英語の4技能試験の活用とともに、理念や方向性は学習指導要領に沿うものだと認めた上で「公正性の担保や時間的制約などの面から形骸化してしまった」と指摘。理念や理想と同時に「実現可能性」に基づく見直しを求めた。また「共通テストと各大学の個別試験とを分けて考える必要がある」と共通テストで測る力は限定的であるべきだとする考えを示した。
 石川県立金沢泉丘高校の小玉裕介教諭は、国語で本来出題すべき記述式問題は「自己判断を論理的に表現できる、解答が一つとは限らない問題だ」と述べ、共通テストの試行調査の問題とは齟齬があったと指摘した。
 同じく国語科教員の愛媛県立松山南高校の谷口みち佳教諭も「思考力・判断力・表現力を問う問題の開発には時間が必要だ」として共通テストではなく、各大学の入試の中で記述式問題を出題するよう要望。「試行調査の問題では、これらの力(思考力・判断力・表現力等)は測れない」とした。
 茨城県立土浦第一高校の井坂直樹教諭も各大学の入試の中で出題する立場を支持し「記述式問題の導入は慎重に検討を重ねてほしい」と求めた。
 一方、「リテラシー」の観点から記述式問題について語ったのが国立情報学研究所の新井紀子教授だ。
 新井教授は、構造がわずかに複雑なだけの日本語の文章でも多くの中学生が意味を正確に捉えていない、などとする調査結果を基に、中高生の一定数が教科書を正確に読めていない可能性があると指摘した。
 その上で「科目を問わず、教科書・新聞・マニュアル等高校生が普段接している文書から出題し、それが読めているか、他者に伝わる日本語を書けるかを問う」問題を出題することを提案した。
 また、当初の方法では、採点基準の設定が課題だったことを踏まえ、業者の採点はあくまで「参考採点」として示し、答案画像を受験生の出願大学に送付することも求めた。

主な意見
 ・「採点の煩雑さ、自己採点の難しさ、別解の可能性を考えると、50万人以上が受ける一斉試験で出題することは適切といえない」
 ・「採点システムや自己採点の一致率の課題は、CBTの導入などが伴わない現状では困難」
 ・「個別選抜で出題することが望ましい」
 ・「記述式問題が必要だと考えるなら、個別試験で出題するようルール化すべき」

合理的配慮で時間延長も
格差解消

 格差解消について、検討会議では高校生や大学生らが声を上げた。
 「子どもの貧困対策センターあすのば」に関わる北海道情報大学4年の深堀麻菜香さんは「北海道は地理的な事情による地域格差が大きく、受験会場や交通機関がない地域もある」「交通機関は本数が少ない上、雪によるダイヤの乱れも多く、毎年センター試験会場に遅れてしまう生徒も多数いる」と述べ、交通費補助や4技能試験を実施する際の地方会場の充実を求めた。
 兵庫県立大学附属高校2年の原真里さんは、大学の入学金の問題について言及した。「入学金の締め切りが、他の大学の合格発表前になり、多くの受験生が支払っている。なぜ入学しないのに払わなければいけないのか」「進学にかかる高いお金を国が支援してくれると、大学入試に挑戦できる高校生が増える」
 格差の解消を巡っては障害のある受験生への配慮についても聞き取りを行った。
 東京大学先端科学技術研究センターの近藤武夫准教授は、受験環境の合理的配慮について発表。特に今後生まれる試験内容の障壁として、グラフや図の多い複数の印刷資料を読んで見比べる問題が出されることで「認知的負荷」が高まる可能性がある、と指摘。試験時間の延長や問題数の変更などが必要になるという見方を示した。

主な意見
 ・「格差解消は重要だが、民間試験を導入すると一度決めたのであれば、どう予算をつけるかが重要だ」
 ・「現状の入試でも遠隔地の受験生の負担は大きい。不公平感を完全に解消することは難しい。大学が受験生の背景まで総合的に評価する形にしなければ解決できない」
 ・「センター試験で大きな問題は生じていない。英語の民間試験を活用せず、現行の形を踏襲すれば格差問題はクリアするのではないか」

