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直前 新共通テスト 資料に基づく説明、時代超えたテーマ

8面記事

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高橋 哲 渋谷教育学園幕張中学高校教諭(左)と磯谷 正行 愛知県立安城高校教諭(右)

授業提案 歴史

 歴史では、歴史的事象の意味や相互の関連について総合的に考察する力が求められる。資料に基づき根拠を示したり、時代・地域を超えて特定のテーマについて考えたりする問題が出題される見通しだ。

問いを精選、異なる視点持たせる
高橋 哲 渋谷教育学園幕張中学高校教諭

 初めての共通テストに備える年を迎えたが、学校休業中は「グーグルクラスルーム」での授業配信に限られた。例年より授業時数の少ない高3では、共通テストを意識した「問い」の精選に専念することとした。
 そのため本年度は書画カメラ・板書・プリントの解答例をファイルして教室で共有するこれまでの授業スタイルを改めた。板書はスマホで撮影すればよい。授業中は問いやグラフ・史料の読解に集中してほしいと伝えた。
 その代わり、プリントを事前にデータで配信し、授業終了後には解答例を入れたPDF資料と授業で使ったプレゼンテーションソフトのスライドも配信した。グーグルクラスルームは、学校再開後も継続した。これで個別の質問や論述解答の添削、小テストの配信は授業外でもできるようになった。
 試行調査からうかがえる共通テストの出題の考え方は、換言すれば「歴史は単なる暗記科目ではない」ということだろう。形式の奇抜さに目を奪われがちだが、一問一答的な暗記の集積では、正答に至らないことを如実に示している。これを問いを設ける前提にした。

 (1) 現在と対比する
 明治憲法の授業について考えると、現在の視点から旧憲法の不備を明らかにすることも大切だが、当時としては画期的だった視点から問いを出すことも必要である。
 例えば「東アジア初の立憲国家」から「東」以外に先行事例があることを想起させる。トルコのミドハト憲法の存在や憲法と議会の停止の相違について、順に示して考えさせる。生徒からは「なぜ薩長藩閥が権力者を縛る憲法を創るのか」という疑問が出た。条約改正上、立憲体制の確立では利害が一致する点を踏まえ、当時の革新性と現行憲法と比較した問題点(時代の限界性)について諸条文を解説した。

 (2) 画期を見極める
 試行調査にも正誤問題は多い。正誤判定では文章に矛盾がない場合、異なる時代を示す(ワープしている)ことが多いが、矛盾がないと正文と判断してしまう傾向が強い。そこで前近代では世紀の前・後半、近代以降では10年単位での時代の特徴を、前後の時代と対比する問いを用意した。歴史では画期(分水嶺・転換点)となる時期区分の見極めが肝要で、ある事件などが持つ歴史的意義の気付きにつながる。

 (3) 置換と同義反復
 自由民権運動の授業で「国会期成同盟は集会条例」で、「三大事件建白運動は保安条例」で弾圧されたと説明するだけでは具体の羅列にすぎない。保安条例の「虞アリト認ムル」部分を生徒は簡単に見逃す。「○○君は△△しそうだから逮捕ね」という具体を示すと、保安条例は予防法という抽象化が可能になる。
 併せて「法律の範囲内」での自由を認めた明治憲法29条は、政府による後出しの立法で自由剥奪が合憲である時代性を指摘できるが、さらに同義反復する「問い」を用意した。
 「法律以外で自由を奪えない」つまり条例での自由の抑制は、今後は違憲となることまで問いを深めた。抽象的な表現こそ、同義反復でそしゃくすることにより、別の視点での立論につながる。

 (4) 歴史名辞以外に注目
 植木枝盛の「東洋大日本国国憲按」が革命権や武力抵抗権を認めているという特殊性は生徒も読み取れる。そこで他にも伊藤博文(政府)が許せない部分があるという「問い」を用意した。
 中央集権と主権在君の欽定憲法を企図する伊藤にとって、アメリカを想起させる「連邦」と、臣民と対極にある「人民」という用語自体が認め難いことはなかなか気付きにくい。教科書の表現法を授業中に「問う」ことは、歴史名辞の羅列よりも重要である。
 つまるところ授業の準備とは授業方法論よりも、授業中に共に考察可能な「問い」を取捨し、洗練させていく営みといえるだろう。

