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名歌と名句の不思議、楽しさ、面白さ

14面記事

書評

武馬 久仁裕 編著
多彩なキーワードで鑑賞深まる

 自宅にいることが多い昨今、ゆったりと名歌、名句を楽しむ極上の時間を持ちたいものだ。ぜひお薦めしたい書である。
 本書は、古今の名歌21首と、名句47句を厳選し、それぞれ、「訳、鑑賞、面白さ、こんな人」の順に紹介している。
 まず、「訳」が分かりやすい。「鑑賞」は、和歌(短歌)や俳句を読む際の眼目、見どころ等を述べ、「面白さ」では、表現の在り方の面白さを説明している。味わい深い内容だ。
 作品によっては、「こんな歌(句)も」や、「もう一句」として、同人の別の歌や句が紹介されており、読みが広がる。
 本書の特徴であり、圧巻であると思うのは、名歌、名句を鑑賞する助けとなるキーワードを、それぞれの作品に付けていることである。
 一例を挙げれば、与謝蕪村の俳句「夏河を越すうれしさよ手に草履」のキーワードは、「別の人になる」である。なぜなのか。また、「夏河」は、なぜ「夏川」ではないのか。
 暑い夏の昼間、冷たい水の流れをはだしで渡るうれしさを詠んだものである。編著者によると、この句は「子どもの心になって」作られている。「うれしさよ」というのは、子どもの心そのものである。そして、小さな子どもにとっては、小川も河なのだ!
 作品ごとの多彩なキーワードが、本書をますます面白いものにしている。
(1870円 黎明書房)
(谷 智子・高知市教育委員会委員)

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