センター作問の要望高まる
英語民間試験の活用

 英語民間試験については、現行通り各大学が活用を決める方法を求める意見が続出している。こうした中、4技能の測定を求める立場から要望が高まっているのが、大学入試センターなど非民間機関による試験の開発だ。
 島根県教育センターの佐藤誠教育企画部長は、英語成績提供システムは異なる目的で作成された複数の試験を活用しようとしたことで、公平性の担保が難しくなったと指摘。「共通テストの枠組みで4技能を評価するのであれば、大学入試センターに作成を求めたい」
 熊本県立八代高校の高木慎二指導教諭は「民間試験の活用ではなく、CEFRも利用せず、大学入試センターが自前で作問する。これしか全てを満足させるものはない」と訴えた。
 兵庫県立姫路西高校の藪内章彦主幹教諭は、大学入試センターによる開発を求めた上で、タブレット端末でリスニングとスピーキングの試験を実施する、スピーキングの採点はAIによる採点で公平性や公正性を担保する―と実施方法を提案した。
 学習塾業界からも広く意見を求め、東進ハイスクールなどを運営するナガセの永瀬昭幸社長も大学入試センターによる開発を要望した。新学習指導要領に対応した試験が始まる2025(令和7)年1月の試験を目標に「まずはオンラインのみでも開発してほしい」と求めた。
 旺文社の石井塁氏は、大学が民間試験を導入しやすくなるよう、国が成績をオンライン提供する仕組みをつくることを提案した。
 また京都工芸繊維大学の羽藤由美教授は、個々の大学がスピーキングテストを導入することはほぼ不可能だとして「長期的に考えることができれば中国や英国のような試験機関をつくることも可能だ」と述べた。
 関係者によると、民間試験の活用を模索していた早い段階では、複数の団体が共同で組織を立ち上げ、一つの試験を開発する案が持ち上がっていた。ただ、実現に向けた課題が解消できず、複数の試験を選ぶ方式を取らざるを得なくなったという。

主な意見
 ・「民間試験に特化した塾や講座が少ない地方部では、生徒や保護者の要望を受け、高校の授業の中で特定の検定試験の対策をすることになってしまう」
 ・「画一的仕組みをつくるより多様な利用を促進し、大学が責任を持って利用する形にすべき」
 ・「大学が必要な定員枠で活用すればよい。ただ大学任せでは活用が進まないので、何らかの国の支援が必要」
 ・「英語力はもともと一定の幅で評価すべきもの。試験の段階別評価を受験資格として扱う形が最も適している」

国の支援、促進か介入か
高校・大学教育と大学入試

 今回の大学入試改革の背景には、高校教育の改善を促す狙いがあった。そこで課題とされたのが文法訳読を重視した英語の問題であり、マーク式の問題だった。その改革の柱だった民間試験の活用や記述式問題の導入が覆され、今後の高校教育と大学入試の関係はどうあるべきなのか。
 東京大学名誉教授の南風原朝和氏は、英語4技能について「大学・学部によって必要としないところもある」。各大学の民間試験の活用を国が支援することについて「介入や誘導とならないように大学の主体性を尊重してほしい」と求めた。
 また、東京大学大学院の中村高康教授は、主体性評価について「生活全体を入試に絡めて考えざるを得なくなる弊害が生まれる」と指摘し、「入試で教育を変えようとすると必ずゆがむ」と入試改革に慎重な姿勢を示した。
 一方、高校側からは一定の期待を寄せる声も上がった。兵庫県立姫路西高校の藪内主幹教諭は、これまで会議で言われた「大学入試で高校の教育を変えることは手段と目的の取り違いだ」とする意見に「考え方は理想的だが『入試が~だから授業内容を~する』というのが現場の実態だ」と率直に話し、英語4技能試験の利用拡大を文科省が後押しすることを求めた。
 秋田県立秋田北高校の杉田道子教諭は、大学の個別入試によって高校生の英語力が伸びる「テストの波及効果」について話した。
 政治や社会の問題に若者の声を届けている「日本若者協議会」会員で、山口県立岩国高校3年の幸田飛美花さんは、周囲の3年生の声を報告。英語民間試験にも記述式問題にも反対する生徒の方が圧倒的に多かったとする一方、入試改革で授業が変わったという声も紹介した。
 「全体にテストや課題などで記述式の問題が増えた」「授業でデータを見比べることが増えた」という声とともに「授業はどうしても『入試のための授業』になる。入試に良い変化があると授業も良くなる」と期待する声もあったという。

主な意見
 ・「入試によって高校教育に影響を与えるという発想は必ずしも悪いことではない」
 ・「入試改革で教育を変えるという発想自体、手段と目的の取り違えである」
 ・「英語4技能に限れば、入試を変えずに高校教育を変えることは困難」

 ※「直前 新共通テスト」では、「夏の教育セミナー」と連動して来年から始まる大学入学共通テストに向けた授業提案や最新情報を掲載します。

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