参考文献・シンポジウム(予定)
 (1) 高橋哲 『全レベル問題集日本史(2)共通テスト編』(旺文社,2020年)
 (2) 高橋哲 「日本史論述問題についての取り組み」(山川出版社「歴史と地理」692,2016年)
 (3) 高橋哲 『日本史の論点―論述力を鍛えるトピック60』(共著・駿台文庫,2018年)
 (4) 日本学術会議公開シンポジウム(3月に延期。10月以降に実施予定)
「大学入試改革と歴史系科目の課題」(仮)
(高橋哲「日本史入試問題を高校教員はどう分析し,対応を図っているか―高校教員側の反省も含めて」)

クラス全体で資料を吟味し議論
磯谷 正行 愛知県立安城高校教諭

 来年1月、センター試験に代わる共通テストが実施される。既に2回試行調査が実施され、「問題作成方針」も公表されている。
 それによると、「歴史に関わる事象を多面的・多角的に考察する過程を重視する」とあり、個別の事実に関する知識だけではなく、「歴史的事象の意味や意義、特色や相互の関連等について総合的に考察する能力を求める」とある。
 問題作成の例として

 (1) 教科書で扱われていない初見の資料から得られる情報と、授業で学んだ知識を関連付ける問題
 (2) 仮説を立て資料に基づいて根拠を示したり、検証したりする問題
 (3) 歴史の展開を考察したり、時代や地域を超えて特定テーマについて考察したりする問題

 ―などとある。
 今回の共通テストは、一問一答的な知識や従来の講義一辺倒の授業ではなく、資料に基づいて生徒自ら「問い」を立てたり、資料を基にして生徒同士が「主体的・対話的で深い学び」を構築したりできる授業設計を求めている。
 そのためには、限られた授業時間を効果的に構成し、扱う歴史用語を精選する必要がある。また概念用語は資料に当たりながら理解したり、歴史用語間の関連を自分の言葉で表現したりする時間を十分取る必要がある。
 ここで授業例を二つ提案してみる。
 一つは「なぜ唐代の王侯墓の壁画にビザンツ帝国からの使節が描かれているのか」を考える授業である。
 中国の唐代の学習は「国際性」がキーワードで、東アジア世界に「冊封=朝貢体制」が形成されたのを理解することが基本である。
 それを踏まえ、さらに発展させるために章懐太子(高宗と則天武后の六男)の墓の壁画を考察の対象資料として取り上げる。資料から新羅、靺鞨人に加えて、ビザンツ帝国からも使節が訪れていることを確認し、なぜビザンツ帝国の使節が長安を訪れているのか考える授業を構成した。
 生徒からは、これまでの学習から「ネストリウス派キリスト教の布教に来たのではないか」とか「養蚕技術の習得や絹織物の交易交渉のためではないか」といった既習知識と結び付けた解釈が出される。
 そこで授業者からは『旧唐書』やビザンツ史関連の年表、7世紀後半の世界地図などの資料を提示し、イスラーム勢力の侵攻に対する救援要請だったのではないか、という新たな解釈を示す。
 もう一つが「『滑稽欧亜外交地図』の出版のねらいは何であったのか」を考える授業である。
 最初に日露戦争の勃発直後、1904(明治37)年2月に刊行された風刺画を使い、19世紀後半から日露戦争に至るまでのロシアの南下政策(膨張政策)を地域ごとに復習し、当時の国際関係を概観する。
 次に、グループで風刺画下部に記載のある「緒言」「説明」を読み取るなどして、この風刺画の出版目的をグループごとに議論させ、発表させる。
 強欲なロシアへの恐怖心・国民への警告・国威発揚などを挙げるグループや、参戦へ国民を誘導するプロパガンダである、といった見方を示すグループ、左上の英語の説明文から「諸外国へのアピール」を狙ったものではないか、と考えたグループもあった。
 近現代史の学習は多くの高校で3年生の後半期、共通テストの直前になる。そのため授業のペースを速め、歴史用語の詰め込み的な授業になりがちである。しかし一つの資料に立ち止まり、クラス全体で資料の意味や意義を吟味し、根拠に基づき議論することで、資料に対する多様な見方・考え方の存在に気付く。歴史リテラシーが身に付き、歴史や資料に対する興味・関心も高まる。これこそが、今次の学習指導要領改訂や大学入試改革の目指すところだろう。

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